ギフトは期待しない時にやってくる

言葉は、まるで魔法のようだ。

南米チリのパタゴニア地方、アンデス山脈の麓で暮らす私たちの日常のストーリーを綴っています。

今回は、その6回目です。

「シンプル・ライフ・ダイアリー」7月21日の日記から。

今日は晴れて、気持ちが良かったので、友達のパンチータさんの農場へ行くことにした。この間からポールが頼まれていた商工会議所用の写真を撮影するためだ。私たちは、車を持っていないので、ご主人のラモンさんが車で迎えに来てくれることになった。

車はパレナ川に沿って、曲がりくねった道路を走って行く。パンチータさんの農場は、村から6キロ離れたところにある。砂利道で、車がほとんど走っていないので、エメラルドグリーンの川や、深く雪をかぶった山並み、常緑樹の森など、車窓から風景をゆっくり見る余裕があった。

と、突然、カーブの向こうから、馬に乗ったカウボーイが現れた。御多分に漏れず、犬を連れている。ラモンさんは車を止めて、窓を開け、話し始めた。地元の人たち同士で話し始めると、早口で、方言が多いので、何を話しているのか、全く理解できない。

「リスト。チャオ!」(わかった、じゃ、また!)突然、会話は終わり、カウボーイは先へと進んで行った。

「あれは、義理の弟なんだ」と、ラモンさんは言った。

「農場を管理してくれてるんだけど、昨日、うちの牛と馬が道端に出て、草を食べているのに気づいてね。何匹か、いなくなったもんだから、探しに行かなくちゃならなかったんだ。それで、昨日は、どうしたのかと聞いたら、うっかり、ゲートを閉め忘れたんだってさ。ハハハ」

こういう会話を聞くと、パタゴニアは、いいところだなあと思う。みんな、のんびりしていて、どんな時でも立ち止まって、立ち話をする時間がたっぷりある。話している内容も、シンプルだけど、とても、面白い。

しばらくして、農場に着くと、アヒルや鶏、七面鳥、猫や犬などが出迎えてくれた。まるで絵画のような牧歌的な風景。フェンスも檻もなく、みんな、自由に駆けまわっていた。

Paul Coleman

すると、パンチータさんが、出てきて、「どうぞ、どうぞ」と、家に案内してくれた。けれども、家にお邪魔するのは後にして、この時期、いつ太陽が雲に隠れてしまうか、わからないので、最初に、B&Bになっている母屋と、観光客用にレンタルしているキャビンの写真を撮影することにした。パンチータさんは、できたばかりのキャビンに案内してくれた。大きな窓から、美しい風景が見え、「ここに泊まったら、リラックスできそうだなあ」と思える素敵なキャビンだった。

Paul Coleman

ポールが写真を撮っている間、パンチータさんがビニールハウスの中を見せてくれた。数種類のレタスが育っていて、日本の水菜もあった。

「そうそう。ロシアン・ケールの種を持ってきましたよ」と、思い出して、私は言った。

「ケールの種、持ってますか?」

「ケール?蒔いたことないけど、試してみるわ。ありがとう」

畑をする女の人たちが集まると、必ず、種を交換する話になる。私も、自家採取の種を交換するのが好きだ。村の人たちは、ためらわず、新しいことを試してみるのが好きなので、チャンスがあれば、みんなが持っていない種をプレゼントするようにしている。

写真を撮り終わった後、母屋に戻った。家の前に、ルーダという薬用植物が育っていた。何に効くのかと聞いてみると、お茶にして飲むと腹痛に効くとのことだった。

「他にどんな植物があるか、見てみる?」と、パンチータさんは、庭を案内してくれた。庭には、大きなアーティチョークが育っていた。

「わあ、アーティチョーク!」私が声を上げると、パンチータさんは、「あら、アーティチョーク、欲しいのなら、株分けしてあげる」と、早速、シャベルで若い芽が出ている株を掘り起こしてくれ、他にも、黄色いラズベリーや、ホワイト・ルーダという、香水のような香りを放つ植物を株分けしてくれた。ホワイト・ルーダは、今まで見たことがない。思いがけず、たくさんプレゼントをもらって、嬉しかった。

Paul Coleman

その後は、家に上がり、お茶とケーキをご馳走になった。台所の大きな薪ストーブの上で、ヤカンがシュンシュンと音を立てて沸いていた。

「あれ?これ使って、編み物してるんですか?」古い編み機があったので、驚いて尋ねた。

「私が子供の頃、母親が使ってましたよ、こんなの」

「これねえ、もう20年以上も使ってるのよ。新しいのを買ったけど、複雑すぎて使いにくかったので、今でもこれを使ってるの。毎晩、編み物してね、編んだものを売ってるのよ」

パンチータさんは、いくつか、素敵なセーターを見せてくれた。ポールは、その中の一つ、茶色とグレーのツートンカラーのセーターが気に入ったようだった。試着してみると、ぴったり!35000ペソ(約7000円)というお手軽な値段だったので、買うことにした。農場にいる羊から取れた羊毛を木の皮で染めて毛糸にしたという、100%手作りのセーターだ。

Dragon Tree An

「あれ?」と、そのとき、面白いことに気が付いた。

今朝ちょうど、ポールが、ネットで簡単に育てられる多年生植物の記事を読んでいて、「アーティチョークは、簡単に育てられるみたいだよ。どこかで苗を手に入れられたらいいね」と、言っていたばかり。

「セーターを着ようとしたら、肘に穴が開いていて、そこから、腕が出ちゃったよ。そろそろ、新しいセーターを買ないと」と、言っていたのは、昨日のことだ。

言葉は、まるで魔法のようだ。「こうなったらいいな」と思って、期待せずにいると、いつの間にか、願いが叶っていたりする。

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