予想外のことと柔軟な頭――『清須会議』−宿輪純一のシネマ経済学(15)

「清須会議」とは、本能寺の変で織田信長が亡くなった後、安土桃山時代の1582年に実際に開かれた、織田家の継嗣問題と領地再分配に関する会議である。清須とも、清洲とも清州とも書かれる。JR清洲駅までは名古屋から10分足らずである(また、観光ブームになろう)。

『清須会議』2013年(日)

「清須会議」とは、本能寺の変で織田信長が亡くなった後、安土桃山時代の1582年に実際に開かれた、織田家の継嗣問題と領地再分配に関する会議である。清須とも、清洲と∂も清州とも書かれる。JR清洲駅までは名古屋から10分足らずである(また、観光ブームになろう)。

歴史であり、結末は分かっているのであるが、監督の三谷幸喜監督が"三谷流"のコメティに仕上げている。三谷監督の作品はどれも好きであるが、その登場人物に魅力があると思う。登場人物は、ほぼ全員、弱くて、良い人で、一生懸命頑張っているからである。

三谷監督は1961年生まれ。大学時代に旗揚げした劇団「東京サンシャインボーイズ」で作・演出を手がけて大成功し、テレビドラマ、次いで映画に進出した。映画作品は『ラヂオの時間』(1997年)、『みんなのいえ』(2001年)、『THE 有頂天ホテル』(2006年)『ザ・マジックアワー』(2008年)、『ステキな金縛り』(2011年)とヒット作が並ぶ。

出演者がすごい。三谷組とも呼ばれる、よく三谷映画に登場する役所広司、小日向文世、佐藤浩市、寺島進、妻夫木聡、西田敏行、戸田恵子に加え、大泉洋、浅野忠信、でんでん、松山ケンイチ、中谷美紀、中村勘九郎、坂東巳之助、伊勢谷友介、鈴木京香、天海祐希、ほかにもたくさんの俳優が出演する。日本映画界でこれだけ一流の主役級の役者をそろえられるのは三谷映画だけではないか。まさに、映画界のジャイアンツというか、ヤンキースともいうことができる。そのぶん、短い時間の出演となってしまうのは致し方ないことか。ネタバレになるので書けないが、西田敏行が出てきたときは嬉しくなった。

さて、ストーリーであるが、基本的には史実に沿っているので、どんでん返しやサプライズはない。本能寺の変によって織田信長が亡くなり、バタバタした後、筆頭家老の柴田勝家(役所広司)と羽柴(豊臣)秀吉(大泉洋)が後見に名乗りを上げる。勝家は三男の信孝(坂東巳之助)、秀吉は次男の信雄(妻夫木聡)をそれぞれ後継者として担ぎ、さらに勝家は信長の妹・お市(鈴木京香)、秀吉は信長の弟・三十郎信包(伊勢谷友介)とグループ化する。そして跡継ぎを決めるため、初めて会議で歴史が動いたといわれる清須会議が開催され、三谷流の人間劇が始まる・・・。

そもそも戦国時代の歴史は予想外のことが多いが、この映画の中でも、予想外のことが沢山起こる。柴田への色仕掛けや、信雄のどうしようもなさ等、予想もできない展開がある。これは、人生でも経済でも一緒である。

誰が、9.11や3.11の悲劇を、そしてリーマンショックを予想出来たであろうか。正規分布の確率論をベースとした金融工学に、揺らぎがおこった。予想以上のことが発生を肯定するブラックスワン理論も流行った。これは、昔は「そんなことをいうのは黒鳥を探すようなものだ」と言われたからである。もっとも、探検隊が実際にオーストラリアで黒鳥が見つかってしまったが。

要は、経済も、人生も予想外のことが多い、予想することが難しいということである。その事柄に如何に対応するか、政策を打つかが、大事になってくる。教科書、手続きや規則に書いてないことが起こるのである。規則などになっているのは過去の事象である。様々な事柄に対応する柔軟性、そして、辛いことを成し遂げていく実行力が必要になってくる。頭の固い人には対応できない。

筆者の人生も、良いことも悪いことも予想外のことが多かった。しかし、予想できないことが多いから、経済も人生も楽しいのではないか。決まりきった人生や、努力によって上に上がれない人生ではつまらない。経済もそうである。この非常時には量的緩和と財政出動といった一時凌ぎではなく、成長戦略という名の構造改革が必要なのは皆、分かっているが。

「宿輪ゼミ」

経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年から行っているボランティア公開講義。東京大学大学院の時、学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。老若何女、どなたにも分かり易い講義は定評。まもなく8年目になり「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にもなりました。「シネマ経済学」のコーナーも。

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