日本版NIHに期待すること

日本政府は最近、成長戦略の一つとして「健康・医療戦略」をまとめた。目玉としては、新たな医学研究開発の司令塔として「日本版NIH」を創設し、厚労省、文科省、経産省等の医学関連の研究資金を統合する点にある。

今日はシアトルで、英国ランセット誌とワシントン大学主催のグローバルヘルスに関するカンファレンスに出席。その部会の座長を務め終え、ホテルに戻ったところでこの記事を書いている。

日本政府は最近、成長戦略の一つとして「健康・医療戦略」をまとめた。

目玉としては、新たな医学研究開発の司令塔として「日本版NIH」を創設し、厚労省、文科省、経産省等の医学関連の研究資金を統合する点にある。さらに、医療機関と医療機器メーカーが連携した組織として一般社団法人MEJ(Medical Excellence JAPAN)が設立され、日本の医療の輸出に貢献するという。

官民双方からの素晴らしいアイディアだと思う。

ただ、ひとつ気になるのは、日本版NIHは、国内でとどまっていてグローバルな視点をもったアイディアが抜け落ちている点だ。

病気に国境はない。マーケットもインパクトも桁違いに大きい。

今や、病気はもちろんのこと、患者も医師も国境を越えて移動している。医療のグローバル化はこれから益々激しくなる。

医療イノベーションには、日本版NIHが対象とする基礎研究や臨床試験が必須であるが、それは一つの研究機関で完結することは稀である。規模が大きい方がリスクを分散でき、質も高い研究成果が期待できる。

世界中のベスト&ブライテストと連携することで、国内の研究レベルも活性化すると、私は思う。さらに、将来の市場をも見込んだ戦略展開も可能になる。

米国NIH(今回設立された日本版NIHが参考にしている機関)は、中国でのエイズワクチン開発に莫大な支援をしている。もちろん、米国の研究機関とのコラボだ。

さらに、アフリカの医学部の積極的な支援をはじめている。将来の研究人材の重要性を理解しているからだ。米国国際開発庁(USAID)等と連携して、臨床試験の基盤整備のために電子カルテ導入や診断機器の導入も進めている。

日本の大学や医学関係の企業の中には山のように宝がうもれている。一機関ではできないことを、ビジョンをもってやると決めるのなら、日本の中で完結するような策だけではもったいない。

グローバルヘルスは、いわゆる3つのD、つまり、薬や施策の効果の発見(discovery)、研究開発(development)及びその普及(delivery)のイノベーション創出の最前線だ。

グローバルな視野で考え成長していくことが必要なのだ。それが最終的には多くの人の命を救い、信頼される日本を作ることにつながる。

日本はどんな国になりたいのか? 世界に日本のビジョンを示す、またとない機会になるはずだ。日本版NIHにグローバルな視点の厚みを出すことを期待して見守りたい。

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