ラウンド16から中2日のオフを経て、2014年ブラジルワールドカップも(以下現地時間)4日(日本時間5日)から準々決勝に突入した。最初のカードはリオデジャネイロのマラカナンで行われたドイツ対フランス戦。選手たちのクオリティーやチーム完成度の高さを考えてもドイツ有利と見られたが、前半13分にクロース(バイエルン)のFKを押し込んだフンメルス(ドルトムント)のゴールが決勝点となり、ドイツが順当に4強入りした。試合前にはインフルエンザが蔓延し、チーム内に体調不良者が続出するというアクシデントが起きたというが、勝負どころでキッチリと勝ち切れるのが伝統国・ドイツの強みだろう。
そして準々決勝最大の注目カードであるブラジル対コロンビア戦が17時からフォルタレーザのエスタディオ・カステロンで行われた。私は少し離れたサルバドールで試合を観ていたが、セレソンのゲームに備えて午後から店は閉まり、テレビ観戦に備えて町中が静かになった。それだけ国民の関心が高い大一番だった。ブラジルはチリ戦での打撲の影響が懸念されたネイマール(バルセロナ)が問題なく先発出場。出場停止のルイス・グスタヴォ(ヴォルフスブルク)に代わって、今大会に入ってから不調が続いていたパウリーニョ(トッテナム)がフェルナンジーニョ(マンチェスターC)とボランチを組んだ。対するコロンビアはハメス・ロドリゲス(モナコ)、クアドラード(フィオレンティーナ)、グティエレス(リーベル・プレート)らアタッカー陣はウルグアイ戦に引き続き先発したが、ペケルマン監督はここまで好調と見られたマルティネス(ポルト)に代えてイバルボ(カリアリ)をスタメンに抜擢した。ボランチもアギラル(カリアリ)ではなくグアリン(インテル)を起用。この采配がどう出るか注目された。
試合は拮抗した展開が予想されたが、ブラジルが凄まじい出足を見せる。序盤からハイプレスを仕掛けてロドリゲスやクアドラードといった攻めのキーマンに仕事をさせない。コロンビアがポゼッションをしようと試みても中盤のボランチ陣が激しいプレスで相手から自由を奪い、ボールを取りに行く。2012年10月にポーランドのヴロツワフでブラジルと日本が対戦した際、今野泰幸(G大阪)が「ブラジルは守る時は守るし、カウンターのスピードも速いし、前から来る時は連動してくるし、外されたらしっかりしたポジショニングでボールを取りに来る。シンプルにカウンターを狙ってくる方が嫌でした」と語っていたことがあったが、堅守からのカウンターサッカーも、ボールを保持しながらの遅攻も、どちらも柔軟にできるのがレベルの高さなのだろう。いずれにしても、この試合では守りの鋭さが大いに光った。
積極的な守りとスピーディーな攻めから主導権を握ったブラジルは開始7分、ネイマールの左CKからキャプテンのチアゴ・シウバ(PSG)が、がら空きになったファーサイドに抜け出して巧みに先制点を挙げる。このシーンではフレッジ(フルミネンセ)とダヴィド・ルイス(PSG)の長身の2人にマークが集中。そこをチアゴ・シウバが突く格好となった。ここまで試合巧者ぶりを見せていたコロンビアとは思えないミスが出て、ブラジルが一気に波に乗った。その後も前半はブラジルペース。レフリーの不利な判定もあって、コロンビアはつけ入る隙がないように思われた。ペケルマン監督は後半頭からイバルボを下げてアドリアン・ラモス(ドルトムント)を投入。それで流れが変わり始めたように見えたが、ブラジルのしたたかさは変わらない。彼らの堅守は崩れることなく、後半24分にロドリゲスが与えたFKをダヴィド・ルイスが直接ゴール。攻撃陣が不発な時にリスタートで2点を取ったのは、ブラジルにとって非常に大きかった。
それでも0-2からのコロンビアの反撃も迫力十分だった。グティエレスと交代したバッカ(セビージャ)が鋭い動き出しを見せて敵陣を撹乱。後半35分にはロドリゲスからのスルーパスに反応したところをGKに倒されPKを得る。これをエースが確実に押し込んで1点差に。まだ追いつけそうな空気が漂った。彼らはクアドラードとキンテロ(ポルト)を交代して最後の最後まで攻め込んだが、レフリーがペナルティエリア内のファウルを流す不運も重なり、追いつけなかった。
試合終了後、号泣するロドリゲスをダヴィド・ルイスが抱きしめ、ユニフォーム交換をする場面が見られたが、ブラジルの主力たちも彼を次世代のスターとして認めた証拠だろう。今大会6点目を挙げながら大会を去ることになったロドリゲスは、完全アウェーの中でブラジルの壁に阻まれた悔しさを必ずや糧にするだろう。ブラジルが見せた激しくタフな守備を上回る個の打開力を若きタレントが身に付けた時、彼は本物の世界トップ選手になるはず。その日が今から楽しみだ。
元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。
(2014年7月7日「元川悦子コラム」より転載)