ヤフー新EC戦略の衝撃

ヤフーが新EC戦略を発表した。これまでは有料となっていたYahoo!ショッピング、ヤフオク!のストア出店料を無料化する事で、事業者、ユーザー共に、この2つのサービスの利用はほぼ全て無料となったという事であろう。この新戦略がEC業界に激震を引き起こす事になるのは確実な情勢である。

ヤフーが新EC戦略を発表した。要約すればこれまでは有料となっていたYahoo!ショッピング、ヤフオク!のストア出店料を無料化する事で、事業者、ユーザー共に、この2つのサービスの利用はほぼ全て無料となったという事であろう。この新戦略がEC業界に激震を引き起こす事になるのは確実な情勢である。しかしながら、変化はEC業界にのみ留まるとはとても思えない。先ずは日本国内商流全般、次いで日本の社会システムに多大な影響を与える展開となるはずである。仮にそうであれば、変化の中身を予め予想し、的確な対応を取る事が重要となる。一方、東京一極集中が進み過疎化対応に防戦一方の地方にも大きなチャンスをもたらす事が期待出来る。

変貌を余儀なくされるEC業界

インターネットの本質が「中抜き」であり、それにより中間業者のマージンを無くす事に成功した。これがユーザーに評価された事が、インターネットが急速に発達した要因の一つである事は間違いない。従って、今回のヤフー決断は、事業者、ユーザー双方から支持され、結果としてYahoo!ショッピング、ヤフオク!の様な事業モデルについては無料化が進み、近い将来それが事業の標準になると予想される。結果、楽天の様な有料モデルを採用する企業が、従来同様の料金を徴収しようとするならば、例えば無料放送である地上波に対抗するスカパーやWOWOWの如き、何かに特化した差別化が厳しく要求される事になる。

ヤフー新EC戦略の本質とは?

売り手と買い手の完璧なマッチングが可能になる事に尽きる。従来から売りたい商品を持ちながら、ECに拘わる諸経費を考慮したら採算に乗らず、手が出せなかったというケースは多かったに違いない。しかしながら、ヤフー新EC戦略の結果、今回完璧なロングテール対応が可能になる。従来であれば、諸経費を考慮すればある程度のロットを毎月売り捌く必要があった。そのためには、市場のマスをターゲットにした商品戦略が必要で、売り手の意思は無視されて来た訳である。しかしながら、経費がゼロであれば生産者は自分の価値観に従い商品を生産し、生産者の価値観に共鳴する消費者のみに供給するだけでも採算が取れる様になるかも知れない。ECがより多様な生産者の価値観と消費者のニーヅに対応可能になるという事である。

スーパーマーケットの野菜売り場を覗いてみると良い。食卓でお馴染みの、なすび、キュウリ、ピーマンその他、どれも、大きさ、形、色が驚く程似通っていて、まるで工業製品の様である。リアルな商流に対応するため、農家はまるで農産物を工業製品に様に生産する事を強要され、規格外の農産物は流通から弾き出されているに違いない。農業の本質から考えれば不合理で随分と無駄な事をしている訳である。今後はECが農産物の流通を正常化してくれるに違いない。農産物は陽の光、水、土からの贈り物であり、姿、形など本来気にすべきではない。寧ろ、自然に栽培され、無農薬である事を評価する消費者も全国に点在していると推測するからである。もう少し端的にいえば、ECが農業の商流を本来の農業生産物に適したものに回帰させる。今少しマクロにいえば、日本社会の脱工業化を加速するという事である。

■加速する流通革命

ヤフー新EC戦略の登場により、EC業界内での優勝劣敗を巡る競合は激化する。業界内での熾烈な競争は、結果、店舗営業であるリアル商流への優位性をより顕著にする事になる。ヤフー新EC戦略がなかったにしても、元々、ECは堅調に売り上げを拡大して来た。一方、リアル商流は百貨店の売上推移が示す様に綺麗な右肩下がりである。EC業界に売り上げを持って行かれているのは明らかであろう。更には、家電量販業界盟主ヤマダ電機の株価はECに敗北し、只管ROE(Return on Enterprise)を毀損し続ける断末魔の家電量販業界の惨状を表している。

リアル店舗がこれを回避するためには、勝ち組ユニクロの様に、「極めて高品質な商品」を生産し、「驚くべき廉価」の値札を付け、何度でも訪問したくなる「お洒落な店舗」で、高いレベルの「接客」で、販売し続けるしかない。生半可な覚悟ではリアル店舗はECとの競合に生き残る事は難しく、多くのリアル店舗が淘汰されてしまうのは明らかである。

■ECは地方の過疎問題対策の切り札になるか?

2020年のオリンピック東京開催が決定した以上、首都圏への一極集中が加速する事は最早避けられない。そしてこの事は、東京オリンピック開催をどうやって経済成長に結びつけるか?で説明した通り国益に叶うものであり、決して忌避すべきものではない。とはいえ、これとは些か矛盾するが、嘗ては12万人近くが住んでいた夕張の人口が1万人を切ったというニュースに接した時は、とうとう来るべきものが来たのかという感慨深いものがあったのも今一方の事実である。夕張が象徴するのは、「①.過疎化が進行する。②.税収が落ち込む。③.行政サービスの著しい低下。④.人口の更なる流出。」という、地方で進行する限界集落に向けての「デフレスパイラル」である。

少し前に、私はJR北海道を批判するだけで問題が解決するのか?を発表した。提起したかった問題とは? JR北海道問題とは一鉄道会社の経営問題などでは決してなく、過疎により需要が減り続け、その結果経営が追い詰められるに至り赤字ローカル線の廃止を決断するしかない鉄道会社という、日本の全ての地方が直面する好ましからざる状況であった。「過疎」が「インフラ」の劣化を招き、結果、更なる「過疎」を導くというものである。鉄道が廃線となれば、公共交通として地元のバス会社がこれに取って替る事になる。しかしながら、過疎に伴いバス路線もやがて廃線となり、地方行政が運営するコミュニティーバスの出番となる。これも、厳しい地方財政を考慮すれば長く続くとは思えない。ピークで500世帯、2,000人が暮らした集落に今住むのは、5世帯8人で、何れも80才以上といった過疎地の状況はあっという間に日本国中のありふれた話となるに違いない。やがては、集落に通じる一本だけの道にある、橋の架け替えやトンネルの補修が必要となる。財政難の地方自治体としてはこれを断念し、5世帯8人に対し近辺の大きな町への移住を説得する事になる。一つの集落が消滅する瞬間である。

問題の根底にあるのは人口の流出であり、人口が流出するのは地元に産業がなく現金収入を得る事が難しいからである。働き口を求め、若者は都会に出てしまい地元には高齢者しか残らない。しかしながら、現金収入さえあれば生まれ育った自然豊かな故郷で住み続けたいと思っている若者も多いに違いない。一旦都会に出たものの、理想と現実の余りのギャップに失望しUターンを希望する若者も少なからずいるだろう。従って、問題は過疎地で如何にして現金収入を可能にする仕組みを構築するか? という点になる。ECが活用出来ないだろうか? 間伐で生じる材木を使って「炭」を焼く。値段が安ければ個人がバーベキュー用に購入してくれるのではないか? 「棚田」で育成した米。無農薬で栽培した不揃いの野菜。一定の需要はあると思うが。

■参考にすべきは大分県の一村一品運動

大分県の一村一品運動は一定の成果を上げており参考にすべきと思う。1980年に当時の大分県知事、平松氏の卓越したリーダーシップの下一村一品運動は開始された訳であるが、インターネットがない当時であれば、認知度を高め商流の確立をする事は大変な難事業であったと推測される。しかしながら、ヤフー新EC戦略が発表され、インターネットを活用したプロモーションや、ECを利用した販路の確立がこれまでより遥かに容易に出来る様になる。地方ならではの「産業」の育成に成功し、地方色豊かな個性的な「商品」が生まれれば活路は開けると思う。

ヤフーは折角新EC戦略を発表したのであるから、21世紀の一村一品運動に果敢に挑戦する地域のチャレンジャーを支援してはどうだろうか? 地域経済の活性化は間違いなく安倍政権に取っての最重要課題である「成長戦略」の中核を構成する主題の一つである。これに貢献する事は、ヤフーが単なるIT企業から、日本になくてはならないエスタブリッシュメントに駆け上る事を意味する。ヤフーには何時までも元気で若々しいチャレンジャーでいて欲しいが、一方、その存在が大きくなり、日本への更なる貢献が期待されるステージにまで来ているという事であろう。

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