既に多所で問題になってますが、現地でこれに抗議した人間のひとりとして自分が見たもの・聞いたことをまとめてみます。
リアルタイムのつぶやきはここでまとめられています。
なお、座席の話も出てきますので、詳しくない方は埼玉スタジアムの座席表を見ながら読むとわかりやすいと思います。
■ 当日の状況
昨日は夕方の16:00キックオフにもかかわらず"寝坊する"という大失態を犯し、最寄り駅である浦和美園駅に着いた時点で既に試合開始から数分が経過している、という状況でした。そのままシャトルバスに乗りスタジアムへ。スタジアムの北門に着いたのはだいたい開始から20分くらいだったと思います。
そのままスタジアムに入り、B3ゲートからコンコース(スタンド裏の通路)をメインスタンド方面へ移動していた時に出くわしたのが上の写真の光景です。なので前半20分過ぎの時点で209ゲートにこの弾幕があったことは確実です。
これを見た瞬間、「『JAPANESE ONLY=日本人以外お断り』という文言が国旗とともに掲げられている光景は人種差別として言い逃れしようがない」と思いました。さらに先週のガンバ大阪戦で浦和サポーターから李忠成に対するブーイングがあり「人種差別か?」と疑いの目をかけられていること、今シーズンからリーグの規定が変更になりスタジアムでの差別行為に対して罰則が明確化されたことも頭の中にありました。
そのため「さすがにこれを放置することはできない」と思い、外させるようクラブに抗議することにしました。しかし試合中に抗議をするのははじめてだっため、結局前半終了まで「クラブのスタッフと話をするにはどうしたらいいのか」を周りのスタッフや警備員に聞いてまわる羽目に。
ハーフタイム中にようやくゲートの責任者と話をすることができ、その場で「この弾幕は明確な人種差別であり、クラブとして放置するべきではない。すぐに取り下げるべきだ。」と伝えました。また、開幕戦でのブーイングの問題やリーグからの罰則の可能性についても併せて伝えています。途中で一緒に抗議してくれた浦和サポの方々もいました。
この時点で責任者も弾幕の存在を認識しており、さらに通りがかった数人が写真を撮っていたことなどを把握していました。結局「サポーターの代表者と話をする」ということでその方に対応をお任せし、自分は様子を見ることにしました。ちなみにこの段階で「今日は試合を観るよりもこの件をしっかり解決させる方が大事だ」と頭を切り替えています。
後半10分過ぎくらいにサポーターの代表者が209ゲートから出てきて、先の責任者と5分ほど話をしたあと、そのままスタジアムの1Fに降りていきました。そこで責任者から「事務所でクラブ側と話し合うことになった」と聞き、少し安心して隣の208ゲートで試合を観ることにしました。客席に入ったのはちょうど李が交代で入るタイミングだったんですが、ゴール裏の中心付近で浦和サポがブーイングしているのに気づき本気でうんざりしたのを覚えています。
その後しばらく試合を観ていたのですが、後半30分の時点で気になって様子を見に行った時も弾幕は掲げられたままでした。その場で「この件の対応はまだ終わらないのですか?」とスタッフに聞いたところ「この件についてはクラブとサポの代表で話し合い"今後改善に向けて努力する"ということになった」との説明を受けました。その意図を掴みかねて「この試合中は弾幕をそのままにしておく、ということですか?」と聞くと「そういうことになります。試合が始まってしまっているので、弾幕を取り下げることはできない」と答えました。さらに「ここにいる人たちは"純粋にクラブを応援している人たち"だ。ただその熱意が時々間違った方向に向かってしまうだけ」という説明もしていました。それを聞いて「クラブがそう判断した以上何を言っても無駄だ」と思い、とはいえ試合を観る気にもなれずに、結局試合終了までゲート付近のコンコースで呆然としていました(一緒に抗議してくれた方のひとりが声をかけてくれたのには少し救われました)。
そのまま帰るのは嫌だったので、試合終了後に再度209ゲートに行き、その場にいたスタッフに「このような人種差別を許容するべきではない。アジアを代表するクラブになることを目標としている浦和に相応しくない。二度とこのような弾幕が掲げられることがないよう、クラブにしっかりと伝えて欲しい」と言いました。その際に弾幕をアップで撮影しようとしたところ「対応中の案件であり浦和というクラブにとってマイナスになるから写真をネットにあげたりするのはやめてほしい」とも言われました。ちなみに弾幕は試合終了後に僕がスタッフと話をしている間もそのままでした。
サッカーを観にいって、チャントも、歓声も、悲鳴も、ため息も、ピッチに向けた声をただの一言も発しなかったのは昨日がはじめてでした。「We Are Reds」というコールをあんなにも虚しいものだと思ったのもはじめてです。
自分は中学生時代から数えて20年近く、スタジアムに通うようになってからは10年以上浦和レッズというクラブを応援してきました。そのなかで決して"楽しい"とは言えないつらい経験をしたこともあります。目の前でタイトルを逃す試合は何度も観ましたし、2005年の柏戦で田中達也が重症を負った時は本当に息が止まりそうになりました。
けれども昨日味わった無力感に比べれば、それらの経験はマシだと言えます。昨日の浦和サポーターの行為と試合終了までそれを許した運営側の対応は、浦和レッズというクラブはもちろん、Jリーグ、そして日本サッカーにかかわってきた全ての人たちが少しずつ積み重ねてきた文化を土足で踏みにじるものにほかなりません。
浦和サポーターとして、また一人のサッカー好きとして、このような行為を容認することはできません。ですが上記の経緯、そして過去のトラブルの顛末から考えても自分は「浦和レッズというクラブに自浄作用を期待するのは難しい」と思っています。
サポーターとしては本当に、本当に残念であり情けない話ですが、クラブのため、そして日本サッカーのためにも、リーグ事務局が正確に事態を把握し厳正な処分を下すことを期待しています。
いま言えるのはこのくらいです。
(2014年3月9日「想像力はベッドルームと路上から」より転載)