私たちは、なぜ家事をしないことに「後ろめたさ」を感じるのか

プロフェッショナルな家政婦、タサン志麻さんとの出会いから考えてみた

子どもが生後4カ月のときに仕事に復帰した。

18時のお迎えに急いで帰って、保育園から家まで1.2キロの道のりをベビーカーを押して帰って、離乳食やごはんを作って、食べさせて、絵本を読んで、お風呂に入れて......。

子どもが寝る21時過ぎには、眠くてたまらなかった。というか寝た。

共働き世代のリアルも知りたかった。家事も育児もひとまず自分でやってみた。

でも1年経って、疲れきっている自分に気づいた。

現実は、中途半端な仕事、中途半端な子育て。

仕事もしたい子育てもしたい。私は欲張っていたのかもしれない。

こどもは1歳5カ月。歩けるようになり、目が離せなくなってきた。
こどもは1歳5カ月。歩けるようになり、目が離せなくなってきた。
Kaori Sasagawa

核家族の家事時間を考えてみた

そもそも6歳未満の子を持つ夫婦の家事・育児関連に費やす1日当たりの時間は、妻は7時間34分。夫は1時間23分。共働き世帯に限ると、妻は6時間10分、夫は1時間24分だ(総務省 2016年「社会生活基本調査」)。

働く母は増え、18歳未満の子どもがいる人のうち仕事をしている人の割合は68.1%になった。共働き家庭は約6割。その人たちが毎日何時間も家事をしていることになる。

もちろん夫の家事育児参加は重要で、近年その理解は進みつつあるが、最近よく感じるのは、「そもそも、なんでみんなこんなに家事しているの?」ということ。

海外と比べても女性の家事時間が長い日本。

それぞれの家庭で、それぞれが家事して疲弊してるの、おかしくない?

そもそも、日本の家事時間、減らした方がよくない?

たとえば、誰かと夕食を一緒に食べる。お互いの子どもの面倒を見る。家事を交代でやるだけで半分になるのに、なんでそれぞれ大変な思いをしているんだろう。

食洗機、全自動洗濯機、ルンバ。便利な家電のおかげで家事はラクになったかもしれない。でも負担感は変わらない。タスクをこなす人は変わらない。

pondpony via Getty Images

もっとみんなで家事時間を減らす工夫はできないのだろうか。パートナーや遠方の家族に頼るだけじゃない、家事育児の仲間を増やすアプローチはないだろうか。

そんなことを考えながら、家事代行マッチングサービス「タスカジ」の元広報で、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の代表理事の平田麻莉さんの家を訪ねた。家事や育児をシェアする、これからの「家族のかたち」のヒントを探してーー。

「平日の料理をお願いする」という選択

朝11時。玄関を開けると、美味しそうな料理の匂いが漂ってきた。

平田さんは2年半前から月2回、朝9〜12時まで、タスカジの家政婦・タサン志麻さんに料理をお願いしている。

タスカジは料理や掃除、買い物や洗濯などの家事を代行するハウスキーパーと出会えるシェアリングエコノミーシステム。1時間1500円から、時間は一律3時間でお願いできる。

志麻さんは、キッチンに立って手際よく料理を作っていく。

コンロは3口フル稼働。食材が鍋の上でグツグツと音を立てる。

Kaori Sasagawa

食材は平田さんが前日スーパーで買ったもの。志麻さんがその場でレシピを考える。

志麻さんは、フランス料理を現地の三つ星のレストランで学び、帰国後は15年間予約の取れないフレンチレストランで働いたプロフェッショナルの料理人だ。一体なぜそんな人がタスカジさんとして、いろんな家庭で料理を作っているのだろうか。

「ずっと家庭料理がやりたかったんです」と志麻さんは語る。

Kaori Sasagawa

家族みんなで語らいあう料理の時間。フランスで学んだのは、家庭料理の原点。しかし、日本のフランス料理のお店は、かしこまる場所だった。

「子どもが肩肘張らずに食べられるフランス料理を」そんな思いを抱きながら、ずっと違和感を持ってレストランで働いてきたという。

長時間労働が当たり前のレストラン業界。結婚や出産といった女性のキャリアを考えるうえで、自分の時間を使って働けるタスカジで働くことを選んだという。今は生後11カ月のママでもある。

現在は、様々な家で美味しい家庭料理を作る。3時間で多いときは16品。それぞれのライフスタイルに寄り添って、料理をしたくない人には、とにかく品数を多めに。自分では作れない美味しいものを食べたいという人には、時間をかけた一品を作ることもあるという。

「(お父さんお母さんが)忙しくて時間がないというのはわかる。自分の子どもができて余計にわかる。毎日のことなので、食べることに時間をかけてもらいたい」と志麻さんは話す。

専業主婦を経て、平日は料理をしない暮らし

一方、フリーランスで広報や執筆の仕事をしながらフリーランス協会の代表理事を務める平田さんも、パラレルキャリアの仕事は多忙を極める。

「どうやって時間を作ってるの?」とよく聞かれるそうだが、「志麻さんがいなければ、私の今の仕事やキャリアはない」と明かす。

Kaori Sasagawa

平田さんや夫が平日に包丁を持つことはない。一家の胃袋を支えるのは志麻さんだ。

「保育園のお迎えが18時半。そこから料理したら19時半。子どもたちはお腹をすかせている。だったら、『志麻さんのごはんおいしいね!』といってニコニコ食べる方がいい」

夫も子どもたちも、志麻さんの料理が大好きだという。

果たして、心のどこかに「ちゃんと子どもに料理を作らなきゃ」という思いはないのだろうか(私が思っているから聞いてみた)。

平田さんは、長男が生まれたときに約1年半の専業主婦生活を経験している。「このときに家事をした経験があるから、まかせようと思えるのかもしれない」と明かした。

一度家事と向き合った経験があるから、いざとなれば自分でできる。だからこそ安心してまかせることができるのかもしれない。

そのうえで、平田さんは「タスカジさんは、対価を払っているからといって主従関係ではなく、自分ではできないことを、仲間になってやってくれている大切なパートナー。保育園の先生や実家の親と同じ、家事育児を回していくチームの一員だと思います」と語った。

家事をきっかけに親友になる。仕事が広がる。

12時。志麻さんが8品の料理を完成させた。

Kaori Sasagawa

鶏むね肉のソテー、イノシシとポテトのコンフィ、ジャガイモとひき肉のそぼろ、海老マヨ、牛肉とナスの時雨煮、トマトファルシ(詰め物)、豚の軟骨のトマト煮、イワシのマリネ。

どれも美味しい。家に帰ってこんなごはんがあったら、どんなに心強いだろう。

Kaori Sasagawa

「志麻さんは、親友でもあるし、家族ぐるみの付き合いでもある」

平田さんが体調を崩したときも、志麻さんは生後1カ月の赤ちゃんと夫を連れて見舞いに来てくれたという。最近は、タスカジの仕事が忙しく離婚の危機も経験したそうだが、良き相談相手になってくれたそうだ。

志麻さんの子どもが春に保育園に入園するまでは、料理をしている間は、平田さんが抱っこ紐で子どもを抱いて仕事していたという。

平田さんは、「志麻さんがいてくれるからこそ、今の私がある。広報の自分にできることは、恩返しで志麻さんのキャリアを応援すること」だと話す。

志麻さんはいま、「伝説の家政婦」として、メディアで注目を浴び、料理本が続々ヒットしている。家事代行のプロとしてNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演が決まる活躍ぶりだ。

家事育児はできて当たり前じゃない

家事をきっかけに、公私のパートナーに出会えることもある。

タスカジは「核家族から拡大家族へ」というビジョンを掲げている。家事代行サービスで家事のパートナーを探すのも選択肢のひとつだろう。

カーシェアも民泊も当たり前になった。家事だってシェアしていい。自分なりの方法で頼れる仲間を増やして、みんなで助け合うのが当たり前になったらいい。

共働きして子育てして、家事育児するのは、できて当たり前のことじゃない。

今年は家族を閉じずに広げていこうと思う。

うちの福ちゃん。猫の手も借りたい。
うちの福ちゃん。猫の手も借りたい。
Kaori Sasagawa

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