ラシク・インタビューvol.87
Kids Experience Designer 植野真由子さん
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ここ数年"アクティブ・ラーニング"が声高になり久しいですが、解釈の幅も広く(今年の学習指導要領改定案では「主体的・対話的で深い学び」という定義に)、地域や学校、先生によっても充実度はさまざまなのが実状です。
そこで「もっと子どもたちの自発的な学びと行動力に特化したプログラムを作りたい!」と立ち上がった女性がいらっしゃいました。Kids Experience Designer植野真由子さんです。
植野さんは小学4年生、1年生、3歳児の三姉妹のママで(現在4人目を妊娠中)、今年3月にトヨタ自動車を退職し(最終出社は昨年12月末)フリーランスに。そして準備期間1ヶ月でこのSocial Kids Action Projectを立ち上げました。
このSKAPは植野さんと放課後NPOアフタースクールとNPO法人二枚目の名刺の共同主催で、さらには行政と民間企業も協業している一大プロジェクト。1月末からのトライアルを経て、この夏休みに記念すべき第一回が開催されます。
「小学生の力で原宿の街を変えていこう!」と題された壮大なワークショップの誕生秘話を伺いました。
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純粋に子どもの成長に関わるプログラムを作りたかった
原動力はズバリ「娘のためです」
編集部:大企業に勤務し3人のお子さまを育てられていて、すでにペースがつかめていたと思うのですが、そこでフリーランスになるのは勇気がいりませんでしたか?
植野真由子さん(以下、植野さん):トヨタでは15年働きましたが、制度ももちろんしっかりしていますし(2歳の誕生日まで育休取得が可能で、時短勤務もきっちりあり)、とても良い会社でした。
それでも子どもが3人いると順番に熱も出しますし、総合職で働きながら続けるのは厳しいところがありました。
部署異動など、会社も考慮してくださったのですが、以前と比べれば通勤時間が少し長くなったんです。すると帰りが遅くなり、習い事に連れて行けなくなり...15〜20分のことなのですが、毎日積み重なると大きいなぁと。
理由はいろいろありますが、これも一つのきっかけですね。
編集部:前職場でも社会貢献的なことを?
植野さん:退職するまでの10年は 20〜30年後の未来を考える『未来プロジェクト室』に所属していました。
そこでラスト1年弱、子どもに対するプロジェクトを進め、小さな子を対象とした創造性を育むプログラムを"車"と絡めて実施していました。軌道に乗り始めたので、中高生向けのプログラムを最後に作り退職しました。
編集部:退職しようという時期と今回のプログラムの構想時期が重なったのでしょうか?
植野さん:最初は仕事を続けながら立ち上げようと思っていたのですが、実際にやってみると土日だけでは終わらず...辞めてよかったです(苦笑)。
先に構想はあったので冬休みに資料を作り、退職して1月末に新しいプログラムを立ち上げました。その時にいろんな人に会って、トライアルを始めたので、実際の準備期間は一ヶ月でした。
編集部:一ヶ月ですか⁈ NPOと組まれて...手堅いですね!
植野さん:『NPO法人二枚目の名刺』が子どもに向けた取り組みをしたいと考えていたそうで、子どもに関する専門家である『放課後NPOアフタースクール』に声をかけたのですが、誰が何をやるの?という話になり...そこで私が手をあげました。
編集部:それにしても3人の子育てをしながら、大企業で働きながら、土日に新しいプログラムを立ち上げよう...ってすごいパワーだと思うのですがその源泉は?
植野さん:娘のためです。なので、頑張れる。
アイデア自体は前職の時、いろんな企業の方が集まって、一緒に未来についてアイデア出しをするようなワークショップに参加している際に「こういう事こそ、子どもたちに経験させるべきではないか?」と思ったのが始まりです。
元々ワークショップが好きで、子どもとはたくさん参加していたのですが、最近、長女に行かせたいワークショップがなくなってきて・・・。1〜2時間で終わってしまい、なんだか物足りない。
もう少し真剣に、長時間本気で取り組めるものもあってもいいのでは? と思うようになりました。高校生や大学生向けにはあるのですが、小学生向けにはない。それなら作ってしまおう、と。
アイデア出しに街頭インタビュー、激論大会に最終プレゼン...
初めて続きの5日間は、まさにアクティブ・ラーニング!
お店での街頭インタビューの様子
編集部:では実際に、この夏休みに実施するワークショップの概要を教えてください。
植野さん:今の子どもたちは大人と対話することが少ないので、街の人と実際に話をして自分の住んでいる街の課題を見つけ、自分で解決策を考えて区長に提案するというのが一連の活動となります。
子ども目線で大人に向けて本気で提案し、大人もそれを本気で聞いて街づくりに本気で反映させることがねらいです。
今回は渋谷区の小学生を対象に原宿の街にフォーカスしていますが、実際にはどの街でもできるようなプログラムになっていて、全5日間の行程。渋谷区在住の小学生4年生〜6年生12名で行います。
編集部:5日間、実際にはどの様なフィールドワークを?
植野さん:1日目は『原宿を使うのはどんな人?』というテーマで、まずは1分間アイデア出しゲームでスタートします。その後「それぞれの人がどういう街だと嬉しい?」など意見交換。
ゲストスピーチとして企業の方や町づくり団体の方に「原宿の街」について講演をして頂き、実際に街に出て歩いてみます。すると、いつもの景色が全然違って見えてくることに気がつき、それらをまたシェアして...最後は翌日からのインタビューの練習をします。
2日目は『原宿で暮らす人はどんな街にしたい?』商店街、小学校、保育園、消防団、警察署、郵便団など地元に密着している施設へ、実際に自分たちで話を伺いに行きます。その後みんなで振り返って、それぞれ1枚の紙にまとめてアイデアを発表し合います。
3日目は『原宿を訪れる人はどんな街にしたい?』表参道ヒルズ、ラフォーレ原宿、ビームスやTHE原宿ファッションみたいな、普段小学生が行かない様なお店にも伺う他、突撃インタビューもします。最後、アイデアを一枚にまとめて発表します。
4日目はビジョンの作成に入ります。ゲストスピーチとして『渋谷区はどんな街にしようとしている?』というテーマで渋谷区子ども青少年課の方にお話いただき、その後に『みんなはどういう街にしたい?』とグループワークを行います。
前回行った時はここがものすごい大激論でした! 相反する意見が出た時、一つのビジョンにするためにはどう折り合いをつけ、どこで着地させるか...!でも子どもたちはこのバトルがめちゃくちゃ楽しかったそうです。
編集部:すごいですね!自分の意見をぶつけ合え、それが楽しめる環境ってあまりないですから。
植野さん:アイデアも夢物語ではなくある程度現実的なものを出して欲しいので「あなたはどういうアクションをとる?」 「誰に何をお願いする?」など具体策も考えます。
その後「友達のアイデアをより良くするにはどうする?」とアドバイスをしあって全体の提案をより良いものにしていきます。
最終日は午前中にみんなでプレゼン資料作り。模造紙1枚にまとめるのですが「みんなが見たくなる資料って?」「色は?絵は?」動画で自分のプレゼンも確認します。そして午後からはいよいよ渋谷区長はじめ、ご協力頂いた企業の方々、インタビューに応じていただいた方、保護者の方々を招いて発表本番となります。
編集部:5日間、本当にみっちり濃密なプログラムですね。しかも無料なのですね!
植野さん:企業から少しずつ協賛を頂いています。皆さんとても協力的で、感謝しています。渋谷区がとても前向きで「ぜひやってほしい」と。トライアルの時から少しずつ巻き込んで、発表には区長にも来て頂きました。
その後、渋谷区の事業として取り組むことになり私も非常勤職員として活動できることに。渋谷区は区長、副区長が民間出身なのでとても先進的です。変えなければいけない!という思いが強いので。
編集部:半年で!すごいトントン拍子ですね。それぐらい求められていたプロジェクトだということでしょうね。
植野さん:アイデアとしてはあったと思うのですが、実際に行動に移す人がいなかったのではないでしょうか。
「○も×もない、だからなんでも言っていいんだよ!」
自分が考え行動すれば大人も動いてくれる、という実体験を
編集部:実際の子どもたちの反応は、見ていてどうでしたか?
植野さん:これがすごく成長したのです! 1日目はまだ様子見ですよね「ここで失敗はないからチャレンジすれば全て花まる。思いついたことは全部言っていいんだよ!」と冒頭に伝えます。
するとだんだんそういう空気になって、言いたいことを言い出せる様になります。3日目ぐらいになると随分仲良しになり、4日目ぐらいになると議論して「ぶつかっても大丈夫」という信頼関係ができるのです。
編集部:一番何が変わったと思いますか?
植野さん:断然、話し方が変わりました。整理して話せるようになったり、進行できるようになったり、急な質問にももじもじせず答えられたり...。
最終日に大勢の大人の前で発表した時、みんな物怖じせず、時々笑顔も見せながら、自分の言葉で堂々と発表できていたのが本当に素晴らしかった。最後に感想を振ってみたのですが、それにも自分の言葉でしっかり語ってくれて感動しました。
編集部:5日間で素晴らしいですね。今の若者が選挙に行かない理由として「行っても変えられない」と思っているからと言われていますが、小学生の頃に、区長に会って自分の意見を提案できるって実体験があれば...選挙にも行きますよね。
植野さん:そうなのです。自分が行動すれば大人も聞いてくれるし、世の中変えられるってことを小学生の頃から実体験として持っていて欲しいのです。「どうせ言っても変わらないよ」となると、何か良いアイデアを思いついてもプラスの方向に向かなくなってしまう。
編集部:確かに。あと小学生という時期は、素直に聞いて行動できますものね。
植野さん:中高校生になってからじゃ遅いのです。とは言いつつ、アドバンスコースを3年後に作りたいとも思っていますが。プログラムの経験者として同じコースに入ってもらって、テーブルファシリテーターの役割を体験してもらいます。後、提案の実現化に重きを置いたプログラムにしたいな、と。
編集部:プロジェクトの導入部分の『ここでは○も×もない、全て花まる』というところが素敵です。子どもの発想を自由に、のびのびさせてくれますよね!ワークショップの間、親御さんは?
植野さん:親は一切入りません。親の目があるとのびのびしないので、お弁当持参で送り迎えだけお願いしています。ワークショップの間はカメラマンが密着して写真を撮っているので、最終日にスライドショーを見せ様子を伝えます。
親御さんの持つ我が子の印象と私が接した上で持つ印象がぜんぜん違うんですよ。親は「人見知りで...」とおっしゃっている子が「いやいや、最初から一番積極的に発言していましたよ」という風に。
編集部:親にとってもよい気づきになりますね。我が子の真剣な表情とか嬉しそうな表情をスライドショーで見たら泣きそうですね...!
今後の人生、子どもたちにかけたい!
まだまだ広がるアクション・ソーシャル・キッズ・プロジェクト
渋谷区長も参加した中での子どもたちのプレゼンテーション
編集部:植野さんはいつから子どもや教育分野に興味があったのですか?
植野さん:自分の子供が出来てからですね。子供ってこんなにも可愛いのかって。そして、長女の時に素晴らしい保育園との出会いがあり「先生によってこんなにも子どもって伸びるの?」と思えるぐらい娘を成長させてくれました。
その時、子どもの教育ってやりがいもあるし、有意義な時間だなぁと。この先生との出会いが、私も子ども達の成長を見届けたい、と思ったきっかけです。
編集部:そこから何か勉強を始められた?
植野さん:子ども向けに活動するとなった時に資格がないと預ける親御さんも心配かと思ったので保育士の資格をとりました。また、その前にも四谷にある「東京おもちゃ美術館」でおもちゃコンサルタントや、相手を喜ばせる意味でのバースデープランナーなど。あとは自分の興味のまま文献を読んで研究しました。
編集部:ワークショップやフィールドワークはたくさん経験されてますしね。正直、こういう体験こそ学校でもっとやってほしい! と思うのですが...。
植野さん:渋谷区の公立小学校はがんばっている方だと思います。アクティブ・ラーニングって言われますけど、やっぱり学校ではやらなくてはならないカリキュラムが多く、先生たちがものすごく忙しい。
このプログラムの様に、朝から晩まで5日間もかけてみっちり、とはいかないかと。あと学校だとクラス単位で先生が1〜2人しかつかないと思いますが、ここでは3人に対して2人の大人が付きますのでかなり手厚い環境です。
また教育委員会の方から言われたのが、学校の授業として区長に何かを提案するのは、政治活動になるのでNGだそうです。だから民間で実行してくれて嬉しいです、と。
編集部:そういう事情もあるのですね。先ほどの実現フェーズもあると伺いましたが、ほかにも構想はありますか?
植野さん:1日完結の「キャリアプロジェクト」プログラムを作ろうと思っています。例えば、トヨタ自動車ってどんな会社?というテーマで いろんな役割の人たちに会って話を聞く。
それぞれがどういう想いで仕事をしているのか、というのを知ってほしい。
それから自分に返って、「自分って何が好き?何が得意?」「どういう仕事に就きたい?」などを考えさせるプログラムを小学生対象に作りたいな、と。なるべく小さいうちから自分の強みを知ってほしいので。
編集部:1日で終わるのも良いですね。まさにリアルキッザニア!
植野さん:プログラムが決まっている中でのお仕事体験ではなく、自分たちの頭で考えて行動する、そこを大切にしたい。
編集部:4人目のお子さんが小学生になるときには、また変わっていそうですね。
植野さん:子ども相手だからこそ、規模は小さくてもよいから、ただ手を抜くことだけは絶対したくない。今後の人生、何にかけるって思った時、「子どもにかけたい!」って思うので。
編集部:それにしても仕事も子育ても楽しんでいらっしゃいますね! ストレスは?
植野さん:ストレスは...あまりないですね。会社時代に比べれば『地域の子ども達のため』とはっきり意味がわかっているので。それに、今は自分で時間を管理できるので、フリーランスってとてもありがたいです。
編集部:素晴らしい! この夏休みのプログラム発表会、ぜひ聞かせていただきます。
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子どもたちの成長を願う思い、その一心で素晴らしいプログラムを作り上げた植野さん。4人目を妊娠しているとは思えないほどのバイタリティです。彼女のキラキラとした笑顔で子どもたちの成長を喜ぶお話を聞いていると、未来が本当に楽しみに思えて仕方ありません。
この夏、参加する子どもたちはどんな成長を遂げるのでしょうか? インタビューをしていて私も子どもたちの変化を取材したくなり、5日間を密着することにしました。ということで続きは...SKAPレポートをお楽しみに。
【植野真由子さんプロフィール】
慶応義塾大学卒。前職トヨタ自動車㈱未来プロジェクト室にて、子供の創造性を育むプロジェクト「くるま育」のプロジェクトリーダーを務める。 2017年1月に「Social Kids Action Project」を立上げ、4月からフリーランスに。7月からは渋谷区非常勤職員としても活動。3児の母。 HP:Social Kids Action Project
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