ガザ空爆:ジャーナリズムの立ち位置を考えさせる2、3の〝事件〟

イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への空爆をめぐって、この数週間、メディアで相次いで起きた〝事件〟が、界隈で話題を呼んでいる。

イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への空爆をめぐって、この数週間、メディアで相次いで起きた〝事件〟が、界隈で話題を呼んでいる。

英公共放送「チャンネル4」の看板ニュースキャスターが、ガザの病院を取材し、傷ついた子どもたちの姿が「心に刻み込まれた」と率直な心情を吐露した動画を公開。ユーチューブで70万回以上も再生されながら、「中立性」の原則からテレビでは放映されずにいる。

イスラエル支援に奔走する米連邦議会の動きをめぐる記事で、ツイッターの見出しを「無害」な書きぶりに修正したAP通信。

そして、ネットで見かけたブログの書き込みを根拠に、ニューヨーク・タイムズやロイターが配信したガザの現場写真を、ツイッターで繰り返し「やらせ」と批判し、逆に謝罪に追い込まれた雑誌「アトランティック」のシニアエディター。

それぞれに、ジャーナリズムの立ち位置を改めて考えさせる〝事件〟だ。

●「このままにしておいてはダメだ」

英「チャンネル4ニュース」の看板キャスター、ジョン・スノーさんが、5日間のガザ取材を終えてロンドンに戻り、ブログ動画「ガザの子どもたち」をユーチューブに公開したのは、7月26日だった。

空爆でケガを負った子どもたちが収容されているガザのアルシーファ病院。空爆で背骨を痛め、ベッドに力なく横たわる少女。頭蓋骨の骨折で目の回りが内出血で紫色に腫れ上がっている少女。現地取材の映像と、同局のスタジオで収録したスノーさんのナレーションで構成された3分半の動画だ。

私たちはこの子たちの死に対して、いくばくかの責任を共有しているということを知っておくべきだ。

スノーさんはそう語りかける。

このままにしておいてはダメだ。力を合わせて、状況を変えることはできる。

これは、あくまでチャンネル4ニュースのウェブ用コンテンツとの位置づけだという。

そして、ガーディアンの記者、ジェイソン・ディーンズさんは、この動画がテレビ放映されたとすると、英国の放送規制当局、情報通信庁の「中立性」の放送コードに抵触する可能性がある、と指摘している。

情報通信庁の報道官も、テレビ放映されていない以上は、管轄外だと話しているという。

同じガーディアンのジェームズ・ボールさんは、若者向けの新興ネットメディア「ヴァイス」などの、主張をはっきりと打ち出した力のあるニュース映像に、ネットユーザーたちは日々接している、として、こう指摘する。

テレビがネットと融合する時代に、前時代の古くさい言葉づかいや規制など、英国の才能あるテレビニュースレポーターたちに、バカげた拘束衣を着せるようなものだろう。ジョン・スノーがガザについて意見を述べたいと思った時に、ユーチューブに行かざるを得ないのはおかしい。

●見出しを「無害」化する

AP通信は、29日、ガザ関連の米連邦議会の記事を紹介するこんなツイートをした。

世界の多くが恐怖を抱いてガザの戦争を注視する中、連邦議会では議員たちが息せき切ってイスラエルを支持する。

ところが最初のツイートから4時間40分後、AP通信はこんなツイートを流す。

多くの米国の連邦議員たちは、ガザの戦争においてイスラエルを強力に支持する(以前のツイートの表現を修正します)。

そもそもの記事の見出しはこうだ。

「鉄のドーム」とは、イスラエルの対ロケット弾防空システムのことだ。米国の資金援助で支えており、迎撃成功率は9割にのぼるという。

そのための法案成立に、民主、共和両党の議員たちが奮闘している、との内容だ。

この「修正」について、ニューヨーク大学教授のジェイ・ローゼンさんが「無害の生産:ガザをめぐる2つの見出しの物語」と題して自らのブログで取り上げている。

「多くの米国の連邦議員たちはイスラエルを強力に支持する...」は「議員たちが息せき切って」と事実関係に違いはない。だが、後者の方がより〝無害〟だ。

余計なトラブルを避けるため、APはツイッターの見出しは〝無害〟化した、それがこの「修正」だ、とローゼンさんは見立てている。

そして、この〝無害〟化は、メディア環境の変化の中で、経済的にも価値のあることだろうか、と疑問を投げかける。

・批判を受けないようにリスク管理をすることは意味があるが、無害化にはコストもかかる。

・無害化のバランスなど眼中にないバイラルメディアとの競争で、このコストはどう効いてくるだろう。

・真偽の明白な問題で、無意味なバランスを取ることのデメリットはどうする。

・広告主は無害化を支持する。だがそもそもの広告収入はどうなっている?

・では、無害化を捨て去った後に残るのは?(立ち位置の透明化、議論と検証だ)

●現場で、自分の目でみる

雑誌「アトランティック」のシニアエディター、デビッド・フラムさんは、かつてジョージ・W・ブッシュ大統領のスピーチライターを務め、2002年の一般教書演説の中で北朝鮮、イラン、イラクを〝悪の枢軸〟を呼んだことでも知られているようだ。

そのフラムさんが、「友人」と呼ぶ人物のブログ記事を紹介し、24日にこんなツイートをしている。

友人の疑問:ハマスはなぜ、残虐さをうたうやらせ写真を使うのだろう。現実の犠牲者の写真が使えるのに。

やらせ写真が今日のニューヨーク・タイムズの記事を飾っている。

ニューヨーク・タイムズがやらせ写真を掲載していることについてマーガレット・サリバンは何と言うのだろう。

フラムさんが取り上げているのは、父親が空爆で死亡し、病院で悲嘆に暮れる兄弟の写真だ。同じ兄弟をAP、ロイター、ニューヨーク・タイムズなどが撮影している。

フラムさんが紹介しているブログは、その写真を比較し、APの写真では顔や手に血がべったりとついているのに、ロイターの写真では顔や手に血がついていない、と指摘。これはやらせではないか、と述べている。

フラムさんは、ロイターと同様、ニューヨーク・タイムズの写真も顔や手に血がついていないことから、「やらせ」と攻撃したようだ。さらに、タイムズのパブリックエディター、マーガレット・サリバンさんにまで言及している。

これに対して、フォトジャーナリズムの分析サイト「バグニュース」が、フラムさんのツイートを疑問視

さらに、この兄弟の写真を撮ったニューヨーク・タイムズのフォトグラファー、サーゲイ・モノマレフさんが撮影時の様子を説明したインタビューがタイムズのブログに掲載される。モノマレフさんはこう述べている。

兄弟の一方がもう一人を近くの部屋に連れて行くのを見た。そこで彼を洗い流してやったのだろう。なぜならその後、顔には血はついておらず、手もきれいになっていたからだ。彼は椅子に座り、少し落ち着いたようだった。そこで私は写真を撮った。

APが撮影した後、兄弟は顔と手を洗い、そしてニューヨーク・タイムズが撮影した、ということのようだ。

同じアトランティックのベテランジャーナリストで、カーター大統領のチーフスピーチライターだったジェームズ・ファローズさんは、謝罪記事を受けて、こんな指摘をしている

(ジャーナリストのプライドの源泉は)この3語に集約される――私はこれを見た(I saw this.)。この業界の人間は、目撃し、それを報じるために存在する。

そして、危険な紛争地域で自分の目で見たものを報じているジャーナリストに、相応の敬意は払うべきだ、と。

ワシントン・ポストのメディアブロガー、エリック・ウェンプルさんは、今やほぼジャーナリズムの決まり文句になっているとして、こんな警句を紹介する

どこかのブログで目にしたものを、何でもオウム返しにしてはいけない。

(2014年8月2日「新聞紙学的」より転載)

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