朝日新聞が、防衛指針見直し合意 日米2プラス2 中国の脅威も指摘と伝えている。「2プラス2には、岸田文雄外相、小野寺五典防衛相、米国のケリー国務長官、ヘーゲル国防長官が出席。開催は2年ぶりで、東京で4閣僚がそろったのは初めて」との事である。推測するに、キャロライン・ケネディ次期駐日大使赴任前に日米の4閣僚が顔を合わせ、ソフトパワーである「外交」とハードパワーである「軍」について地ならしをしておこうという事ではないのか? しかしながら、そんな重要な会談にも拘わらず、ニュース映像を見る限りそれ程緊迫感は感じられなかった。そして、その背景にあるのは日米同盟の成熟と進化に違いない。
■日米間には通商問題は最早存在しない
この点については、キャロライン・ケネディ氏の駐日大使就任が示すのは成熟した日米関係で詳しく説明しているので、これを参照願いたい。戦後の長い間、日米通商問題についてはアメリカが口うるさく厳しい先生で、日本はこれに対して怒られ役の生徒を演じて来た。しかしながら、今や日米間の通商は相互の依存を深めると同時に両国に対して利益をもたらすアメリカにとっても理想の通商関係となっている。勿論、細かな問題は未だに存在するだろうが、そんなものを幾ら集めても中国の人為的な「為替管理」の問題に比べれば取るに足りない話である。
■日本は安全保障でアメリカの肩代わりを厭わない
安全保障分野においても、戦後の長い間日本は先生役のアメリカからアメリカの軍事力にちゃっかり無賃乗車を決め込むのではなく、経済大国に相応し応分の負担をする様に指摘されて来た経緯がある。それに対し、防衛費を抑制し経済発展に注力したい日本政府は憲法第9条を盾にのらりくらりとアメリカの攻勢をかわして来た様に思う。しかしながら、安倍政権に代わり状況は一変した。尖閣に対する中国の軍事力を背景にした挑発や、北朝鮮の核開発、ミサイル開発に対応するため自衛隊の増強により防衛力強化に舵を切る事は確実な情勢である。一方、自衛隊の効率的運用を目指し集団的自衛権行使認可を決定するのも時間の問題であり、憲法が阻害要因であるなら憲法改正も視野に入れている。これでは、アメリカは何もいう事はない。精々、非公式な場で「それは良いけど、余り中国を刺激してくれるな」と釘を刺す程度であろう。
■インドのシン首相とアメリカ、オバマ米大統領の会談内容が象徴するもの
産経新聞が伝えるところでは、「国連総会に出席するため訪米したインドのシン首相は9月27日、ワシントンでオバマ米大統領と会談し、アジア太平洋に軍事力の重心を移す「リバランス(軍事力の再均衡)」を柱とした米国の新国防戦略とインドのルック・イースト政策を調和させるため、両国が日本との関係を強化していくことで一致した」との事である。アメリカはアメリカを世界唯一の超大国足らしめている軍事力を今世紀世界で唯一成長の期待が可能なアジア、太平洋地域に移動さす。そして、これに伴い「外交」と「通商」をアジア、太平洋Pivotで展開する。そして、アメリカに取ってアジア、太平洋地域でのPivotは日本であると首脳会議で改めて確認しているのである。
一方、インドのシン首相もまた、インドのルック・イースト政策とそのための日本との関係重視を確認した。そしてこの事は、最早エールの交換のステージを超え、具体的なビジネスとなり日米両国に具体的な果実を提供している。上述の記事は、こう続けている。「『日米印の3カ国協議の仕組みなどを確立』しながら、『海洋の安全保障や天然資源の保護など横断的な問題で対等な関係を深化させるために、両国の協議をインド洋地域に関する対話などに拡大させていく』ことで合意した。両首脳はまた、インド西部グジャラート州での原発建設で東芝傘下の米ウェスチングハウス・エレクトリックがインド原子力発電公社と仮契約に調印したことを明らかにした。2008年の米印原子力協定の調印以来、契約は初めて。声明は、インドで原発開発を目指すGE日立ニュークリア・エナジーにも必要な作業を急ぐよう求めた」。
■中国、共産党王朝崩壊に向けてのカウントダウンが始まった?
深化し安定感を増す日米同盟や、その結果として予測される平和と繁栄の海となるアジア、太平洋地域に比べ、中国、共産党王朝の前途は極めて厳しいと思う。一党独裁を謳歌する中国、共産党王朝の終焉を予言する、The Financial TimesのHow long can the Communist party survive in China?は極めて衝撃的な内容である。何といっても共産党の将来を支えるべき中国共産党の幹部候補生を養成する、養成学校内部で語られているというのには流石に驚く。しかしながら、少し冷静に考えれば中国は良く「中国4千年の歴史」といわれる様に長い歴史を有する国である。そして、歴史の中身はといえば同じ事の繰り返しである。①統一王朝の誕生。②官僚腐敗の蔓延。③民衆の蜂起と地方の反乱。④分裂。
そして、現在は②から③への移行期なのだと思う。1989年6月の天安門事件は、経済発展を加速し民衆を豊かにするという「飴」と、戦車という「鞭」で何とか共産党は民衆蜂起の制圧に成功した。その後、中国は高度経済成長の達成に一定の成功を収めた。その結果一般国民の生活も少しは豊かになり、一時的にではあるが不満の解消に成功した。しかしながら、最早中国で高度成長を望むべくもない。将来に期待の持てない国民の眼前にあるのは、途方もない経済格差やPM2.5に象徴される環境汚染のみとなり、鬱積するばかりの国民の不満が更に高まるばかりで、反政府運動を引き起こす寸前となってしまった様に見受けられる。そして、地方の反乱の可能性についても「強制移住」に象徴されるチベット人弾圧や、新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒弾圧は何れ手痛いしっぺ返しを予想させるに充分である。
習近平国家主席は「中国共産党の危機」の背景にあるのは中国国民の不満である事を充分理解していると思う。Top Risks 2013が示す様に、中国リスクの本質はインターネットの普及などで、国民が政府の情報や事件の背景を知る事が出来る様になり、政府が国民を従来の様にコントロールする事が困難になった事に起因する。最近、中国では学者やジャーナリストといった言論人たちの逮捕が連続していると聞いている。情報の拡散を制御出来ない以上、情報元を遮断するという作戦に切り替えたのであろう。勿論、これは末期症状といわざるを得ない。
最近マスコミを賑わせた薄熙来裁判も結局は国民対策、ガス抜き施策に過ぎない。露骨にいえば、将来共産党の最高幹部になると目されていた薄熙来の腐敗を摘発することで、政府に対する国民の不満を抑える、要はガス抜きを図った訳であるが、国民にしっかり政府の意図を見抜かれてしまい、空振りに終わっている。そもそも、温家宝もニューヨークタイムズによって、丁度一年前に一族の27億ドル超の巨額蓄財が報告されている。当然、薄熙来のみが、何故「終身刑」という厳しい刑事責任を問われ、一方、温家宝は御咎めなしか? という疑問となる。これに対する回答は、習近平国家主席の狙いは、「『不正追放』ではなく、『権力闘争』の結果を『不正追放』に見せかける事」となる。これでは、中国国民は更に落胆し、政府への不満は高まる。
■「尖閣」というガス抜き
対中問題が解決しない背景については、「靖国」関連中国の不当な干渉に対し日本はどう対応すべきか?で説明した通りである。「NHKはお気楽にこの時期『日中関係の正常化』を連呼するが、それが不可能な事は中国が陥った状況を理解すれば明らかであろう。共産党幹部は不正蓄財を持って海外に逃亡するか、或いは、『尖閣』、『靖国』で日本に言いがかり、いちゃもんを付け、中国国民の怒りの矛先を無理やり日本に向ける事で中国共産党の延命を図るしかない。従って、日本がどれ程、善良、誠実に中国に向き合おうと結果は同じ事である。日本人は対中関係改善の如き可能性がないものに期待すべきでないと思う」。
中国は共産党一党独裁体制を維持するため国民の不満や怒りの矛先を日本に向ける事を決して止めないだろう。一方、中国人民解放軍も存在感の誇示や、更なる軍事予算獲得のためこれに同調する事は間違いない。この状況は、日本にとっては誠に以て迷惑至極な話である。しかしながら、偶発的とはいえ中国との武力衝突は百害あって一利なしであり、日本政府は何としてもこの最悪といえる事態の回避が必要である。安倍政権の「賢明さ」が今、正に問われている。