阪神は日本シリーズ進出にふさわしいのか

セ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージでは、ファーストステージ勝者の阪神が4戦でリーグ優勝の巨人を一蹴。日本シリーズ進出を決めた。
時事通信社

セ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージでは、ファーストステージ勝者の阪神が4戦でリーグ優勝の巨人を一蹴。日本シリーズ進出を決めた。「下剋上」はCSの醍醐味でもあるが、12球団随一の勝率.573でリーグ優勝の球団が日本一を決める舞台に出場できない事態に、従来から燻り続けるCS改革議論も再燃しそうだ。

2007年から始まったセ・リーグのCSでは、リーグ優勝以外の球団が日本シリーズに出場するのは07年の中日に次ぎ今年の阪神が2球団目だ。一方、一足先に04年から導入(当時の名称は単に「プレーオフ」)のパでは、過去3度下剋上による日本シリーズ出場があった(今年は、この記事を書いている19日夜の時点では、ファーストステージを勝ち抜いた公式戦3位の日本ハムがリーグ優勝のソフトバンクと3勝3敗だ)。

下剋上が起こると決まって「リーグ優勝の重み」や「日本シリーズ進出の価値」が問われる。今回もまたぞろ同様な議論が沸き起こるかもしれない。「最強球団が日本シリーズに進出できないなんて」という訳だ。確かにこの主張はもっともらしい。しかし、ちょっと角度を変えて見ると「最強」って何だ?という疑問は残る。「最強」の定義は主観的なものだ。公式戦で勝率1位だったというのは確かにその中では有力な定義だが、CS6戦で5勝1分けの阪神は「現在セ・リーグで最も強い」という理論もなくはない。また、得失点差から導き出す仮想勝率であるピタゴラス勝率では、首位はやはり巨人で.538だが、2位の広島は.531と僅差だ。この2球団に戦力的な力量差はほとんどなかったと言って良いだろう。ちなみに阪神は3位だが.488でしかない。なぜなら、失点が614と得点599を上回っているからだ(今季の阪神のように得失点差ではマイナスながら実際には勝ち越している場合、以前は「監督の名采配」と解釈されたが、セイバーメトリクスでは「運に恵まれただけ」と解釈される)。

また、野球というのは偶然に左右される要素が大きいスポーツだ。したがって、「強いチームが勝つ」のではなく「勝ったチームが強い」と見なされるべきという考え方もある。加えて、ポストシーズン制度を受け入れている限り、番狂わせは排除できない。いや、長丁場の公式戦ですら、予想外のヒーローの出現や故障者の発生で開幕前の予想とは異なる結果となるのは茶飯事だ。言い換えれば番狂わせは野球の醍醐味でもある。

CS改革論の中には、もっと上位球団にアドバンテージを与えるべきというものもある。しかし、その結果としてCSの結果が限りなく公式戦の結果に連動するものになったとすると、日本シリーズの権威性は守られるかもしれないが、その分CSの魅力は減じる。そしてそのことはペナントレース自体の盛り上がりにも影響を与えるだろう。CSを行うことの最大の意義は、なるべく多くの球団に少しでも長く可能性を残すことにより、ファンの公式戦への興味と関心を繋ぎとめることだからだ。考えても見てほしい。今季5位と低迷した中日のファンでさえ、8月に7勝20敗と大きく負け越してもCSへまだ一縷の望みを持っていたはず。そして、CS進出は例え3位からであっても日本シリーズへ、それどころかその先の日本一への可能性を抱かせてくれる。また、CS制度が3位に出場権を与えていなければここ2シーズンの広島ブームは無かったかもしれない。CS制度は現在のものがベストとは言わないが、「角を矯めて牛を殺す」改革は避けねばならない。ぼくは、ファイナルステージでの1勝のアドバンテージすら不要だと思う。公式戦優勝球団はファーストステージを勝ち抜かねばならないことが免除されていることにより、優勝することの意義は守られているからだ。一旦同じ舞台に立ったら、戦う両者は公平でなければならない。

最後に付け加えておきたい。阪神の日本シリーズ進出には祝福を送りたいが、道頓堀に飛び込むヤカラを映像で報道するメディアがあったのは残念だ。危険で迷惑な行為を映像を伴い報道するのは、それを助長することに繋がると思う。MLBでは試合中にフィールドに乱入する者が出た場合、その人物は即座に屈強な警備員に取り押さえられるが、テレビのカメラは決してそれを映さない。画面に映ることによりそれを真似る者が出てくるからだ。道頓堀に飛び込む連中をメディアは無視すべきだと思う。

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豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke'm Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:shotaro.toyora@facebook.com

[お知らせ]「MLBトークショー」を行います。11月7日(金)午後7時より高田馬場の芳林堂書店にて。http://www.horindo.co.jp/2014/09/2280/

(2014年10月21日「野球好きコラム」より転載)

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