インテリジェントエイヤ!とKKDD(=勘と経験と度胸とど根性)と

不確実性を、統計確率でも客観確率でもなく人間の主観で読むことで一向に構わないのです。
Office workers walk on a pedestrian crossing during a lunch break in Tokyo Monday, June 8, 2015. Japan's economy grew at a faster pace than initially estimated in the January-March quarter on stronger consumer and corporate spending, though economists anticipate slower growth in April-June. The 3.9 percent annualized growth rate announced Monday by the Cabinet Office was sharply higher than the 2.4 percent pace initially reported. (AP Photo/Shizuo Kambayashi)
Office workers walk on a pedestrian crossing during a lunch break in Tokyo Monday, June 8, 2015. Japan's economy grew at a faster pace than initially estimated in the January-March quarter on stronger consumer and corporate spending, though economists anticipate slower growth in April-June. The 3.9 percent annualized growth rate announced Monday by the Cabinet Office was sharply higher than the 2.4 percent pace initially reported. (AP Photo/Shizuo Kambayashi)
ASSOCIATED PRESS

第3回【スタンフォード流、インテリジェントエイヤ!で日本企業とビジネスマンを強くする!】

「インテリジェントエイヤ!」とは、「KKDD(=勘と経験と度胸とど根性)」の単なるエイヤ!ではなく、極めて知的レベルの高いエイヤ!のことです。

過去の記事(第1回:その判断、単なる「エイヤ!」で決めていいんですか?)でも問題提起をしてきたところですが、日本中の企業がインテリジェントに意思決定をして、やりきる力として思いっきり「エイヤ!」をすれば、ビジネスの成功確率は格段に上がっていくでしょう。

不確実性の読みの「インテリジェントえいやー」:主観的確率

これから詳しくご説明しますが、「インテリジェントエイヤ!」は、これも私の造語である「インテリジェントえいやー」と「パッショネットエイヤ!」の合成語です。

まず、「インテリジェントえいやー」について説明します。もう感じておられると思いますが、「えいやー」がひらがなでかつ「やー」とのばすという、少し気の抜けたような表記になっています。

どんなによく調べ考えても、神ならぬ身としては、将来のことについて「必ずこうなる」といえる唯一つのシナリオを正確に読むことはできませんし、そもそもそんなシナリオが読めるはずだと考えるのは、大いなる勘違いかつ大変危険です。

一方、「皆目見当がつかないので、不確実性の読みをするのを諦めてしまう」ことはできませんし、その必要もありません。

そこで、過去や現在の状況をしっかり調べ考え尽くした上での、その項目についての専門家による極めて知的な読みを、複数のシナリオとその発生確率という形で捉えるのが、私がスタンフォード大学で学んだ「主観的確率」という考え方です。

不確実性を、統計確率でも客観確率でもなく人間の主観で読むことで一向に構わないのです。

学術的には「主観的確率」と呼ばれていますが、つまるところそれは、いろいろ調べ考え尽くしたうえでの知的レベルの高い(=インテリジェントな)、しかし最後は「うーん、およそこんなもんじゃないかな。。。」という「えいやー」でしょう、ということで、「インテリジェントえいやー」と名づけたわけです。

価値判断のトレードオフの「パッショネットエイヤ!」

個人でも企業でも、大ていは複数の価値判断尺度に照らして各選択肢を測定・評価します。

どの価値判断尺度でみてもこの案がベスト、という選択肢が見つかればよいのですが、そうでない場合は、各判断尺度のトレードオフを考慮して意思決定を行うことになります。

その際、トレードオフ判断は、要は複数の価値判断尺度に照らして自分はどの選択肢/シナリオがトータルとして一番嬉しいんだろう、選択肢の実行に必要な経営資源を差し引いた正味の全体的な嬉しさ、すなわち「トータル嬉しさ総額:Net Pleasure Value (NPV)」がどれくらいだろうか、・・・

そのようなことを自分に問うたうえで、ある種、自分のパッション・情熱ないし魂のありどころがどのへんにあるのか、エイヤ!と判断することになります。

そこで、これを「パッショネットエイヤ!」と名づけました。

(ちなみに既にお分かりの方もおられるかもしれませんが、「Net Pleasure Value (NPV)」は、「キャッシュフローの正味現在価値(NPV: Net Present Value)=お金の持つ時間的価値を考慮に入れた、差し引き儲かり総額)」をもじった、やはり私の造語です。)

いよいよ「インテリジェントエイヤ!」

私は、「インテリジェントえいやー」+「パッショネットエイヤ!」⇒「インテリジェントエイヤ!」が、最後の決め方としてベストだと考えています。

巷でいわれる「KKDD(=勘と経験と度胸とど根性)」の単なるエイヤ!の対極にある、きわめて知的レベルの高いエイヤ!になります。

ここでいう「インテリジェント」は、「インテリジェントえいやー」という言葉のもとになった不確実性の取り扱いのみならず、そもそも選択肢と不確実要因と価値判断尺度という基本3要素に分けて考え、それらをディシジョンツリーを使って構造化して行くプロセス全体についての「知性」を含めてのものです。

熟断思考は悩みの本質を浮き彫りにする!

「インテリジェントエイヤ!」のインテリジェントには、さらに別の意味合いもあります。

最近あった事例ですが、前回紹介したケースとは違って、熟断思考によって、当初本人が悩みだと認識していたことが、実はそれほど重要な問題でなく、むしろ全く別のことに頭と心を振り向けるべきだ、ということが見えてきたことがあります。

消費税率が5%から8%に上がる少し前のこと、あるビジネスマンの方が、消費税が上がる前に住宅を購入すべきかどうかについて悩んでいました。

・税率アップの前に購入すれば余分な税金を払わずにすむ。

・一方、半年以内に海外転勤の可能性があり、せっかく税率アップの前に住宅購入をしても、転勤になると買ったばかりの新居に住めなくなってしまう。

ちなみに海外転勤自体は、この方にとっては、グローバルなキャリアを積むために前から希望していたことであり望ましいことだ、という当初の認識だったのですが、その後の熟断思考を使ったやり取りの中で、海外転勤の不確実性に加えて、海外赴任になっ た際に家族が一緒についてきてくれるかどうかの不確実要因も(この方の場合、ついてきてくれる方が嬉しいのですが)、重要だということが明らかになってき ました。

そしてディシジョンツリー分析の結果、消費税率アップ前に住宅購入するか否かの選択肢の違いよりも、海外転勤になった際に家族がついてきてくれるか否かの不確実要因のシナリオの違いの方が、『トータル嬉しさ総額』に対する影響は格段に大きい、ということが判明しました。

結論としては、

・「消費税率アップの前に住宅購入するか否か」という課題で悩むより、「海外転勤になった場合に家族が一緒についてきてくれるようにするにはどうしたらよいか」という課題に頭を使った方が良い、

・したがって、直ちに後者の課題に関する情報を収集したり打ち手を考えて行きたい

ということになりました。

このように、熟断思考には、悩みを解決するという役立ちに加えて、真の悩みや問題の発見につながる、という効能もあるのです。

以上、熟断思考の本質である「インテリジェントエイヤ!」について論じてみました。

次回の第4回目のブログでは、「『スピーディ』な意思決定は間違い!?」と題して、意思決定のスピードと質について、世の中に流布している勘違いについて、皆さんに注意喚起させて頂きたいと思います。

なお、これまでの記事と次回以降のテーマは以下の通りです。

第3回:KKDD(=勘と経験と度胸とど根性)と『インテリジェントエイヤ!』(←本稿)

第4回:「スピーディ」な意思決定は間違い!?

第5回:「スローガン経営とチアリーディング」の限界と弊害

第6回:「英断」を期待するのではなく、「意思決定の質」を上げよう! 誰にでもできる6つのコツ

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