グラート・ロケット砲の不正確さは悪い意味でよく知られている。人口集中地域に用いるべきではない。反政府勢力とウクライナ政府軍が、民間人の犠牲を少なくする気が本当にあるのなら、双方共に人口集中地域でこうした兵器を使うことを止めるべきだ。
ウレ・ソルバン、緊急対応部門上級調査員
(ドネツク)ウクライナ政府軍と親政府民兵組織が発射したと見られる無誘導ロケット砲「グラート」により、少なくとも民間人16人が死亡、多数が負傷した。攻撃はドネツクとその近郊の反政府勢力支配地域で、2014年7月12日から21日に少なくとも4回行われたと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。
人口集中地域での無差別なロケット砲の使用は、戦時国際法(戦争法)違反であり、戦争犯罪の可能性がある。
グラートは正確に標的を狙うことのできない無誘導ロケット弾だ。多連装ロケット砲での一斉射撃により、広い地域を飽和攻撃するために用いられることが多い。ヒューマン・ライツ・ウォッチはウクライナ東部での紛争の全当事者、とくにウクライナ政府軍に対し、民間人死傷の可能性にかんがみ、グラート・ロケット砲の人口集中地域内部またはその周囲で使用するのを止めるよう求める。反政府勢力は、特に人口が集中する地域への兵力と兵器の展開を止め、支配地域内の民間人が被るリスクを最小限にすべきだ。
「グラート・ロケット砲の不正確さは悪い意味でよく知られている。人口集中地域に用いるべきではない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの緊急対応部門上級調査員ウレ・ソルバンは述べた。「反政府勢力とウクライナ政府軍が、民間人の犠牲を少なくする気が本当にあるのなら、双方共に人口集中地域でこうした兵器を使うことを止めるべきだ。」
ウクライナ反政府勢力は4月、ウクライナ東部にある人口100万ほどの街ドネツクを支配下に置いたと発表した。安全上の理由から、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、反政府勢力とその施設のグラート・ロケット砲による被害状況を直接検証することができない。
最近、ウクライナ政府と反政府勢力の双方がグラート・ロケット砲を使用している。ウクライナ政府当局者とウクライナ国民防衛軍広報部は、ドネツクでのグラート・ロケット砲使用を否定している。だがヒューマン・ライツ・ウォッチの現地調査は、7月12日から21日にかけて攻撃を行ったのがウクライナ政府軍であることを強く示唆するものだ。
この4回の攻撃は、反政府勢力と政府軍が対峙する前線付近で行われた。地上と建物の弾孔をヒューマン・ライツ・ウォッチが調査したところ、砲弾ではなくロケット弾の攻撃の特徴が認められた。4件すべてについて、弾孔の角度と形状、ならびに弾孔が建物の前線に面した側についている事実は、ウクライナ政府軍か親政府武装組織がいる方角から、ロケット弾が発射されたことを強く示唆する。前線近くで攻撃が行われたことは、反政府勢力による攻撃の可能性を弱めるものであり、場合によっては完全に否定するものだ。うち2回の攻撃で、ロケット弾が反政府勢力の基地と検問所とその周辺に着弾し、同時に住宅地にも着弾した。このことは攻撃が政府軍によるものであることを示唆する。
7月21日の攻撃では、ドネツク駅近くの住宅地にロケット弾が着弾し、民間人3人が死亡した。戦闘中のため、ヒューマン・ライツ・ウォッチは犠牲者がさらに増えたかを確認することは難しい。しかし発射音でグラート・ロケット砲とわかるものが、一日中ずっと聞こえていた。
7月19日、ドネツク市西部クイビシェフスキー区の住宅地にロケット弾5発が着弾。民間人が少なくとも4人負傷した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ドネツク市西端のペトロフスキー区の住宅地に7月12日、多数のロケット弾が着弾した事例を記録した。
同じく12日には、ドネツク市ペトロフスキー区そばのマリンカ村の住宅地に多数のロケット弾が着弾。民間人が少なくとも6人死亡した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、発射されたロケット弾が、最大40本の発射筒を持つ多連装ロケット砲から発射された、無誘導122mm地対地グラート・ロケットだと特定した。その射程は通常1.5~20km。弾頭の大きさは1.9~3.3m、重さは45~75kgだ。
グラート・ロケット砲では各種の弾頭を用いることができる。最も多いのは破砕性弾頭。6.4kgの高性能爆薬を搭載し、3,150個に分散するように設計されている。半径28mについて殺傷能力を有する。最大射程距離は約20kmだが、基本的な破砕性弾頭(M-21-OF)を持った代表的なロケット弾(9M22U)の正確さは、336m×160mの枠内にすぎない。つまり、このロケット弾は約54,000平方メートルの範囲のどこかに着弾するのだ。
ウクライナ東部の戦闘には戦争法が適用される。紛争の全当事者がその対象だ。グラート・ロケット砲には、攻撃が許される軍事目標と、攻撃対象とはできない民間人、および軍事目的に使用されていない家屋や学校などの民間施設を識別して標的を絞るだけの精度がない。 正確に言えば、グラート・ロケット弾を人口集中地域に使用することは、無差別攻撃を禁じた戦争法に違反する行為だ。さらに言えば、正当な軍事目標を狙わない攻撃は、法に反する無差別的なものである。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、反政府勢力が、特に人口が集中する地域での部隊展開を避けるための最大限の予防措置を行っておらず、戦争法に反して民間人を危険にさらしていると指摘した。たとえば、分離独立派の部隊が町の中心部に基地を移したときに、グラート・ロケットが基地と付近の住宅地に撃ち込まれている。当事者の一方が戦争法に違反したことを理由に、もう片方が法に背くことは許されない。
犯罪の自覚があり、つまり故意あるいは重過失により、戦争法への重大な違反行為をなす個人は、戦争犯罪の責任を問われる。
「ウクライナ当局は志願兵も含めた全部隊に対し、人口集中地域内や付近でのグラート・ロケット弾の使用停止を命じるべきだ。また反政府勢力は特に人口集中地域での部隊展開を避けるべきだ」と、前出のソルバンは述べた。「両軍の指揮官は、自分たちの行動の法的責任を問われる日が来ることを自覚すべきだ。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ウクライナを支援する国際社会のアクターに対し、同国政府に人口集中地域でのグラート・ロケット使用の全面禁止を行うなど、国際人道法を厳守するよう求めることを要請した。
(2014年7月25日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)