ウェザーニューズ。お天気放送局です。
いや、放送局じゃないですね。メディア企業と呼ばなければ。日本型のメディア融合モデルであり、スマートテレビの観点からも注目される世界的なスタイルだと思います。なぜか。ポイントは3つあります。
1) まず、マルチスクリーン、マルチネットワークであること。代表サービスのSOLiVE24は、衛星での放送と、地上波局との提携による放映に加え、PC向けブロードバンド配信、ケータイ向け配信のマルチ展開。テレビ、PC、ケータイ、スマホ、タブレットのマルチ端末に向け、衛星、地上波、有線・無線の通信網で伝達しています。
2) 次に、ソーシャルメディアであること。全国の視聴者=ユーザがPCやモバイル端末でセンターに情報をアップしてきます。台風の到来時には6万件もの情報がリアルタイムで届けられる。これは海外ではできません。老若男女がネットに接続したモバイルを持ち歩き、写真や動画を撮って親指ひとつでメッセージを紡ぐ、その訓練を10年以上も続けている日本のユーザ力が発揮されているのです。海外でもスマホが普及しているとはいえ、市民全体のリテラシーが追いつくのはまだ時間がかかるでしょう。さらに、日本人は無類の天気好きという事情もあり、なかなかに濃いコミュニティができあがっています。
このユーザ力は騒動も起こします。全国に散らばった人というセンサーが利いているので、気象庁に張り合う情報が発信される。予告や警報が打ててしまうわけです。だから気象庁から「やりすぎんなよ」と業務改善命令が発せられたりする。そして、そういうお触れが額に入れられ役員室に飾ってある!勲章なのですな。パンクであります。
3) さらに、人だけでなく、気象を関知するセンサーをあちこちに埋め込み、ビッグデータにも進出しつつあります。そして、それらトータルなモデルで世界展開を狙っています。
放送法には、放送局は番組審議機関を置けという規定があります。ぼくはウェザーニューズの番組審議会に参加しています。他にも2社の審議会に参加していて、それらはおごそかに、厳しく、番組や局の在り方を審議しているのですが、パンクなウェザーニューズは違います。審議会そのものを番組にして、ニコ生でも配信するというのです。ニコニコ動画のニワンゴの杉本社長はウェザーニューズの出身で、審議会にも参加しているのですが、なるほど、そういうノリなのです。オープンで、ユーザからの突っ込みが段幕で流れるので、審議会の委員側が審査されてるってかんじ。ソーシャルすぎるやろー。
さて、昨年の審議会では、最後に委員たちはフリップにひとことメッセージを書かされました。ぼくは「PUNK」と寄せました。モデルをひっくり返して世に問う局であってほしい。で、今年の審議会では、いよいよPUNKが「PUNKER」になってきてる、と感じました。こちらもポイントが3つ。
1) 進化していること。NOTTVでのオンエアやケーブルでの展開、さらにアプリ展開を進めるなど、マルチに深みがかかっています。今やユーザの8割はスマホ使いで、ソーシャル対応にも磨きがかかっているので、炎上も起きているそうです。ウェザー炎上。そして、文字・写真ベースだったユーザからの情報には、動画レポートも加わったそうです。さらに、3Dボーカロイドも開発・投入。どん欲であります。
2) 番組評価のソーシャル化。天気予報は、けっこう外れます。だから番組への批判もあるわけです。それに正面から立ち向かおうってことで、当たったかダメだったかの評価を番組でアンケートを採るという怖ろしい取組を始めています。ニコ生の番組の最後にユーザから面白かったかどうかのアンケートを採りますが、あれを番組でやってるのです。ダメ出しが過半となることもあり、そんな日にゃあ、キャスターが「やっちまったなぁ」とつぶやく、クールポコ状態です。
3) ビジネスモデルのソーシャル化。スポンサード企画のビジネスモデルを議論する番組もありました。ウェザーニューズは企業に対するB2Bビジネスとノン・スポンサード番組の組み合わせですが、そこに広告モデルや課金モデルをどう組み込むか、といったことを番組にして議論している。それって、経営の根幹じゃないですか。取締役会の機能じゃないですか。それをユーザ入れて番組でやってるって、どうよ。
ネット連動で炎上起きてるとか、番組の評価を番組内で聞くとか、局の経営戦略を番組で問うとか、そんな放送局ありますか?おもろいなぁ。
おもしろおかしく見えて、マルチスクリーン、マルチネットワーク、ソーシャルという、メディアの構造変化をきちんと押さえています。さらに、ビッグデータと国際展開というトレンドに向き合っています。
今年、番組の最後に寄せたメッセージには、こう書きました。
「PUNKEST」。
(この記事は8月1日の「中村伊知哉Blog」から転載しました)