安倍内閣の支持率急落ですね。国民の理解も進まず、野党各党が本会議を退席する中での「違憲立法」=「安保法制」の強行採決ですから、当然のことでしょう。マスコミ各社の世論調査では軒並み10%近く下落し、内閣支持率が30%半ば、不支持率が50%を超えるという結果も出ました。はっきり言って、これは「危険信号」です。
こうした支持率下落を受けて、これまで無風だった自民党内にも、早速、動きが出てきましたね。ポスト安倍を狙う面々の発言です。「(安保法制について)国民の理解が進んだと言い切る自信はない」「十本の法案を束ねたのは如何なものか」。きわめて抑制的な物言いですが、明らかに、潮目が変わりつつあるとの認識の下に、ここで「布石」を打っておこうという意図でしょう。
私にも経験があるんですね。まさに「デジャブ―(既視感)」。それは私が総理秘書官としてお仕えした橋本龍太郎内閣でのことです。橋本政権も高い支持率で発足し、一年半経ってもまだ60%近くあった。しかし、「好事魔多し」。97年9月の内閣改造で佐藤孝行さんというロッキード事件で有罪になった方を入閣させた。橋本首相自身は最後まで入閣には反対したんですが、そんなことを言っても始まりません。これで一気に支持率が40%前後まで落ちた。そうなると自民党内の雰囲気が一変したんです。
それまでの「橋龍」と言えば、「龍さま!人気」。女性からは黄色い声援もとんで国民的人気も高く、政策も詰まっていて、おまけに恐いイメージ。ですから、官邸主導でどんどん政策を打ち出しても、自民党は「音なし」だったんですね。それが、一旦支持率が急落すると「橋龍も間違うんだ」「もう恐くない」と、自民党内から公然と反対の声があがるようになった。ちょうど、その時は行革、中央省庁の再編をやっていたんですが、総理と一緒に自民党行革本部に行くと、それまで黙って聞いていた一年生議員までが、総理を面と向かって批判する。まあ、議員というのは現金なものだなと、つくづく感心したものです。
だから、安倍政権も本当に厳しい局面を迎えましたね。これから、原発再稼働もあるし、70年談話=歴史認識の問題もある。TPPもいよいよ交渉妥結。景気も先行きどうなるかわからない。別に安倍政権の敵失を期待しているわけではありませんが、安倍さん、ここは謙虚に、虚心坦懐に、これだけ評判の悪い安保法制は一旦廃案にして、我が維新案をベースに出し直すくらいの度量をみせないとダメなんじゃないですか。あのPKO法も、その前身たる法案を一旦廃案にして、その後、当時の主要野党、公明、民社と三党合意を結んで、再提出して成立させたんですから。
(2015年8月3日「江田けんじ 今週の直言」より転載)