サッカーW杯、夏季五輪と並んで世界3大スポーツイベントであるツール・ド・フランス
■ ツール・ド・フランスは自転車界のW杯
現在開催中のFIFAワールドカップ(以下W杯)が世界最大のサッカーの祭典であるように、サイクルロードレースの世界最高峰がツール・ド・フランスだ。日本ではまだまだ認知度が高いとは言えないが、実はツールはサッカーW杯、夏季オリンピックと並んで世界3大スポーツイベントのひとつ。しかも、その中で毎年開催されるのはツールだけ。つまりはW杯、五輪なみの興奮が毎年味わえる大会だとも言えるのだ。
それでは、参考までに数字の側面からW杯とツールを比較してみよう。
ツールの初開催は1903年で、戦争期間中の中断を除き今年で101回目を迎える。W杯は1930年に始まり、今年が第20回大会なので、実はツールの方が歴史は古い。
観客数やメディアの注目度に目を向けると、W杯は前回2010年南アフリカ大会で総観客数が約318万人。TVでは世界70カ国で生中継され、最も多い指標で述べ260億人が視聴したというデータもあり、まさに世界最大のスポーツイベントだ。
一方のツールは生中継で60局、ダイジェストやニュースなどを含めると世界約190カ国で放送され、視聴者数は35億人と言われている。また観客数は、ひとつのスポーツイベントとしては最多の1,500万人を数える。とはいえ、W杯の入場券がプラチナチケットであるのに対し、ツールは観客から入場料をとっているわけではなく、沿道から無料で観戦できる。自宅の目の前をツールが走る! というラッキーなフランス人たちも当然いるわけだ。
選手数でみると、W杯は32カ国x23人、736人の選手がベンチ入りする。一方のツールは22チームx9人で198人が出走するが、レースがスタートしてしまえば交代できる控え選手はいない。その意味でツールに出場することはW杯以上の狭き門なのだといえよう。
■ 代表ではなくプロチームの争いだが...選手は国の威信を背負って走る
フランスのユーロップカーに所属する新城幸也。彼の存在は日本自転車界の誇り!
サッカーW杯は、もちろん各国代表チームの対抗戦。一方、ツールはプロチーム同士の争いとなるが、各チームには国籍があり、フランスのチームにはフランス人選手が多いなど、比較的その国の選手が多く所属する傾向にある。また近年はチームスカイ(イギリス)、アスタナ(カザフスタン)、カチューシャ(ロシア)、オリカ・グリーンエッジ(オーストラリア)など、その国の自転車競技連盟や政府と強く結びついたナショナルチーム的な側面を持ったチームも少なくない。チームや選手も国の威信を背負って戦っているのだ。
フランスのユーロップカーに所属する新城幸也は、もちろん日本の代表として戦っているし、我々日本人ファンもそのつもりで声援を送っている。また、いつかは日本チームをツールに出場させたいと、活動を続けている国内の自転車競技関係者も少なくはない。ツールにサッカーでいう"日本代表"のようなチームが参戦する日も、いつか訪れるかもしれない。
■ 個人競技にみえて実はチームスポーツ! サッカー好きなら絶対ハマる?
チームで勝利の喜びを分かち合う選手たち。サッカーのような戦術やフォーメーションも存在する。
サッカーは個人記録よりもチームの勝敗が何よりも優先されるが、ツールなどサイクルロードレースの場合は個人の成績が最初に注目される。しかし、各チームは自分たちの中から勝者を出すことに、全神経を集中している。その意味でサイクルロードレースは個人競技というよりは、チームスポーツという側面が強いのだ。
ツールの各ステージのゴールシーンでは、先頭でフィニッシュラインを越えた選手だけでなく、その選手をアシストしたチームメイトも後方でガッツポーズしているシーンがよく見られる。そして、その後はチームで輪になって喜びを分かち合う。この光景はサッカーのゴールシーンと似ているとも言えないだろうか。
サッカーでは、ストライカーが挙げた得点がストライカーだけのものでなく、サイドバック、ボランチ、トップ下などチーム全員で勝ち取った得点であることは間違いない。同じように、サイクルロードレースでエースが挙げた勝利もエースだけのものではなく、チーム全員で勝ち取った勝利なのだ。そして、そこにいたるまでにはサッカーのように様々な作戦やフォーメーションが組まれており、それを理解すればさらにサイクルロードレースの楽しみが増えるだろう。
次回は選手個々の役割をサッカーなども引き合いに出しながら、より詳しく解説していく。ヨーロッパでは6~7月はサッカーの国際大会に加え、ツール・ド・フランスが開催される最も熱い季節。あなたもW杯観戦のあとは、サイクルロードレースの世界に首を突っ込んでみてはいかがだろうか? この季節がより一層楽しみになること請け合いだ。
光石 達哉
1971年生まれ。モータースポーツとサイクルロードレースをこよなく愛する。自転車系のコラムを執筆するほか、F1の翻訳なども行う。
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(2014年7月4日J SPORTS「サイクルロードレースレポート」より転載)