『永遠の0』(2013年日本)
太平洋戦争(第二次世界大戦)において、零戦(ゼロ戦)で特攻した搭乗員の悲劇を描いた百田尚樹(ひゃくた なおき)のベストセラーの映画化。
この『永遠の0』であるが、もともとは小説で、なんと売上300万冊を突破しているというから、本当に驚きである。筆者も物書きの端くれであるので、実感として分かるが、この300万という数字はありえない。この世界では一般的に100万売るためには、その100倍の1億人が興味を持ったものと言われている。300万とは3億人なのである。多分、2冊、3冊と買い求められた方も多いのではと思う。それほどすごい小説である。
それよりも、百田氏がもっとすごいのは小説家になったのは50歳で、それ以降、出す本が全てベストセラーというから、超驚きである。(筆者は今50歳、もうひと頑張りしなければ)彼の小説のすごさは綿密な調査に基づくところで、戦闘機等の細かい部分まで正確に描かれている。なお、映画では時間の関係があり、小説のすべてが描かれているわけではないのが残念であるが。
さて、祖母の葬儀の席で実の祖父・宮部久蔵(岡田准一)の存在を聞いた佐伯健太郎(三浦春馬)が主人公。健太郎は、弁護士試験を落ちまくり(現在は弁護士試験の制度は変わったが)進路に迷っていた。太平洋戦争の終戦間際に特攻隊員として出撃した零戦搭乗員だった宮部のことが気に掛かり、かつての彼の年老いた戦友たちを訪ね歩く。天才的な技術を持ちながらも、いきなり「海軍一の臆病者」と呼ばれていた。しかし、それは、「娘に会うまでは死なない」との約束を守り続けていたためである。その後も悲しい感動的な話が続く。
太平洋戦争も形勢が不利になり、軍(組織)の司令によって同僚が死んでいく、その中で、宮部も精神的にも疲れていく。そして日本や家族の"将来"を考えて、やむなく戻って来られない特攻隊となる。理解するものが還り、その志を継いだ。ネタバレになるのでこれ以上書けないが。他人のために自分を捨てる"自己犠牲"は、間違いなく人の心を動かすものであり、映画の主要なテーマの一つである。
筆者は船舶や飛行機も好きであるが、空母赤城やゼロ戦もよく描かれていた。ゼロ戦が優秀な戦闘機であることも非常によくわかった。
この"将来と現在"の関係は経済でも非常に大事な観点となる。経済政策(経済学)でも人の感情が重要となってくる。感情というものはある意味"現在"をより重視する傾向があのではないか。しかし、人間の賢さは"将来"を考えられるということではないか。
その点で、現在の日本の経済政策は、現在の経済の回復のため、さらに物価を上昇させるために、借金を膨らまして、"将来"に負担を増やしている。すなわち「先送り」と考えられるのは筆者だけであろうか。
国の借金が今年度末には1100兆円を超え、国民一人当たりで800万円の負担となる。来年の予算も拡大し、2014年一般会計(予算)総額は約96兆円と過去最大になり、そのうち国債(借金)による調達は、この数年と比べればやや下がったが43%もある。GDP対比も、イタリア、スペイン、ギリシャも抜いて、もちろん世界一の財政悪化国である。
現在、今まで通りの土木を中心とした財政出動(政策)とシニアの消費と、皮肉なことに消費税の値上げ前の駆込み購入で、一時的に景気は良くなっている。しかし、特に財政出動は借金をさらに増加させている。それは"将来"への負担の「先送り」かもしれないのである。クレジットカードと同じ構造ではないか。借金は、いつかは返さなければならない。
本作で日本の"将来"を考えた主人公がいたが、我々も単に映画見て一時的に感動するだけではなく、我々国民自身や社会全体が、日本経済の"将来"のために認識を変えて、実際の生活の中でも痛みをともなう努力(改革)をしなければならないのではないか。
「宿輪ゼミ」
経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の時の学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたにも分かり易い講義は定評。まもなく8年目になり「日本経済新聞」や「アエラ」にも取り上げられました。「シネマ経済学」のコーナーも。
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