安倍首相はシンガポールのカジノから何を学ぶべきか?

5月30日からシンガポールを訪れる安倍晋三首相が現地の統合型リゾート(IR)を視察する見込みだということがニュースになっている。

■ついに本格的に動くカジノ法案

 5月30日からシンガポールを訪れる安倍晋三首相が現地の統合型リゾート(IR)を視察する見込みだということがニュースになっている。

 日本では昨年12月に「カジノ解禁への推進法案(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案)」が衆院に提出された。オリンピック前に日本にカジノを設立するという意思表示とも受け取れる。だからこそ、今国会でこの法案が可決され、実施法の制定に進んでいくものと考えられていたが、いつのまにかその動きが減速してしまった。

 その理由はふたつある。

 ひとつは集団的自衛権の行使容認に関する問題などに国会がフォーカスされていること。そしてもうひとつは、反対派議員から、治安上の問題を不安視する声が上がっていることだ。

 しかし、先進国でカジノがないのは日本とアイルランドくらいのものであり(アイルランドは小規模先進国)、世界中の100か国以上、2000か所以上にカジノが存在している。カジノをつくることで治安がそこなわれるというのは現実的な見解ではない。もっとはっきりと言ってしまえば、とぼけた意見だ。

 最近、裏カジノ摘発のニュースもあったが、公式なカジノが作られない限り、裏カジノは絶対になくならない。治安という面でいえば、そういう状況が続いたほうがはるかに問題は大きい。アメリカの禁酒法時代、酒を密造・密輸して私腹を肥やしていたのはマフィアだったように、正規のカジノが認められなければ、裏社会の住人たちを跋扈させるばかりになってしまう。

■世界のカジノを知ることから議論は始まる

 本来であれば、安倍首相にではなく反対派の議員にシンガポールのカジノを視察してほしいところだ。シンガポールは環境美化に積極的に取り組んでいる国であり、カジノもクリーンな施設になっている。なにせ、SMAPのテレビCMで有名になった巨大な空中庭園を持つマリーナベイサンズがIRのひとつなのである。こうした施設を見れば、反対派議員にしても、理屈に合わない意見を取り下げるしかないはずだ。

 IR議連の幹部からは「推進法の成立を急がなければ東京オリンピックまでインフラ整備が間に合わない」との声が上がってるようだが、今回の視察によって、その動きは加速することだろう。というよりも、「加速させなければならない」という狙いがあってこそ、今回の視察に踏み切ったと見るべきである。

 私はこれまで48年間、カジノに通ってきた。そのあいだにはラスベガスのカジノホテルのコンサルティング業務に携わったこともあり、日本人の誰よりもカジノの表と裏を知り尽くしていると自負している。

 この5月には『金儲けの下手な日本人のためのカジノ論』という新書を上梓したが、そこではマネージメント論とプレーヤー論の双方を紹介している。

 日本のカジノ解禁に関しては、絶対に推し進めるべきだという立場ではないが、「どうせ解禁するなら成功してほしい」「世界に恥ずかしくないカジノをつくってほしい」と思い、この本を書いている。

 ここで、カジノ解禁の動きを加速していくのだとすれば、賛成派も反対派も「世界のカジノはどんなものか」と知ることから議論を始めてほしい。知らずに議論をするのでは話にならない。その意味でいえば、今回の安倍首相のカジノ視察は歓迎すべきことだといえる。

■必要なのは「外資による競争」

 もうひとつ、「日本のカジノ第1号は大阪になるのか?」というニュースも流れてきている。これはラスベガス最大手のMGMリゾーツ・インターナショナルがそれに向けて動こうとしているということから浮上してきたトピックだ。

 大阪ではそれとは別に「夢洲」を建設予定地としてカジノを誘致する計画が進んでいる。そのため、「夢洲はどうするのか?」「東京より大阪が先になるのか?」といった声も聞かれているが、慌てるような話ではまったくない。

 個人的には、東京に3か所、大阪に2か所、地方に数か所などとカジノをつくり、競合させることによってはじめて質の高いカジノが生まれると考えている。

 その競争に外資を参加させれば、より競争のレベルは上がる。いや、外資を参加させなければ、参考にすべき「教科書」がないので、日本のカジノは絶対に失敗するとも言い切れる。外資には、日本のカジノを成功に導く役割を果たしてもらうだけでなく、巨額の供託金を積ませればいい。1000億円くらいの供託金を設定しても、それを出し惜しむことはあり得ない。そのお金は国債の返済に充てればいいのだから、国の経済も助かる。

 マカオのサンズは、ラスベガス・サンズが約240億円の総工費をかけてつくり、わずか10か月でその開業資金を回収している。そのサンズも早くから日本進出の意向を示しているし、この競争への参加を表明する世界資本はこれからますます増えていくのは間違いない。

 いい意味でも悪い意味でも、カジノでは一般の人には信じられないくらいのお金が動いていく。

 カジノとはどういうものか?

 まず日本の誰もにそれを知ってほしい。

 東京や大阪に限らず、地方都市などがカジノ誘致を進めれば、誰にとっても他人事の話でなくなる。

 もう少し真剣にカジノを考えなければ、2020年などはあっという間に来てしまう。

▼『金儲けの下手な日本人のためのカジノ論』堀紘一(角川oneテーマ21)

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