第1回目のパブリテック自治体講座は、鎌倉市長 松尾崇さん、株式会社ぐるんとびー代表取締役菅原健介さんをお招きし、<共生×鎌倉×パブリック>というテーマで開催いたしました。
ご登壇いただいた講演、およびコーディネーターに共創法人CoCo Social work CEO兼ソーシャルワーカーの菅原直敏さんが加わった、パネルディスカッションの様子を紹介させていただきます。
本記事では、パネルディスカッションを前編・後編に分けて、ご紹介させていただきます。
主催団体 公式Facebook ☞ https://www.facebook.com/jpolicy.org/
後援団体 パブリテック推進協議会 ☞ http://publitech.jp/
*パブリテックの基本的な考え方
「テクノロジーをどう活用してどのような世界観を実現していくのか」というところに重きをおいています。
*パブリテック自治体講座とは
AI・VR・ブロックチェーンなど、テクノロジーが発達している中で、その技術の中身について話すだけでなく、「実装している方」を官民問わずお招きして講演していただきます。最後には、会場の皆様ともパネルディスカッションを通して深めていきます。
以下、パネルディスカッションの内容です。
直敏さん:お二人から、鎌倉市の話・藤沢市のUR集合団地ぐるんとびーの話をお伺いしましたが、この2つの話、全く関係のないように見えて実はかなり関係があるんですね。だからこそお二人をお呼びしているんですが、「3つ大切な観点」があると思うんです。
まず1つは「常に疑う」
もう1つは「決断をする」
市長として、あれだけいろんなテクノロジーを採用するって簡単なことじゃないんですよね。庁内でも「やるぞ!」という決意がないとできません。
そして最後は、テクノロジーの話で日本に一番欠けている「世界観」
どういう世界観でいきたいか、これはビジョンとも言い換えられるし、みなさん個人になれば生き方に当たると思います。実は今、私もすごく危惧しているのは、テクノロジーの話が先行する一方で、何のためにテクノロジーを使うのかが議論されていないことです。
例えば、いま鎌倉市ではテレワークを推奨すると。
「何のためにテレワークするんですか」の理由がない中でやるとなると、それは押し付けになりますよね?やりたくない人も出てくるかもしれない。そういう点で考えると、健介さんの話は世界観が裏にみえます。松尾さんは、決断して、それを実装していく話。
「それがくっつきつつあるのが鎌倉・湘南地域なんだ」そういった文脈で話を進めていきたいと思います。
実はここにいる3人で、5月に一緒にデンマークに行ってきました。
デンマークといえば、医療福祉が進んでいたり、個人的には「生き方みたいなものを持っている」「比較的依存じゃない」といった感覚があるんですが、お二人にもデンマークに行ってみて、「ここすごいな」「ここ日本とは違うな」などありましたら印象を伺いたいです。
松尾さん:簡単なところでいくと、物価の高さには驚きました。
コーラ1本で350円とか、所得税も50%くらいで負担が大きい。そういった政策を簡単に比較しても意味はないと思うんですが、行政や医療福祉など、いろんな方々にお話を伺うとみなさん同じことをおっしゃるんです。全て「住人の生活を高めていくため」「豊かにしていくため」と、どこに行っても申し合わせたかのようにこの話で締まるんですね。それが私としては物凄く印象的でした。
健介さん:僕はデンマークに住んでいましたが、「デンマークの感覚が自分の中に入っている」と気づいたのは最近になってからですね。
今回で驚いたのは、松尾さんをたかし君にしてしまったことですね。デンマークでは、みんなが人として対等で、市長であるとか肩書が関係なく、フリーでいられるところだなと。何かしないといけないという矢印のような、縛りがないと感じました。
また、松尾さんもおっしゃっていたように、わりとどこに行っても皆が「国民のため」という話をしていました。
あと税金が高いですね。ただ、平均所得も700万円なので「果たしてこれは高いのか」というのがありますね。
直敏さん:デンマークの役所は三階層。市役所、都道府県のようなリージョン、そして国があって、かつ、自治体毎にエンジニアリングといったセクションがあるんですが、驚いたのはどこにいっても、テクノロジーは「自立して生きるためでしょ」ということが共有され、オーソライズされていること。その世界観がしっかりしているから、何のためにテクノロジーを実装していくのかが非常にハッキリしている。
テクノロジー課にいると企業の方がたくさんいらっしゃるんですが、実験をさせるんですよ。今日も企業の方いらっしゃってますし、鎌倉市で実験したい人も多くいると思います。
デンマークでは実験をさせる代わりに、全部のデータをオープンにしてライバル企業にも公開させます。これ、かなり厳しいことですよね。
なぜそうするかというと、税金を使って行うことだし、何よりも、それが利用者である市民・国民にとって良いことであるから。オープンにすることによって、企業の皆さんが疲弊するかもしれないけれど、それによって良いサービスが生まれるのであれば良いじゃないかということなんです。
テクノロジーと理念って一見関係のないようですけれども、「アナログの理念がしっかりしていないと、どんなにテクノロジーを導入していってもあまりいい形で実装されないんじゃないか」というところをみんなで共有できたかと思います。
ところで、市長の仕事って激務じゃないですか。一週間デンマークを訪れたことによって仕事にタイムラグって生まれましたか?
松尾さん:デンマークに行っている間、いろいろと鎌倉でも問題は起こるんですが、SNS、LINEやFacebookで指示を出せば解決できるものがほとんどでしたね。
ただ、唯一解決できないのが決済でした。これだけは「私でなければボタンを押してはいけない」としていたので、止まっていました。それを除いては、デンマークにいても何ら問題はありませんでしたね。
直敏さん:決済の代理というのは鎌倉市のシステムだと、役所に登庁して、「そのボタン」があるということなんですか?
松尾さん:そうです。
直敏さん:じゃあ、そのボタンをデンマークに持っていけばいいじゃないですか。茨城県庁がついに決済システムをIT化した、みたいな話があったじゃないですか。できるんじゃないですか?
松尾さん:そう、できるんだけど、そこはまだできないんだよ(笑)
直敏さん:テレワークに舵を切ったじゃないですか、すごいんですよ。あと5年で実装すると。だったら市長もクラウド化しちゃえばいいじゃないですか、ここにいる必要があるのかと。今日も画面から話してもらっても良かったですね(笑)
だけど私がね、「市長が大変だな~」と思ったのは、実際、クラウド市長だって成り立っちゃうんですよ。なんの不利益も被らないし、むしろ税金の節約で良いはずなんだけど、実は理性的な議論ができないんですよね。
テクノロジーの実装もそうだと思うんですが、理屈で話せば本当は良いはずなのに、エビデンスベースで議論できないというか...感情が混ざっちゃう。そこらへんご苦労されてると思うんですが、いかがでしょうか。
松尾さん:さっきの実験の話もそうですが、カヤックさんなど、鎌倉で頑張っている企業があるのですが、そこと仕事をしようとすると議員から「お友達と組んでいる」と批判されたことがありました。
手続き的に公平に、期間をかけてやっていかないといけない。しかし時間がかかってしまって、それは誰の得にもなっていないのですけれど。ただ、ここはちゃんと手順を踏んでやっていますね。
直敏さん:どうなんですかね、デンマークだとどうやるんですかね。
健介さん:どうなんですかね。僕は、お友達であろうとそれがそこに住む人たちにとってプラスになるんであれば良いんじゃないかと思います。
僕が自治会連合会などを横断的にやっているのは、理念や価値観が全体で共有できていないと、どこかで止まってしまうからなんです。この間も自治会連合会で、「子どもたちに関する、あるシステム」をテスト的に導入しようというのを決めて、「これでやろう!」と一旦まとまったんですが、もっと良いものが後から見つかってしまったんです。
でも、「いったん自治会連合会で決まったことだから、新しいのは一年後にやろう」となりました。今年会議にかけて、1年後にチラシに載せて、2年後に導入と。
これに対して若手からは「この町はじいさんばあさんだけ暮らしていければいいのか!」という声があがってしまいました。結局、「1年2年遅れても、地域のいままで通り、筋を通してやっていくのも大事なんだよ」という返答に若手は撃沈していきました。
どちらか極端にふれる必要はないんですが、「どこに向かっているのか」がわかっていないといけませんね。若手も対立したくはなかったと思うんですよ。「何のために」を共有できていない環境が良くないと思い、それを変えたくて横断的に組織に入っているんですが、なかなか難しいですね。
直敏さん:デンマークの人たちは「ビジョンにフォーカスしていく」ことに長けているということなんですかね。
テクノロジーの議論でよく話題にのぼるのが、意識の問題もありますが、「アナログなプロセスが邪魔してることも結構あるのかな」ということ。鎌倉の町内のお話とか、議員さんのお話、健介さんの自治体のお話を伺っていて、プロセスで引っかかることもあるんじゃないのかと思うんですよね。
逆に松尾さんすごいと思うんです。ともすれば議会から「友達とやっているんじゃないか」とツッコミが来る中で、それをどうかわしているのか。
松尾さん:最初は相当批判をもらいましたが、やり続けているうちに最近は言われなくなりました。悪いことはしていないので。
「自分のためにやっているんだろう」と見られますけど、「これが住人のためになる」という信念のもとでやっていれば、そのうちわかってもらえると思います。
直敏さん:行政と民間の関わりで難しいのってやっぱり、「友達じゃないか」「便宜をはかっているんじゃないか」と批判をもらいかねないところですよね。
やり続けたらって...。もっと何か「コツ」のような、今日来てくださっているみなさんの参考になることないですかね(笑)
でも、僕も松尾さんと付き合い長いんですけど、彼本当に私欲がないんですよ。だけどそれって万人に通じないと思うので、もうちょっと一般化してほしいところです(笑)
健介さん:話は変わってデンマークに戻るんですが、デンマークでは牧師さんを公務員として採用しているんですよ。
直敏さん:あ~、これも今の世界観の常識ですよね。
日本で例えたら、神主さんとかお坊さんとかを公務員として採用したら政局的な話になると思うんですが、そういう国もあるということです。
鎌倉はお坊さんたくさんいらっしゃるじゃないですか。どうですか?
松尾さん:教育委員さんにはご住職の方がなってくださっていて、政局というところではいろいろ気を遣っていただいていますが、考え方なんかは、だいぶ踏み込んでお話もしていただいていますし、距離はだんだんと縮まっているのかなと思います。
鎌倉は実は、キリスト教、仏教、神道が年に1回集まって、みんなでお祈りをしているんですね。これも7年続いていて、市民にとっても、物凄く誇りに思ってもらっています。みんなが世界平和にむかって「宗教の争いをなくそう」と発信できることは有り難いことですし、宗教に対する距離感というのも少しずつ取り込んでいけたらと思っています。