ここに来て南シナ海が随分ときな臭い。元々南シナ海の領有権を巡り中国と東南アジア諸国の緊張は高まっており、一触即発の状況といっても良いだろう。こういった緊張の中で、フィリピンは南沙諸島付近で操業していた中国漁船の拿捕を決行した。一方、ベトナムは本来ベトナム領であると主張する西沙諸島付近で中国が石油掘削を行う海域に軍の艦船や警備艇を派遣した。これに対し、中国の艦船がどうも体当たりをしてベトナム側を恫喝した様である。今回特筆すべきは、南シナ海で領土的野心を隠そうともしない中国に対しフィリピンとベトナムがはっきりと中国に対峙する姿勢を示した事である。その結果、中国の面子は丸潰れになってしまった。中国が穏便に事を収めるとは考え辛い。日本政府としては南シナ海での軍事衝突も想定すべきではないのか?
■ 南シナ海での権益拡大は戦後中国の一貫した戦略
日本人が理解すべきは、中国は経済が発展したので南シナ海での権益拡大に動いているという訳ではないという事実である。現在軍事的緊張が高まっているベトナム沖の西沙群島、フィリピン沖の南沙群島について説明すると、中国は先ず1954年フランスが植民地を手放した時に、西沙群島の東半分を占拠し、次いで20年後、アメリカのベトナム撤退後残りの西半分を占拠する事に成功している。更に、その10年後ソ連海軍のカムラン湾撤退により南沙群島の占領に成功している。そのやり口は当初は漁船が対象国の領海内に侵入する。尖閣に中国漁船がやって来たのと同様である。次いで漁船の避難港などの建設を経て、ついには軍の駐屯地を建設して自国領とする。
On Friday, the US state department said it was monitoring the situation in the area closely, adding that China's establishment of a military garrison on Woody Island runs "counter to collaborative diplomatic efforts to resolve differences and risk further escalating tensions in the region".
■ ターニングポイントはフィリピンのアキノ大統領による中国批判
フィリピンやベトナムに代表される、海軍力が不足しそこを中国に付け込まれ中国との間に領海紛争を抱えていたアセアンの国々に取って転機となったのは今年二月のフィリピンのアキノ大統領による中国批判であった。
同大統領は米紙ニューヨーク・タイムズとの会見で南シナ海の領有権論争に触れ、国際社会に対し中国の言い分に抵抗する比政府の立場への理解の拡大を要請。この際、ヒトラーが1938年にチェコスロバキア(当時)の領土を要求し、欧米がチェコ支援に失敗した例を引き合いに出していた。
アキノ氏は「どの段階に来たらもうたくさんだ」と言わなければならないのかと主張。「国際社会は最早、チェコのズデーデン地方はヒトラーをなだめ第2次世界大戦を阻止するため与えられたことを忘れてはいないとくぎを刺さなければならない」と求めた。
中国をこれ程厳しく批判する以上は事前にアメリカの軍事援助取り付けの話は完了していると予想した。そして、この事は先月のオバマ大統領のフィリピン訪問時に確認された。今後はアメリカ軍がフィリッピン基地に駐屯する事になる。こうなれば、幾ら乱暴者の中国と雖もそう簡単には手出し出来ない。こういう経緯があって、フィリッピンは中国漁船を今回拿捕した訳である。
一方、私は習近平はアジアのヒットラーなのか?の中で、フィリッピンに追随して中国に対し真っ向から対峙する国が出て来る事を予言している。ベトナムがその第一号であったという事である。そして、今後中国との対峙を明確にした国々に対しアメリカが求められる支援を的確に行えば、更にフィリッピンに雁行する国が出て来る事は確実である。
■アジアの国々はフィリピンに追随するのか?
中国の領土的野心に心を痛めている多くのアジアの国々は私同様に今回のフィリピン、アキノ大統領の主張に拍手喝采を送っているに違いない。アジアの国々、取分け中国の領土的野心に苦慮している南シナ海の、ブルネイ、マレーシア、ベトナムといった国々がフィリピンに追随するのは必至である。オバマ大統領は4月に日本を訪問し、日米同盟の更なる深化を確認後、こういった東南アジアの国々を歴訪し安全と平和を保障する展開を予想する。中東からアジア・太平洋地域へのリバランスの現実的な第一歩である。このアメリカの具体的な動きを見て、アジアの他の国々もフィリピン追随に動く事になる。安倍首相によるダボス会議発言が切掛けとなり「中国包囲網」が完成する訳である。
■ 誰が中国をここまで増長させたのか?
私は何度かオバマリベラル外交を批判しているが、中国をここまで増長させた一因である事は確かだろう。一方、オバマ大統領に一人に罪を着せるのは妥当ではない。アメリカは最早世界で唯一の超大国でなければ世界の警察でもない。以前に比べ国力は落ち米国の覇権の衰退こそが中国をここまで増長させた原因であると主張する人もいる。私は多分両方が正しい。つまりは、両者が複雑に絡み合い結果としての今日があると思っている。
■ シリアとウクライナ
とはいえ、中国の領土的野心に火を付けたのはシリア、アサド大統領とウクライナ問題でのプーチン大統領に対するオバマ大統領の対応であったと思う。先ずシリアであるが、アサド大統領が自国民に対し化学兵器を使用した事をオバマ大統領は「レッドライン」を超えたと批判した。私も含め世界はアメリカが軍事力を行使してアサド政権を打倒すると考えた。しかしながら、突如としてロシアの仲介案に乗り武力行使は断念するに至った。プーチン大統領がオバマ大統領を甘く見たのは確実で、これがロシアによるクリミア併合に直結していると思う。そして、シリアは当然の結果として内戦は継続しており、何時終焉を迎えるのか全く読めない。
一方、ウクライナについてもオバマ大統領は口ではロシアを厳しく非難しているが、当初から軍事力の行使を否定しているのも今一方の事実である。これでは、習近平もプーチン大統領に倣い、フィリピンやベトナムの権益に手を出すという誘惑に駆られるのも当然であろう。オバマ大統領のリベラル外交の本質は、対峙するロシアや中国が大して得るものもないのに、自国通貨の暴落や資金の自国からの逃避といったリスクを冒してまでやる筈がない。ロシアや中国の指導者は優秀で合理的な判断をすると思い込んでいる事である。事実が真逆である事を我々は何度も見てるというのに。
■ 日本は南シナ海の緊張にどう対処すべきか?
日本が一番やってはならないのは対岸の火事として座視する事である。我が事として捉え、日米同盟を基軸にアメリカをしっかり支え、先ずフィリピンやベトナムを支援する事。更には、これらの国に今後雁行するアセアンの国々としっかり連携する事だと思う。先ずは安全保障で連携し、今年末にはTPPも決着するだろうから、次いで通商、投資といった具合に複合的に関係強化を図るべきであろう。