「原発を"40年"過ぎたら即停止させるのは不適切」との米国専門家の助言を、原子力規制委・規制庁は完全無視するが・・・

"原発40年規制"は、科学的根拠のない「政治的な空気」で決められたもので、日本国内で使われるべき数兆円規模の巨額の国富を徒らに海外流出させてしまうようなルールだ。

原子力規制委員会は、4月20日の会合で、40年を超えた運転を目指す関西電力の高浜原子力発電所1・2号機(福井県高浜町)の再稼働に向けた新規制基準適合性審査での『合格』に当たる審査書を正式決定した。

7月7日までに、設備の詳細設計を定めた「工事計画の認可」と「運転延長の認可」が必要であるが、これらが認可されれば、廃炉に追い込まれず運転を継続することができる。

来る12月に満40年を迎える関西電力の美浜原子力3号機(福井県美浜町)について、原子力規制委員会の新規制基準適合性審査に合格する見通しになったという報道もある。

だが、これで"原発40年規制"の問題が解決したと考えるのは大きな誤りだ。

私はこの問題について、雑誌やネットメディアを通じてこれまで何度も指摘してきた。"原発40年規制"は、科学的根拠のない「政治的な空気」で決められたものであり、世界の常識である「稼働させながらの審査」を行わず、日本国内で使われるべき数兆円規模の巨額の国富を徒らに海外流出させてしまうようなルールなのだ。

ここでまた、新たな問題が浮上している。

「国内外の多様な意見に耳を傾け、孤立と独善を戒める」とは、原子力規制委の組織理念の一つである。だが、田中俊一委員長は"原発40年規制"に関する海外の専門家からの意見を完全に無視する方針のようだ。

4月13日の原子力規制委の会合で、「国際アドバイザーからの意見について」と題する議案が審議された。これは、国際アドバイザーの一人であるメザーブ氏が、現行の日本の原子力規制に問題があり、それを是正すべきとの意見で、その書簡の中で、原子力発電所の運転延長制度について、「審査完了に失敗した結果が、必然的に運転停止になってしまうことは不適切」などと指摘。「ライセンス更新を規定する法令の調整が適当」と助言した。

この指摘をもう少し詳しく見てみると、次の通りだ。

『日本は、運転期間の延長を認めています。しかし、日本の関係法令では、現行のライセンスの有効期限の15ヵ月前まで待たないと申請できないと我々は理解しています。そして、有効期限までにライセンス更新の認可が出ない場合は、更新申請の手続きは停止され、原子力発電所は廃炉されなければなりません。

我々の見方では、ライセンス更新を規定する条項は極めて問題であります。(中略)

審査完了に失敗した結果が、必然的に運用停止となってしまうことも、不適切のように思います。(中略)

原子力規制委員会が、その審査に与えられた短い期間の中で業務を完了できなかった場合の帰結が、事業者への罰となるということは、不公平であると思います。

USNRCの規則では、事業者が十分な更新申請を現行のライセンス有効期限の少なくとも5年前に申請した場合、現行ライセンスの有効期限後も引き続き、NRCの審査が完了するまでの間は、発電所を運転できることとなっています。(中略)

ライセンス更新を規定する法令の調整が適当と思います』

しかし、これに対する原子力規制庁の見解は、次の通りだ。

『延長認可における審査は、延長しようとする期間(最長20年)において、健全性を維持できることを明確にすることを求めるものであり、適合性審査の申請がなされていることを前提とすれば、延長認可における審査を行う上での時間的な問題は想定されない』

要するに規制委は、新規制基準に基づく適合性審査については申請時期に制約はなく、延長認可審査を行う上で時間的な問題は生じないとしている。

また、田中委員長は、4月13日の会合で「運転期間延長のところは若干誤解があったというふうに思います」と、また、その直後の定例記者会見で「実質的に、特にそれが問題になるようなことは今ないと思いますけれどもね。(中略)40年について疑問を持つのは向こうの勝手だけれども、40年というのは法律で決められた、私たちにとっては与えられた条件だから、私たちが議論してもしようがないことです」と述べている。

つまり、田中委員長は「法律で決められているから議論してもしょうがない」として、国際アドバイザーからの意見を完全に無視したわけだ。

田中委員長は「問題になっていない」と言うが、これは現実を無視した発言だ。

高浜1・2号機と美浜3号機の審査は"時間切れアウト"を避けるために、規制委は他の発電所をそっちのけで優先審査したため、何とか期限内に審査が終わる見通しだ。

運転延長の申請をまだ行っていない日本原子力発電東海第二原子力発電所(来年11月までに認可が必要)、関西電力大飯原子力発電所1号機(再来年3月までに認可が必要)、同大飯2号機(再来年12月までに認可が必要)など、100万kW級の原子力発電所が続き、これらに係る審査の帰趨も大きな問題になる。

しかし残念ながら、今の日本国内の「空気」では、(これは多分にマスコミが煽動しているようなものと思うのだが)、"原発40年規制"を直ちに改善するような議論を期待することはできそうにない。その間にも、巨額の国富が海外流出し続けるわけだが・・・。

そこで、次の2点を提案したい。

(1) 審査中に40年の運転期限を迎えた場合の解釈を明確化する。

これは、昨年8月20日に公表された自民党の「原子力利用の安全に係る行政組織の3年見直し等に関する提言」に明記されていることだ。

国際アドバイザーが指摘する「ライセンスの有効期限の15ヵ月前まで待たないと申請できない」との条項は、「法律」(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)ではなく、原子力規制委が所管する「規則」(実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則)に規定されている。同法第43条の3の32では「その満了に際し」、「原子力規制委員会規則で定めるところにより」とし、具体的な手続きは同規則で定めることができる。

そこで、「その満了に際し」(運転延長の申請中に40年を迎えた場合の手続き)として、審査期間中は運転期間の時計が止まることを原子力規制委が同規則で規定すれば十分だ。田中委員長は「法律で定められているから」と言って逃げず、原子力規制委の権限において、国会審議の必要がない同規則を早期に改正すべきである。

むしろ、田中委員長は法令でも何でもなく、法的拘束力の全くない「田中委員長私案」に基づき、全ての原子力発電所を停止させ、バックフィットの審査を行っている。だから本件に関しても、甚だ邪道ではあるが、「私案」を発表すれば済むことなのかもしれない。

(2) 原子炉等規制法に適切な条文追加をする。

「鉱業法」に、参考になる条文がある。

『鉱業法第20条:第18条第2項の申請(試掘権の延長申請)があつたときは、試掘権の存続期間の満了の後でも、その申請が拒否されるまで、又は延長の登録があるまでは、その試掘権は、存続するものとみなす』

つまり、延長が申請され、その審査を行っている間は、法律上の時計は止まっているのだ。こうした『常識的な』ルールならば、申請する側も、審査する側も、時間の制約なしに、しっかりした議論をすることができる。

通常、法律に新しい条文を追加する時は、他の似たような法律を調べて整合させるはずだ。しかし、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律を4年前に変更し、"原発40年規制"を追加した際には、上述のような鉱業法の規制体系は参酌されていない。

規制運用に専従する原子力規制庁の行政官は、いわば規制法の専門家たちだ。彼らが類似の法令を見落とすとは考えられない。この"審査中は時計が止まる"条文を追加しなかったのは、前政権・菅直人元首相が仕組んだ"原発ゼロ"の置き土産なのではないだろうか。

安倍政権は原子力政策に及び腰であるように思える。「前面に出る」(安倍首相)と言っておきながら、そうは見えない。来る7月10日に予定される参院選が終わってからでも遅くはない。自民党の提言にもある"原発40年規制の解釈"を明確にするとともに、原子力規制委の規制運用を改善させ、原子力発電の早期再開を政治的に命令していくべきだ。

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