米国の若者の実に6割が、政治ニュースの情報源としてフェイスブックを使っている――。
米国のピュー・リサーチ・センターが1日に発表した調査報告が、フェイスブックのアルゴリズムに対する注目を、改めて集めているようだ。
By Frank Kehren (CC BY-NC-ND 2.0)
仕組みを知ることの出来ないそのアルゴリズムが、社会や民主主義に、予測不能な影響を与えるのではないか。そんな懸念が以前から指摘されてきた。しかも、米国では来年、大統領選を控えている。
テレビなどマスメディアをしのぐフェイスブックの存在感に対して、今なすべきことは何なのか?
ウオッチャーの間では、そんな議論が広がっている。
●若者世代の〝テレビ〟
ピュー・センターの調査は、昨年3月から4月にかけて、2901人のパネルを対象にネット上で行われた。
対象を「ミレニアル世代」(18~33歳)、「X世代」(34~49歳)、「ベビーブーマー世代」(50~68歳)の3世代に分類。政治ニュースの情報源としているメディアを、それぞれ尋ねている。
それによると、「ミレニアル世代」では最も多かったのが「フェイスブック」で61%。次いで「CNN」(44%)、「ローカルテレビ局」(37%)の順だった。
「X世代」でもトップは「フェイスブック」で51%。次いで「ローカルテレビ」(46%)、「CNN」(45%)。
これに対して「ベビーブーマー世代」ではトップが「ローカルテレビ局」(60%)、「NBCニュース」(47%)、「FOXニュース」(47%)。「フェイスブック」は39%で7位だった。
ピュー・センターが昨年10月に公表した調査結果では、世代別の仕分けはないが、「ローカルテレビ局」(49%)、「フェイスブック」(48%)とほぼ互角の存在感だった。
それが今回、特に「ミレニアル世代」にとっては、フェイスブックがかつてのテレビの〝ニュースチャンネル〟の役割を担っていることがはっきりとあらわれている。
●選挙の操作、フィルターバブル
問題は、フェイスブックのアルゴリズムの影響だ。
フェイスブックは、友達やフォローしているフェイスブックページの投稿を、すべて表示しているわけではない。アルゴリズムによって、選別したものだけを、ニュースフィードに流している。
ワシントン・ポストが昨年調べたところでは、友達の投稿などのうち、72%がアルゴリズムの選別によって非表示になっていたという。
さらに、イリノイ大学などの研究チームの調査では、フェイスブックユーザーの62.5%は、アルゴリズムによって投稿が選別・非表示になっていることを知らなかった、という。
世界で14億人、北米だけでも2億人のユーザーを抱えるフェイスブックのアルゴリズムは、選挙にも影響力を持つ。
以前にも紹介したが、フェイスブックは2010年の米中間選挙の投票日に、有権者である18歳以上のユーザー約6100万人のニュースフィードのトップに、「今日は投票日」という特別メッセージを表示。これにより推計で投票者34万人を動員、率にして0.4%押し上げた、と科学誌「ネイチャー」の論文で発表している。
ワシントン・ポストのケイトリン・デューイさんはこう指摘する。
(ピュー・センターの)調査によれば、米国のネットユーザーの大半は、今や政治ニュースをフェイスブックで見ている――そして2016年の大統領選は、ご存じの通り、1年余りに迫っている。
懸念される点は2つ。
アルゴリズムを恣意的に調整することで、選挙結果を操作できてしまうのではないか、という点。
さらにアルゴリズムが、耳触りのいい情報ばかりを選別することで、「フィルターバブル」と呼ばれる〝情報のタコツボ化〟を強め、保守、リベラルの分断がますます深刻化するのではないか、という点だ。
「フォーチュン」のマシュー・イングラムさんはこう述べている。
少なくともこの調査結果は、フェイスブックのニュースフィードのアルゴリズムが、ユーザーの目にするニュースに及ぼす影響について、政治的アクティビストや社会学者の懸念を裏付ける、一層の証拠となるものだ。フェイスブックのエコシステムとフィードに表示されるコンテンツのタイプについて、ごくささいな変更が加えられるだけで、その影響は膨大なものとなり、その範囲は人口のかなりの部分に及び、しかも多くの場合はその影響の中身も、予測がつかない。
●20セントの有料化
どうすればいいのか。
ソーシャルメディアとアルゴリズムの問題に詳しいノースカロライナ大学助教のゼイネップ・トゥフェッキさんは、アルゴリズムをユーザーがコントロールできるようにすればいい、という。ただし、有料化と引き換えに。
6月4日付のニューヨーク・タイムズのオピニオン面への寄稿コラムで、トゥフェッキさんはターゲット広告とユーザーのプライバシーについて取り上げ、そもそもアルゴリズムは、ユーザーをつなぎとめるために機能していると指摘。問題はユーザーが無料で利用できる広告モデルにある、という。
そして、フェイスブックの利益をユーザー1人当たりで換算すると、1カ月わずか20セント、というマサチューセッツ工科大学のイーサン・ザッカーマンさんの試算をもとに、「20セントなら喜んで払う」と述べる。
フェイスブックが、私たちをより長くサイトにつなぎとめるためにニュースフィードを操作する必要がなくなり、私たちのストリームに広告を挟み込む必要がなくなれば、代わりにそのアルゴリズムのコントロールを、私たちに手渡すことができる。
さらにこうも述べる。
私は(フェイスブックにとっての)製品ではなく、顧客になりたいのだ。
●デジタルゲリマンダー
ハーバード大学教授のジョナサン・ジットレインさんは昨年、やはり2010年のフェイスブックの選挙実験を「ニューリパブリック」に掲載した「フェイスブックは誰にもわからぬように選挙結果を決められる/デジタルゲリマンダーの恐ろしい未来―そしてそれを阻止するには」で取り上げていた。
「これはデジタルゲリマンダーの一例だ」と。
ゲリマンダーとは、自党が有利になるように選挙区を改正することだ。フェイスブックなら、それを誰にも分からずに行うことが可能だ、とジットレインさん。
1970年代、サブリミナル(潜在意識)広告が米連邦通信委員会(FCC)によって「公の利益に反する」として禁止されたことを挙げ、こう述べている。
ユーザー保護のための同様の義務は、現在の支配的メディアにも課せられるべきだ。私たちの物の見方や行動は、どんどんと正体不明の、人工知能駆動型のプロセスに影響されるようになってきている。表現の自由を制限しない形で、最悪のシナリオは排除する必要がある。
具体的にどのような手立てが有効なのか。次の議論のポイントだろう。
(2015年6月6日「新聞紙学的」より転載)