バヌアツで出会った患者さんのストーリーは、日本の常識からはみ出るようなことばかりでした。
「あのね、看護師さん。実は生理がこの2ヶ月無くて困ってるの。妊娠検査できますか?」
「看護師さん、私のお腹大きくなったでしょう。毎日仕事も疲れるのよ~。」
「看護師さん!先月赤ちゃん生まれたのよ~今日は避妊薬をもらいに来たの!」
毎日多くの若い女性や妊婦さんが集まってくるこの場所は、バヌアツ共和国エファテ島の首都にあるクリニック。そして私が2年間働いていた場所です。
バヌアツ共和国は太平洋にある人口27万人の小さな国。国土は83の島々からなります。隣にはフィジーやニューカレドニアなどの日本でも馴染みのあるリゾートアイランドがありますが、バヌアツは日本ではまだまだ馴染みのない国。
そんなバヌアツで何していたの?
避妊薬、性感染症治療、妊婦検診など女性のリプロダクティブヘルスクリニックにて、青年海外協力隊の看護師・保健師として約2年間活動していました。バヌアツではクリニックと言っても医師はいません。現地の看護師と共に、来院する患者さんの問診、カウンセリング、診察を行っていました。
なんで海外に行こうと思ったの?なんで性感染症のクリニックなの?
高校生の時に「看護師になって海外に行こう。」と決めました。
そう思ったきっかけは中学生まで遡ります。
「This is a pen」程度しか分からなかった中学生の頃、アメリカ・ハワイ大学への短期留学のチャンスをもらいました。最初は観光にいける!とお遊びモードでしたが、留学プログラムが進んでいくうちに、中学で習う程度の英語でもちゃんと通じる!ということに感動しました。
「英語は学校の試験のためにする勉強じゃないんだ」
そう気づいた後は、「英語をツールにして何かをしたい」という気持ちに変わっていきました。
大学生時代には、旅行や短期留学、スタディツアーで各国を旅しました。でも、滞在できるのはせいぜい数週間程度。その国のことは上辺だけでしか分かりませんでした。
「もっと長い時間、一つの国で生活をしてみたい」
そんな気持ちを抱えながら、看護師として病院に就職し、いい方法はないかと考えていたところで出会ったのが青年海外協力隊でした。
青年海外協力隊は、独立行政法人日本国際協力機構JICAが運営するボランティア事業。開発途上国で現地の人々と共に生活し、同じ目線で途上国の課題解決に貢献する活動です。派遣期間は2年間、その間どっぷりと現地の生活に馴染み、現地語を使い、現場ベースで課題の解決に挑みます。
しかし、私が2年間で出来たことは問題解決に繋がる程上手くいくものではなかったし、現地の看護師や患者さんと日々の出来事に向き合うだけで精一杯の日々でした。
バヌアツの文化や伝統に馴染み、生活に慣れ、バヌアツ人と同じ食事をし、ただただ日々を一生懸命過ごす。理想的な青年海外協力隊の活動は出来なかったからもしれません。でも、バヌアツで過ごした2年間は、私の価値観を大きく変えてくれました。
特に、クリニックで出会ったたくさんの患者さんのストーリーは、日本の常識からはみ出るようなことばかりだったのです。
性の話題は、どの国でもなかなか積極的に話されません。
日本では特にそんな傾向があるのではないか、と個人的に感じています。協力隊参加前は、看護師としてHIV感染症病棟で勤務をしていました。そこで出会う患者さんたちも、HIV感染症に至るまでには様々なストーリーがありました。
ある講演会の講師が語っていた「性を語ることは生を考えること」ということを、日本とバヌアツで性に関わる医療問題の経験を通じて痛感したのです。
肌の色が違う、言葉が違う、文化が違う、習慣が違う。
違う国に住んでいるのだから当たり前です。
でも、恋愛をして、結婚して、家族が出来て、という過程は国が違っても、根本は同じです。
私が2年間の間に経験した「バヌアツの性事情」をお話することで、世界や日本を見つめなおすことも出来るのではないか、と思うのです。これから10回の連載で、バヌアツのディープな性事情をご紹介しながら、日本の性や生きることを皆さんと共有していきたいと思っています。
ぜひ皆様お付き合いください。
10回分の連載を読み終えた時には、今まで名前も場所も知らなかった「バヌアツ」を身近に感じることが出来るかもしれません。