初めての「任務」は母親の腕を切り落とすこと-子ども兵問題の実態(前編)

子ども兵とは、「正規、非正規を問わず、あらゆる軍隊に所属する18歳未満の子どものこと」を指す。

「誘拐された僕は故郷を襲撃することを強要された。そして、母親の腕を切り落とした。」

ウガンダ北部グル市の様子(photo by 原貫太)

今年1月、私は東アフリカに位置するウガンダ共和国へ渡航。子ども兵問題の実態を少しでも知ろうと、首都カンパラからバスで6時間の北部グル県へ向かい、認定NPO法人テラ・ルネッサンスが運営する元子ども兵社会復帰施設を訪問した。

アジア、アフリカ、中東、中南米などの紛争地域を始めとし、未だ世界に25万人以上いると考えられている子ども兵。元少女兵へのインタビューなどを通じ、改めてその問題の深刻さ、そして世界の不条理を痛感させられた。子ども兵問題の実態に迫る。

子ども兵とは

子ども兵とは、「正規、非正規を問わず、あらゆる軍隊に所属する18歳未満の子どものこと」を指す。子ども兵には戦闘に直接関わるもの以外の兵士(非戦闘員)も含まれ、そこには少年兵だけではなく、後ほどインタビューで紹介するような少女兵も含まれる。

なお、「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」(1989年採択)では18歳未満を「児童(子ども)」と定義しており、同条約38条では、15歳未満の児童の軍隊への採用禁止が規定されている。

子ども兵(写真提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

子ども兵が誕生する要因

子ども兵が誕生する要因は大きく分けて二つ存在する。

●自ら志願して兵士になる場合

アジアやアフリカを始めとする発展途上国が抱える大きな問題として、失業率の高さとそれに伴う貧困が存在する。経済的な苦しさから脱出しようと、就職先として政府軍や反政府軍に入隊するのだ。子供たち、特に家族や親戚も無く、路上で生活するストリートチルドレンのような子供たちは、兵士になると最低限の衣食住が確保できると期待している。入隊後の彼らは、他人から信頼される喜びを感じ、軍隊に居続けることが多い。軍隊は、彼らにとっての「新しい家族」なのだ。

また、食糧を奪ったり、人々からお金をゆすり取るための銃を手に入れるため兵士になる場合、身内を殺されてその復讐のために兵士になる場合も存在する。

隣国のルワンダで出会ったストリートチルドレンたち。(photo by 原貫太)

●誘拐され強制的に兵士にさせられる場合

政府軍や反政府軍勢力が、偶然街で見かけた子どもを誘拐したり、また小さな村を襲撃して数十人を強引に誘拐したりする。大人よりも子どもは純粋で、洗脳もしやすく扱いやすいからだ。

実際、ISでも女性と子どもを誘拐し、女性は性奴隷に、子どもは兵士にさせられる。一昨年の2014年4月にはナイジェリア北東部において、イスラム過激派組織ボコ・ハラムが女子生徒200人以上を誘拐、同組織は少女たちを自爆犯に利用しているというケースも存在する。(関連記事:「フェミサイド」を国際法に、フランス大臣が提言。--奴隷にされる女性たち)。

子どもを洗脳するため、最初の「任務」として親や兄弟を殺したり、または四肢を切り落としたりすることが強要される。他人を殺すことの抵抗を無くさせるためだ。また、麻薬やアルコールを用いて洗脳が行われる場合も多々存在する。

一度人を殺す「楽しさ」を覚えてしまった子供は、殺戮マシーンにもなりうる。

子ども兵(写真:認定NPO法人テラ・ルネッサンス提供)

子ども兵の役割

子ども兵の役割は様々に存在するが、具体的に以下のようなものが挙げられる。

●敵対勢力との戦闘・村の襲撃

●敵対勢力のスパイや情報伝達

●地雷原を歩かされ、人間地雷探知機(地雷除去装置)として使われる

●最前列で行進させられ、弾よけとして使われる

●新たな子ども兵の誘拐

●武器や食料のなどの荷物運び

●少女兵の場合、性的虐待や強制結婚をさせられる(少年兵も性的虐待を受けることがある)

その特徴として、子どもは従順で洗脳されやすく、小柄で機敏であり、そして強制的に徴兵することも可能なため、すぐに戦力を「補充」することができる。つまり、彼ら彼女らは消耗品として扱われているのだ。

また、規律や上官の命令に反したり任務を怠る子どもに対しては、他の子どもへの見せしめとして厳しい体罰、体の一部の切断、場合によっては死刑にする軍隊もあり、他の子どもに罰を与える役目を担わせることもある。

社会復帰施設で工芸の授業を受ける元子ども兵の生徒たち(photo by 原貫太)

子ども兵問題に対する国際社会の取り組み

●オランダ・ハーグに本部を置く国際刑事裁判所(International Criminal Court)の規定では、政府、非政府のあらゆる軍隊が15歳未満の子ども達に入隊するよう勧めたり、また実戦に参加させたりすることは「戦争犯罪」とすることが定められている。

●国際労働機関(International Labor Organization)条約は「18歳未満の子どもを無理やり軍に入隊させたり、義務的に入隊させて紛争で戦わせたりすること」を児童労働の最悪の形態の一つに挙げており、加盟国に対して最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃を確保するために即時かつ包括的な措置をとることを要請している。

●そして以上の条約を受けて、「子どもの権利条約」の追加議定書である「武力紛争への子どもの関与に関する子どもの権利条約の選択議定書」が2000年に採択された。この議定書では、武力衝突に直接加わることが法的に認められる年齢を15歳から18歳に引き上げ、また18歳未満の子どもの強制徴の禁止、国家以外の勢力への適用が明示された。この議定書は2007年時点で119カ国が批准している 。

「私は12歳で「少女兵」になった。-子ども兵問題の実態(後編)」へ続く

原貫太

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