児童養護施設ではなく、里親さんのもとで暮らし、進学を目指す子どもたちに関わらせていただくことになり、その基本的な制度や状況を調べようと思いました。
何らかの事情により、家庭養育が難しくなった子どもたちが、暖かい家庭環境で養育される機会を提供することを目指した里親制度。その類型も複数ありますが、要保護児童の受け皿として児童養護施設やグループホーム、ファミリーホームなどがあります。基本的な位置づけとして、もっとも望まれる環境に近いとされるのが「里親」ということなのですが、なかなか里親さんと子どものマッチング(里親委託)が進んでいない実情があります。
なかなか進まないといわれていますが、資料にあるとおり、里親等委託率は平成14年の7.4%から、平成24年3月末には13.5%に上昇しています。
※里親等の「等」は、ファミリーホーム(養育者の家庭で5,6名の児童を養育する)を含みます。
平成26年度までに16%への引き上げ目標が 子ども・子育てビジョンにおいて出されています。
ただ、あくまでも全国平均ということで、都道府県市別に見ていくとかなりバラつきがあります。例えば、全国平均では13.5%であっても、もっとも委託率が低い堺市で4.2%、高い新潟県では39.0%と大きな開きがあります。もちろん、これには里親になることを望む方々の数や、そもその要保護児童の数、その他、自宅環境などさまざまな要因があってのことだと思います。とは言え、以下の資料を見ると、飛躍的にその数値が伸びている自治体があることも驚きでした。
里親等委託率なので、どの程度、ファミリーホームでの要保護児童が入っているかはわからないのですが、トップ3が「福岡市」「大分県」「福岡県」と九州エリアであるのは理由があるのでしょうか。次いで、山梨県、静岡県、香川県は10%以上増加しています。資料の下部にありますが、宮城県、岩手県および仙台市は増加幅がより大きいようです。
宮城県:26.3%増(8.0%→34.3%)
岩手県:15.8%増(10.4%→26.2%)
仙台市:12.8%増(11.6%→24.4%)
東日本大震災の影響により、親族による里親、いわゆる「親族里親」が増加したため、あえて除いているようです。
全体的に、要保護児童は増加しており、その状況も複雑化していることは、さまざまな資料から読み取ることができました。そのなかで、制度として里親委託がもっとも家庭に近い環境であるといっている一方、里親さんと子どもたちのマッチングが進まない理由として、里親として登録される方々の数の問題ではないかと、単純に考えました。
しかし、実際はそれだけではなく、以下の項目もその理由としてあげられています。
○実親の同意の問題
里親委託に対する実親の同意を得ることが難しい。実親にもいろいろな実情があると思いますが、施設に子どもをお願いすることは望んでも、里親さんへの委託には同意されないようです。
これは先日、里親さんを支える関係者の方々から聞いたことですが、里親さんになりたい方々には、「養子縁組希望里親」が少なくなく、できれば実子として迎え入れたい。その一方、いまのところ養育することが難しくとも実親として、養子縁組に出すことは望んでいない。そういう状況が、マッチングをより難しくさせているということでした。
○要保護児童が抱える問題の複雑化
心身の傷や、発達障がい等を抱える児童が、要保護として社会的サポートが必要となっているなか、「専門里親」のような一定程度の専門性を有する、または、専門性を身に着けていこうという負担に耐えられる里親さんは多くない。もちろん、研修の制度を充実させたり、里親さんが孤立しないようなサポート体制の推進事例はあるようですが、そもそもそれだけ複雑な問題を抱える子どもたちを家庭という場で支えていける里親さんが少ないのです。
要保護児童への社会的サポートは、ある部分はお金で解決できるのかもしれません。それは里親家庭への委託費の増額といった直接的なものだけではなく、要保護児童や里親さんが孤立せず、困難に直面しても解決するための仕組みやサポート体制が必要になります。ただ、それ以上に、そもそも要保護児童の存在は少しずつ知られていますが、子どもたちを支えるさまざまな制度、特にこの里親制度という制度そのものがほとんど認知されておらず、社会的な包摂体制が行政と里親制度に関わる一部のひとたちに任されてしまっていることが問題ではないかと思います。
個人が、組織/法人ができることはないのか。社会全体でどのようなかかわりを子どもたちのために持てるのかを含めて、考え、実行していかなければなりません。もちろん、子どもたちのため、(年齢的には)若者たちのために。
(※この記事は、2013年12月10日の「若者と社会をつなぐ支援NPO/ 育て上げネット理事長工藤啓のBlog」から転載しました)