安倍首相が国会開会中であるにもかかわらずトルコを訪問した。早速一部の野党議員は、安倍政権への高支持率に驕り高ぶり国会を軽視しているとか、二国間会談のための海外訪問であれば事前に日程調整すべきであるといった批判を繰り広げている。安倍政権への高支持率は、そもそも野党支持率下落の結果に過ぎず、一方10月29日はトルコ共和国建国から90周年に当たりボスポラス海峡の地下鉄トンネル開業記念式典・開通式典はこれに合わせ開催されたものであり、この日程に合わすしかない事は明らかである。そして、安倍首相の今回の出席がトルコにとって記念すべきこの式典に華を添えた事は間違いなく、日本にとっても国益に資すると判断する。
露骨にいってしまえば、野党の批判は認識不足、勉強不足に起因する的外れなものに過ぎないという事である。とはいえ、安倍首相は国会を重視すべきなのか? 或いは日本にとって戦略的に重要な国との関係深化をより重視すべきなのか? は今後も折に触れて議論される事になるテーマである。ついては、今回の安倍首相のトルコ訪問を切掛けに考えて見るのも良いのではと思う。
■安倍政権を取り囲む政治状況は大きく変わった
詳しくは、参議院選直後に発表した野党消滅の背景とは?で説明しているので、これを参照して欲しい。要約すれば、国民は、国会に決めるべき内容を迅速且つ的確に決定し、内閣にそれを直ちに実行に移す事を求めているという現状である。下品ないちゃもんに終始し、国会中継のテレビカメラの前での一発芸、瞬間芸に狂奔し、その結果国会をレベルの低い芝居小屋にしたくてしょうがない野党議員には最早国民は愛想を尽かしているという事である。従って、安倍首相には国会重視を貫き丁寧な国会運営を求めると共に、日本の国益にかなうのであれば、今回のトルコ訪問を好ましい前例とし、国会開催中であっても海外訪問を頻繁に実行すべきと思う。
■成長戦略の具体的な中身としてのインフラ輸出
民主党政権時に比べれば現在の安倍政権は「安全保障」、「外交」、「国防」、「経済対策」など、きちんとツボを押させた安全運転を心掛けており、安心して見ておれる。しかしながら、画竜点睛を欠くというか、従来から指摘している様に「成長戦略」の具体的な中身が見えて来ないのが問題である。何か根本的な理由があって、中々決定出来ないという背景があるのなら、安倍政権として分かり易いインフラ輸出に注力するというのは決して間違ってはいない。
今回のトルコ訪問は、ボスポラス海峡の地下鉄トンネル開業記念式典・開通式典への出席が主たる目的である。この事業は、BBCも大きく報じている様に、欧州とアジアを海底トンネルで連結するという画期的なものである。そして、何よりもオスマントルコの時代より150年間トルコ国民はこの日の到来を夢見て来た。工事の最難関部分はボスポラス海峡下の海中トンネル工事であり、この部分は日本の大成建設が受注した。一方、日本政府はこの歴史的事業に対し円借款の供与で支援した。日本は官民が協調してトルコ国民の夢の実現を支援した訳である。
この事業の成功により、結果、日本もまた大きなメリットを享受する事になる。ボスポラス海峡の地下鉄トンネルをトルコ首相以下国民が誇りに思い、この難工事を不屈の精神でやり遂げた日本企業を称賛するのは当然の結果である。こういう高度技術や困難な工事が伴う案件では入札において実績が何より評価される。今後、工事を手掛けた大成建設が世界の海底トンネル工事を主導する事は間違いなく、株価もこれを評価し右肩上がりの上昇を継続している。経済の主役は飽く迄民間企業であり、「経済成長」とは「企業の成長」と割り切った方が良いのかも知れない。
海底トンネル式典の同じ日に、トルコの黒海沿岸シノップに原発4基新設契約内容に、日本・フランスの企業連合とトルコ政府は合意した。安倍首相を招待して恥をかかす訳には行かないから当然の結果であろう。難工事を受注した日本企業が見事に客先の期待に応え、その結果別の日本企業が原発新設の様な相手国にとっての最重要戦略事業を受注するという、絵に描いた様な好循環である。
安倍政権スタート以降、首相のトップセールスが功を奏しインフラ輸出額が1.5倍に拡大している。この事実は素直に評価して良いのではないだろうか? 更に記事は下記の通り伝えている。
今年1~9月は英国の高速鉄道の車両追加受注(約1800億円)やマレーシアの高効率石炭火力発電所(約1300億円)など大規模案件の受注が相次いだ。
イギリスは世界を代表する歴史のある先進国であり、一方、マレーシアはアジアで最も成功した国の一つである。従って、これを見た新興産業国が日本からのインフラ輸入に動く事は確実である。また、「高速鉄道」や「石炭火力」は今後産業新興国での需要急増が期待出来る。勿論、今回開通したトルコ、ボスポラス海峡の海底トンネルや受注が決定した原発の需要拡大も同様期待が大きい。
■中東・アフリカ政策の足掛かりとなる最重要国としてのトルコ
日本は石油、ガスの輸入を含め、好むと好まざるとにかかわらず中東やアフリカと今後も付き合って行かねばならない。そして、イスラエルを除けば中東、北アフリカはイスラムの国である。アフリカにおいてもイスラムの影響力は今尚強い。私は30代の前半3年半を中東に駐在したが、率直にいって日本人にとっては骨の折れる市場である事は間違いない。
もうすぐ一年になり、日本では風化しつつあるのかも知れないが、アルジェリアの人質事件は日本人にとって悲惨で悲しい出来事であった。事件解決の直後に、アルジェリア人質事件で安倍政権が背負った重荷を発表した。その後、安倍政権はこの地域への駐在武官増員を決定し、日英ホットライン開設へ動くなど、正鵠を射た対応をしていると評価している。日本政府として、この地域で奮闘する邦人を守るために自助努力を惜しまない事は当然である。しかしながら、イスラムの国や社会が日本にとって中々分り難い難物である事も今一方の事実である。かかる状況下、トルコの様な根っから親日的なイスラムの国との信頼を深め、この地域の貴重な情報やアドバイスを貰える状況にしておく事は極めて重要と思う。
実は、私は献花のために日揮本社を訪問している。本当に沢山の方がアルジェリアの過酷な砂漠の中で不本意に亡くなられた犠牲者の哀悼のために参列されていた。過酷な海外で体を張って仕事をし、黙々と納税し社会保障を負担し続ける日本人こそが日本の宝である。安倍政権が本来守るべきはこういう国民のはずである。一方、トルコは義理堅く信義に厚い国である。1985年イラン・イラク戦争時に自らの危険を顧みず在留邦人を救出してくれた恩義を日本国民は決して忘れてはならない。今回のボスポラス海峡の地下鉄トンネル開業や、安倍首相のトルコ訪問が契機となり日本国民のトルコ理解が深化する事を期待する。一方、野党議員には安倍首相が自分達の詰まらない質問に国会で答える事と、トルコを実際に訪問し、日本、トルコの関係を深化さす事のどちらがより日本の国益に叶うのか? 真摯に自問自答して貰いたい。