日本でもベストセラーとなった『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』著者のクリス・アンダーソン率いる3D Roboticsが2013年9月、3000万ドルを資金調達しました。同社は、ラジコン飛行機製作キットや関連パーツを販売する航空ロボティクス企業です。今回の資金調達で、農業作物のマッピングや商業航空測量技術を中心に、高度なUAV(無人飛行機)アプリケーションの開発・展開を拡大します。同社ブログで、クリスはこう書いています。
「低コストの自動化された空中作物調査を通じて、農業のビッグデータを収集できれば、農業・UAV両産業にとってのゲームチェンジャーになれるかもしれない。21世紀の農業のツールキットにUAVを追加すると、それらの収量を増加させます。それと同時に、食品・環境の両面において水利用・化学物質負荷を減少させると共に、詳細な撮像データの収集も可能となります」
2009年創業の3D Roboticsは、フレーム・モーター周りを含めたラジコン飛行機製作キットを420ドル程で提供してきました。売上は初年度に25万ドル、2012年に500万ドルを超え、毎年約50%の伸びを続けると共に、初年度から黒字を維持しています。創業当初はロサンゼルスの貸し倉庫を工場として利用し、現在ではサンディエゴに工場敷地1万2000平方フィートを備えています。
会社設立から4年程ですが、NASA、ボーイング社などの大手クライアントを抱えてきました。同社が支持されるのは、ラジコン飛行機が多くの目的に対して有用だからです。無人偵察・監視任務、移住動物のモニタリング、遺跡の検査など、ヘリコプターのチャーターを必要としていた場面に対して、この小さなUAVは多額のコスト削減に貢献しています。
3D Roboticsは、クリス(13年2月時点・51歳)とジョルディ・ムノス(同・26歳)による共同設立でした。2人が出会った当時、メキシコ出身のジョルディは英語をうまく話せない若者で、大学へも進学していません。一体、2人はどのようにして出会ったのでしょうか?
長い間、才能のある人を見つけるための最も一般的な方法は、一流大学や一流企業との交流でした。実際、今でも多くの企業は優秀な人材を確保するため、学校・ブローカー・エグゼクティブサーチ会社に頼ったり、LinkedInやmonster.comをチェックしています。しかし、2人の出会いは大きく異なっていたのです。彼らはブローカーやLinkedInと繋がっていませんでしたが、代わりにロボット工学への強烈な関心によって繋がりました。
クリスは趣味がラジコン飛行機製作だったため、WIRED編集長時代に、他の愛好家と情報共有できるオンラインコミュニティ『DIYdrones』を立ち上げました。 ある日、ジョルディはそのコミュニティ上に自ら製作したヘリコプター動画を投稿したのです。それは、任天堂Wiiのコントローラーから取り出した加速度センサーで、リモート制御ヘリコプターの操縦装置を製作したものでした。他の愛好家からは、彼のデザインに対して"excellent" "cool"というコメントが数多く寄せられたのです。
ジョルディは当時19歳。ロサンゼルスに引っ越したばかりで、二重国籍だった高校時代の彼女が妊娠&結婚した直後でした。アメリカ永住権を待つ間、彼は何もすることがないので、自作ヘリコプターで遊んでいました。それと同時に、他の愛好家の投稿に対して技術的なアドバイスを続けていたのです。クリスは彼の貢献に感銘を受け、いくつかのプロジェクトで彼と協力していきます。そしてクリスが起業を決意した時、共同創業者として彼を誘いました。3D Roboticsには現在、製品開発に関わる人が100名弱います。ただ、その内20名は社員ですが、その他80名はソフトウェアを開発するボランティアです。
「これは才能ある人材のロングテールです。ウェブは、個人の教育や資格証明書に関係なく、単純に"何ができるか"を人々に示せます。そうすることで、グループを形成し、かつ容易に共同作業を進めることができます」と、クリスはあるインタビューで答えています。オープンソースによる知識共有が航空ロボの技術開発を加速させる中、25歳差の共同創業者がどの様な展開をしていくのか、期待が高まります。
なお、同社の更なる詳細情報は下記ブログ記事で紹介しています。