サッカー日本代表に奢りはなかったか?「自分たちのサッカー」の限界を露呈し、ブラジルで惨敗

2010年南アフリカワールドカップを上回る成績を目指し、自分たちで主導権を握って攻めに行くスタイルを志向してきた日本代表。しかし2014年ブラジルワールドカップでは、世界の高い壁に改めて直面した。14日(以下現地時間)の初戦・コートジボワール戦(レシフェ)でわずか2分間でアッサリと逆転負けしたことが暗い影を落とし、19日のギリシャ戦(ナタル)ではゴール前をしぶとく守る相手を攻めきれずに勝ち点2を落とした。もはや勝利しか1次リーグ突破の可能性がない崖っぷち状態で挑んだ、24日のグループ最終戦・コロンビア戦(クイアバ)。
CUIABA, BRAZIL - JUNE 24: Maya Yoshida of Japan (R) reacts after the 2014 FIFA World Cup Brazil Group C match between Japan and Colombia at Arena Pantanal on June 24, 2014 in Cuiaba, Brazil. (Photo by Mark Kolbe/Getty Images)
CUIABA, BRAZIL - JUNE 24: Maya Yoshida of Japan (R) reacts after the 2014 FIFA World Cup Brazil Group C match between Japan and Colombia at Arena Pantanal on June 24, 2014 in Cuiaba, Brazil. (Photo by Mark Kolbe/Getty Images)
Mark Kolbe via Getty Images

2010年南アフリカワールドカップを上回る成績を目指し、自分たちで主導権を握って攻めに行くスタイルを志向してきた日本代表。しかし2014年ブラジルワールドカップでは、世界の高い壁に改めて直面した。14日(以下現地時間)の初戦・コートジボワール戦(レシフェ)でわずか2分間でアッサリと逆転負けしたことが暗い影を落とし、19日のギリシャ戦(ナタル)ではゴール前をしぶとく守る相手を攻めきれずに勝ち点2を落とした。もはや勝利しか1次リーグ突破の可能性がない崖っぷち状態で挑んだ、24日のグループ最終戦・コロンビア戦(クイアバ)。ザッケローニ監督は異例の休養を挟んで、選手起用を改めて熟考したのだろう。縦への速さが持ち味の、青山敏弘(広島)を長谷部誠(フランクフルト)と組ませてボランチで先発起用し、大久保嘉人(川崎)をついに1トップに据えた。そしてこれまで4年間、チームの得点源となってきた岡崎慎司(マインツ)、本田圭佑(ミラン)、香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)の3人を2列目に並べる勝負布陣で勝ちに行った。

追いつめられた選手たちは攻めの姿勢を出すしかないと覚悟を決めたのだろう。序盤こそ相手の個人技とスピードに翻弄されかかったが、大久保の鋭い飛び出しなどから流れを引き寄せ、ゴールに迫る。大久保の体を張ったプレーを見れば見るほど、なぜもう少し早く彼を先発1トップで使わなかったのかという疑念が湧いてくる。ここ2戦先発した大迫勇也(ケルン)に比べても、相手への威圧感は明らかに上。的確な判断を下せなかった指揮官のミスが悔やまれた。だが、日本は今野泰幸(G大阪)がアドリアン・ラモス(ドルトムント)を倒したプレーでPKを取られ、与えてはいけない先制点を奪われる。「この1点でガクッと来たところはある」と内田篤人(シャルケ)も話していたが、重要な試合で後手を踏むのはやはり痛かった。それでも岡崎が真骨頂のヘディングシュートで前半終了間際に1点を返したところまでは希望が感じられた。

しかしコロンビアが、後半頭から若きエース、ハメス・ロドリゲス(モナコ)を投入してくると、日本の守備陣は、いとも簡単に崩され始める。ジャクソン・マルティネス(ポルト)の2点目の場面などは、相手が右サイドを崩した時に長友佑都(インテル)らがマークに行ってもボールを取れず、そのままロドリゲスに繋がれ、複数の3人が寄ったことで生まれたスペースにマルティネスが入りこんで決めたゴールだった。まさに崩しのお手本といってもいい一発に日本選手たちは世界との差を突きつけられたことだろう。そこから先はオープンな打ち合いになり、日本は次々と相手の鋭い逆襲を受けた。ボール支配率は56対44、シュート数もコロンビアの13本に対して日本は23本と圧倒的に上回ったのに、結果は1-4。ザッケローニ監督が、ゴールの匂いを唯一感じられた岡崎を外したこともチームの流れを止めてしまうことに繋がり、コロンビアの2軍に屈辱的な惨敗を喫することになった。

「何をしていけばいいのか今は全く分からない。勝つことに対してチームとして何をすればいいのか......。本当に自分が力不足ということしか答えられない」と一矢を報いるゴールを挙げた岡崎が失望感を露わにし、強気がモットーの本田も「何を言ってもただの負け犬の遠吠えになってしまう。自分が言ったことに対しての責任もある」と、普段の覇気は見られなかった。「この大会で成長した自分を見せたい」と強調していた長友などはピッチ上で呆然として動けず、取材にも答えずスタジアムを去った。「自分たちのサッカー」にこだわり続けてきた彼ら主力たちは、この不甲斐ない結果と内容、そして世界との力の差を誰よりも強く実感したに違いない。「南アフリカ大会の時のような、引いて守るだけの戦いはしたくない」と、長友は口癖のように言っていた。その言葉通り、打ち合いに挑んだ結果、日本は勝ち点1しか奪えずに敗れた。その厳しい現実を日本サッカー界はしっかりと受け止めないといけない。欧州ビッグクラブでプレーする選手が数人出るようになったからといって、日本はまだまだ強豪国の仲間入りをした訳ではないのだ。であれば、当然相手の出方を考えて戦術を変えていく必要はある。それをせず、自分たちのサッカーを追い求めてきたザックジャパンに、奢りはなかっただろうか......。

確かにアジアではそれでも勝てる。しかし世界へ出たら全くスタンダードが違う。その現実を我々は改めて再認識するべきだ。そして時には引いて守るような戦いも必要だ。個の力ではまだまだ及ばない日本が世界と互角に戦うとしたら、組織力や戦術でカバーするしかない。その重要性をしっかりと認識したうえで、未来を考えていく必要がある。「負けから学ぶこともある」とかつてイビチャ・オシム元日本代表監督は言っていた。この惨敗はある意味、ここまでの流れを大きく変えるチャンスでもある。日本サッカー協会も選手たちも、そして我々も、ここからの道を真剣に模索すべきである。

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元川 悦子

もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

(2014年6月27日「元川悦子コラム」より転載)

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