『終戦のエンペラー』-宿輪純一のシネマ経済学(5)

8月の日本で公開の映画は、時節柄どうしても第二次世界大戦関連の映画が多くなる。この映画は8月15日の終戦の後、8月30日にGHQ(General Headquarters)最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥が厚木海軍飛行場に降り立つ、そして、9月27日の天皇陛下との会談までの1ヶ月の短い期間が中心となる。その本当に短い期間に、日本の将来が決まったのである。

『終戦のエンペラー』(Emperor)2012年(米)

8月の日本で公開の映画は、時節柄どうしても第二次世界大戦関連の映画が多くなる。この映画は8月15日の終戦の後、8月30日にGHQ(General Headquarters)最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥が厚木海軍飛行場に降り立つ、そして、9月27日の天皇陛下との会談までの1ヶ月の短い期間が中心となる。その本当に短い期間に、日本の将来が決まったのである。

本作は、原作は日本でありながら、アメリカ製作である。アメリカ製作で日本を舞台にした映画では『ラストサムライ』(2003年)や『硫黄島からの手紙』(2006年)と"印象"がダブる。メインのロケは最近人気のニュージーランドで行われ(『ラストサムライ』もニュージーランドロケ)、皇居内でもロケされた。皇居内のロケは筆者の知る限り初めてのはず。

出演の俳優については、アメリカサイドは以外に少なく、アカデミー賞男優のトミー・リー・ジョーンズとテレビドラマ『LOST』でブレイクしたマシュー・フォックスぐらいしかいない。トミー・リー・ジョーンズは日本では缶コーヒーのコマーシャルのボケた印象が強すぎるが、実際はハーバード大学出身の秀才である。大学寮のルームメイトがアル・ゴアである。また、彼はちょうど、66歳であるが、マッカーサーが日本に来たのとほぼ同じ歳である。

本作は、岡本嗣郎のノンフィクション『陛下をお救いなさいまし 河井道とボナー・フェラーズ』がベースとなった歴史サスペンスである。ダグラス・マッカーサー元帥(トミー・リー・ジョーンズ)が日本に上陸し戦後の処理を開始する。彼は日本文化に精通している(知日派・親日派)の部下ボナー・フェラーズ(マシュー・フォックス)に、太平洋戦争の真の責任者を探し出せという極秘任務を下す。しかも、わずか10日間(この短さはすごい!)が期限という厳しさ。しかし、日本人女性との恋愛もあるが、彼は懸命な調査を行い、日本国民でさえも知らなかった太平洋戦争の事実を暴き出していくものの、大きな国家機密に近づくと、敵対するGHQメンバーや一部の日本人が妨害をするなど、お約束であるが、障害が立ちはだかる・・・。

そして、クライマックスの天皇陛下のマッカーサーとの会談となっていくが、(通訳はいたものの)一対一での面談で、陛下の高潔な態度に感銘を受けたマッカーサーが天皇を戦犯として裁判には掛けず、国の象徴としての地位を維持すべしとの決定に向かっていく。やはり、何事も最後はその人格が重要であると筆者は信じる。この映画には、日本に対する敬意も感じるのは筆者だけだろうか。

戦争と経済の関係は昔からよく研究されていた。16世紀のイタリア・フィレンッツェ共和国の外交官ニッコロ・マキャベリは、ローマ時代を分析して政治のあり方を説いた『君主論』を書いたが、戦争関係でも『戦術論』を書いている。そのなかでは、ローマ時代の戦争と経済との関係について、当初(共和制)は封建制度に基づいた家臣と騎士によるある意味、正義・宗教的な戦闘員による制限的な戦争であった。したがって、経済本体への影響は少ない。しかし、後期(帝政)になってくると、傭兵が中心となり、財宝や戦利品などの利益追求(略奪)が戦争の目的となってきて、経済本体へ悪影響が大きくなってきたことが、ローマの崩壊の一因ともしている。

第二次世界大戦のように、経済的な問題の利権争い等から戦争が起こる。しかも、近代戦争では、第二次世界大戦のときは非戦闘員や市街地も無差別に攻撃するようになり、経済をも破壊することになる。

財政出動の経済効果も一時的なものであるが、まだインフラなどはその後も残り、使用が可能である。それに対し、戦争も財政出動と同様に予算を使うが、とにかく破壊行為なのである。もちろん軍事関連などの一部の企業は売上が伸びることとなるが。ちなみに、筆者がディーラーになりたての頃は「有事のドル買い」が常識であったが、最近では、米国本土でのテロとの戦いとなってきたため、一概にそうとは言えなくなってきた。

しかも、戦争は莫大な予算を使うため、国が傾く一因となる。米国のベトナム戦争やソ連のアフガン戦争、最近ではイラク・アフガニスタンへの派兵も同様に国家予算を困窮化させている。

日本は第二次世界大戦後、復興することとなった。それは、(語弊があるかもしれないが)究極的な構造改革、いわゆる最近流行りの"ガラガラポン"(すっかり入れ替えること)かもしれない。何もなくなったのだから、新しく作るしかなかったのである。誤解して欲しくないが、筆者はとにかく戦争には大反対である。

筆者の書籍紹介『アジア金融システムの経済学』(日本経済新聞社)


(出版社による説明)

アジア経済圏をさらに発展させるには、債券市場の充実と共通の決済システムによる資金循環ネットワークの構築が不可欠だ。新たな金融システム整備の動きを、アジア開銀や国際機関での現場の議論をふまえ解説。

「効率的で統合力の強い経済ネットワークを構築せよ」東アジア共同体は、まず金融から域内市場を一本化することで成立を促進できる!「アジア共通決済システム構想」「アジア中央銀行構想」などの具体的なアイデアを実務家の視点から提言。

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