FNNが伝えるところでは、「原発は重要なベース電源」と位置づけ、「原発ゼロ」政策から転換する方針との事である。
茂木経済産業相は、政府が新たに取りまとめる「エネルギー基本計画」で、「原発は重要なベース電源」と位置づけ、「原発ゼロ」政策から転換する考えを示した。
茂木経産相は「安定供給・コスト低減・温暖化対策の観点から、引き続き活用していくべき、重要なベース電源と位置づける」と述べ、日本の中長期的なエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」に原発の活用を盛り込み、民主党政権が打ち出した「2030年代に原発ゼロ」政策から転換する姿勢を示した。
また茂木経産相は、高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の最終処分場の問題について、「国が前面に出て解決すべく、最終処分地選定の新たなスキームを構築していく」と述べた。
政府は、「エネルギー基本計画」を年明けに閣議決定する予定。
「エネルギー安全保障」を全く理解していなかった民主党が打ち出した「2030年代に原発ゼロ」政策の是非などそもそも議論にも値しない。政権奪取から既に一年が経った現在、これを破棄し原発再稼働に安倍政権が舵を切るのは当然の事である。現在の原発停止は法的根拠の伴わない菅元首相の浜岡原発停止要請に起因するものである。従って、新年早々にでも安倍首相が「原発再稼働」を宣言すれば電力会社は一斉に再稼働に動く。物事を深く考える事無く、何事も思い付きで行動していた菅元首相との差別化を図りたいのであれば「原発再稼働」を閣議決定すれば良いだろう。
原発停止をここまでずるずる続けさせたのは3.11以降日本を覆った異様な空気である。しかしながら、こんなものは窓を開けて空気を入れ替えれば済む話ではないのか? 安倍政権は政権発足後、安全保障においては対米関係を改善し日米同盟を深化させると共に、NSCの活動を開始させた。一方、NSCの活動に不可欠な特定秘密保護法案も先週末成立させた。「成長戦略」の基軸となるTPPについても年内妥結の公算が高い。仮に妥結の時期が少し伸びたとしても最早時間の問題と理解して良い。「経済と貿易」に関しても安倍政権は手堅く運営しているという事である。従って、注文を付けるとすれば安倍政権の考える「エネルギー安全保障」を早急に国民に提示し、実行すべしという結論となる。そして、原発再稼働がその一丁目一番地になる事はいうまでもない。それでは、一体何故「原発再稼働」を宣言せねばならないか? である。
■高まる中東北アフリカ地域の緊張
WEFによる"Outlook on the Global Agenda 2014では、高まる中東北アフリカ地域の緊張を世界が来年直面する事になる最大リスクに挙げている。日本のマスコミは余り報道しないが、シリア、イエメン、西アフリカサヘル地域の飢餓は重篤化している。
国連のFAOは5日の報告書で、シリアとイエメンが国内情勢混乱の影響で深刻な食糧危機に直面しているとして、シリアで600万人、イエメンで450万人が緊急に食糧援助を必要としているとしています。
このうちシリアの食糧危機については度々報道されてきましたが、イエメンについては散発的に報じられるものの、450万人が深刻な食糧危機に直面しているという報告書は、これまででも最も深刻なものだと思います。
報告書はまた、アフリカのサヘル地帯(サハラ砂漠から半砂漠地帯に至るベルト状の地帯)では、中央アフリカ、チャド、マリ、ニジェール、セネガルが、夏が暑く降雨の来るのが遅かったために深刻な食糧危機に直面しているとして、その中でも特に中央アフリカは自然災害に加えて、政治的混乱(確かつい最近安保理がアフリカ軍の派遣を承認したと思います)のため、130万人が緊急食糧援助を必要としているとしています。
日本は輸入する原油の殆どと多くの天然ガスを湾岸産油国に依存している。周辺のイスラム諸国が飢餓などで不安定化すれば豊かな産油国といえども無傷では済まない。仮に、この地域に動乱があれば、原油やガスの輸入が途絶え、下手をすれば日本経済はショック死してしまう。死を免れたとしても二度と立ち上がれない程の大打撃を蒙る事になる。これを回避するためには、短期的には「原発再稼働」によりこの地域からの化石燃料の輸入を最大限削減するしかない。一方、中長期的にはTPP加盟によりアメリカやカナダからのシェールガス輸入を増やすべきと考える。
■温室効果ガスの削減
2013年11月15日、日本政府はポーランドのワルシャワで開催された国連気候変動枠組み条約の第19回締約国会議(COP19)の場で「2005年度比3.8%減」という2020年までの温室効果ガス削減目標を発表し、参加各国を深く失望させた。国際社会が日本政府に期待するのは、より意欲的な高い削減目標を設定して再度提出する事に尽きる。日本は何と言っても「京都議定書」を取り纏めた経緯がある。ここは、矢張り原発を再稼働させる事で世界の期待に応えるべきと考える。
■「再生可能エネルギー」という名のお花畑
「原発再稼働」の話をすると、必ずといって良いほど出て来る話が「原発再稼働」ではなく、「再生可能エネルギー」で対応すべきという主張である。私は何も「再生可能エネルギー」の試みの全てを否定する積りはない。温室効果ガスの削減は世界的なコンセンサスである。従って、意識が高く経済的に余裕のある国民が自宅の屋根に太陽光発電の設備を設置し、化石燃料の燃焼削減に幾分かでも協力する事は称賛すべき行動と理解している。
しかしながら、太陽光発電の採用が可能なのは、仮に雨で太陽光発電量がゼロであっても予め電力会社がそれを予想した上で電力需要を積算し、発電計画を作成して停電を回避しているからである。原発が停止している現在、化石燃料を使用する発電の完璧なバックアップがあっての太陽光発電であるという事である。太陽光発電は余程蓄電池が高性能且つ廉価にならない限り単独では使い物にならないが、その可能性は絶望的に低い。
ドイツは再生可能エネルギーの実用化に成功していると誤解している人も多い。事実は真逆で、大失敗といっても良いだろう。第一、日本とドイツは条件が全く異なる。ヨーロッパは5億の民が1つの経済圏をつくることを目指しており、地続きであることもあり、電気がつながっている。露骨にいえば、ドイツが脱原発に舵を切れば、フランスはドイツとの国境近くに原発を新設し、ドイツに電力を供給するという展開が予想されるという話である。原発に拘わる問題の抜本解決には程遠い。
■迫り来る経常収支赤字の恐怖
一方、財務省が公表した10月分貿易統計によれば貿易赤字は遂に単月で1兆円を突破し1兆907億円にまで拡大してしまった。これに対し、移転収支(海外からの配当)は年間10~15兆円程度で推移しており、10月経常黒字は1530億円程度とギリギリで赤字化を回避したが、この数字を見比べれば近い将来の赤字転落は確実な情勢である。
安倍政権誕生後「アベノミクス」と称し日銀は金融市場に大量の資金を供給した。その結果、円安が起こり、これに起因して輸出製造業を中心に株価が上昇した。しかしながら、円安になっても輸出数量は思ったほど増えず、一方、輸入はしっかり増えている。仮に、年内に単月で経常収支が赤字に転落する事態となれば、「アベノミクス」の是非が問われる展開となる。株高は大いに結構だが、輸出金額を拡大し名目GDPを増やさない事には所詮バブルに過ぎない。
アメリカの失業率が7.0%まで下落した。アメリカの金融緩和にブレーキが掛る事は確実な状況である。新興産業国に投資された資金は一旦アメリカに帰って行く事になる。私が危惧するのは、「アベノミクス」でも左程輸出が伸びず、あろう事か経常収支まで赤字になってしまっては、日本から資金が逃避し、「円安」、「株安」、「債権安」のトリプル安の展開になるのでは? という点である。
これに対する短期的な対応としては、原発の再稼働により月次で3,000億円といわれている化石燃料の追加輸入をストップさせる事に尽きると考えている。中長期的には、言い尽くされた言葉であるが、「貿易立国」から「投資立国」へ、GDPからGNIへのパラダイムシフトという事であろう。成程、日本が目指すべきは「投資立国」である事に間違いはない。しかしながら、「投資立国」化を加速するためには海外で活躍出来る人材を育成せねばならず、これには一定の時間が必要である。従って、「貿易立国」から「投資立国」へ、GDPからGNIへ、を目指しつつも、当面は原発再稼働により経常収支の黒字を死守する必要があると考える。