(東京)日本の安倍晋三首相はベトナムに対し、非暴力活動家への弾圧を即時停止し、悪化し続けているな人権状況の改善を行うよう強く働きかけるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。ベトナムのチャン・ダイ・クアン国家主席は5月29日~6月2日に国賓として来日する。
「ベトナム政府は今なお世界で最も抑圧的な政府の1つだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗は述べた。「ベトナムにとって最大の二国間援助ドナーである日本は、同国の国民に対する深刻な人権侵害を指摘をできる機会と責任がある。」
2018年5月25日付の安倍首相宛書簡で、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、言論と結社の自由の制限、宗教実践と信仰の制限、政治囚の投獄、労働権の侵害などベトナムが抱える人権問題を日ベトナム首脳会談で指摘するよう詳述した。
書簡は次のように指摘している。ベトナムでは「表現、結社、集会、信教など基本的な自由は制限されています。国内メディアはすべて国の所有・管理下にあり、インターネットは検閲されています。ベトナム共産党はすべての公的機関の高官の地位を独占し、権力維持に用いています。ベトナム共産党は1954年の政権獲得以来、自由で公正な選挙の実施を一度も許していません。また、同国では、真の民主主義のプロセス自体が存在しません。つまり、ほとんどの議会の議席は共産党が指名する同党党員が独占し、裁判所や各省庁は共産党の統制下にあり、独立した労働組合は許されず、社会団体、宗教団体、市民社会グループも厳しく規制されているのです。」
ベトナムでは、この数カ月人権活動への弾圧が強まっている。2017年の1年間だけで、少なくとも41人の人権活動家や人権問題を扱うブロガーが抗議デモを含むイベントの参加や政府に批判的な記事を配信したことにより逮捕された。2018年1月から5月にかけて、ベトナム共産党の統制下にある裁判所は、少なくとも26人の人権活動家の裁判を行い、最長15年もの刑を宣告している。政府を批判する人びとを沈黙させようとするベトナム政府の最近の動きの標的となった人びとには、次に挙げる著名活動家らがいる。グエン・ヴァン・ダイNguyen Van Dai、グエン・チュン・トンNguyen Trung Ton、チュン・ミン・ドゥックTruong Minh Duc、ファム・ヴァン・チョイPham Van Troi、グエン・バック・チュイェンNguyen Bac Truyen、ホアン・ドゥック・ビンHoang Duc Binh、チャン・ホアン・フックTran Hoang Phuc、グエン・グォク・クインNguyen Ngoc Nhu Quynh(「マザー・マッシュルーム」)、チャン・ティ・ガーTran Thi Nga、ブイ・ヴァン・チュンBui Van Trung
安倍首相宛書簡のなかでヒューマン・ライツ・ウォッチは、現在ベトナムで投獄されている140人のリストを示した。政府に批判的な見解の表明、非暴力行動への参加、当局非公認の宗教団体への参加、ベトナム共産党が権力独占の脅威と見なした政治組織への加入などが理由だ。
「安倍首相は、現在投獄されている勇敢なベトナム国民に公の場で明確な支持を表明すべきであり、ベトナムに対し、人権のために立ち上がった人びとの即時釈放を行うよう強く働きかけるべきだ」と、前出の土井代表は述べた。「ベトナムの人権侵害について沈黙を続けることにより、ベトナム政府は人権の弾圧を強めるであろう。」
(2018年5月28日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)