過去50年に渡りマーケティング研究をけん引するフィリップ・コトラー氏が設立したワールドマーケティングサミットは、2014年~16年にかけて3回、東京で計6,000人以上を集客し、2017年冬にはカナダ・トロント、バーレーン・マナマ、韓国・ソウル、東京を巡るサテライト形式に切り替えて実施されました。ここでは東京イベント冒頭の主催者の講演内容をまとめます。
同サミットテーマを「Transformation Through Innovation(イノベーションがもたらすマーケティング革新)」とし、日本マーケティング協会会長 後藤卓也氏はその意味を、"テクノロジーがいかにマーケティングを進化させるかを考えること"、と解説しました。専用AI(人工知能)の時代から汎用AIの時代になり、AIとロボットが労働力不足を補うようになる中、「伝統的なマーケティングとデジタルマーケティングを融合させて効率化し、人間の幸福を目指すマーケティング4.0に移行する時が来ている」という見解を述べました。
同イベントの日本のカウンシル代表を務める高岡 浩三氏(ネスレ日本代表取締役社長兼CEO)は、新興国で中間層が増えて大都市が先進国化し、先進国・大都市ともに成長が鈍化する中で、日本は少子高齢化が進み経済成長が厳しい現実に触れ、「利益ある成長のためには新しいマーケティングとイノベーションが必要」という考えを示しました。
■消費者は価格ではなくインセンティブによって動く
基調講演として登壇したフィリップ・コトラー氏は、経営環境の変化を鑑みてマーケティングをまた再定義しました。
まず、今日のマーケティングは、従来の「(決められた商品を)売ること」、つまり営業力(Sales force)、広告(Advertising)、販売促進(Sales promotion)により利益を伸ばす活動から、「より重要な目的(higher purpose)のために何を作るべきかを決めること」に変化している、と分析。マーケティング活動は、消費者に寄り添う企業の成長エンジンであるとして、その特徴を、「どのような目的のために何を作る(Create)」、「コミュニケーションする(Communicate)」、「価値をターゲット顧客に提供し役に立つか(Deliver Value to Target Customer and Profit)」とまとめて「CCDVTP」と呼びました。
コトラー氏はさらに、マーケティングの主要要素が、従来の4P(製品、価格、流通、プロモーション)から、5C「顧客、企業、協業、競合、環境(Customers、Company、Collaborators、Competitors、Context)」に変化していると指摘。今日のマーケティング戦術は、「製品、サービス、ブランド、価格、インセンティブ、コミュニケーション、提供(Product、Service、Brand、Price、Incentives、Communication、Delivery)」の組み合わせであると述べ、消費者は価格ではなくインセンティブ(動機付け)によって動く、と述べしました。
その上で、マーケティング活動の流れを、従来の定義「R->STP->MM->I->C」(調査、セグメンテンテーション/ターゲティング/ポジショニング、マーケティングミックス、実施、管理)から、「MR->STP->TM->VP->MP->I->C」へと再定義しました。
そして、マーケティングは、①マーケティング調査(Marketing Research)による顧客反応の概念化、②ビッグデータ活用による個人レベルの対象セグメント分析(Segmentation/Targeting/Positioning)、③市場設定(Target Market)、④顧客に訴求する価値提案(Value Proposition)、⑤マーケティングプランの策定(Marketing Plan)、⑥実施、⑦データ分析による管理と改善(Control)を繰り返す、と整理しました。
■広告はファンがする、企業エゴに踊らされるな
企業の将来に目を向けて、コトラー氏は「有機的成長、事業統合のいずれを選ぶにせよ、マーケティングはコンサルタント任せではなく自社内で知恵、考えを蓄積して行うべき。さもなければ企業エゴに踊らされ社内に何も残らない」、と警鐘を鳴らし、セルフコーチングの重要性を訴えました。
また、ブランドコミュニティを作るファンの支援(advocacy)が持つ広告訴求力を重視し、ネットプロモータースコア(NPS)に表れるユーザーの支持が企業を左右すると指摘。「マーケティングは数量的(quantitativeになってきている」と述べて、ユーザーやファンに働きかけるためのスマートフォンやAIの活用、データ分析、マーケティング自動化による最適化のインパクトに目を向け、消費者の行動や要望の理解を高度化するテラバイト級、リアルタイムの数値活用の意義を述べました。
テクノロジーと連動するマーケティング要素の複雑化が印象的でした。
※ コウタキ考の転載です。