シリア:持続的平和に 正義は不可欠

シリア国民は、援助物資の搬入妨害、無差別攻撃、恣意的拘束に拷問というすさまじい状況に直面している。ジュネーヴ2の成否は、そうしたシリア国民に対し、会議が何を約束できるのかにかかっている。いかなる移行計画も、有意味で持続的なものにするのであれば、法の下の正義の追求と人権尊重を核に据えるべきである。

シリア国民は、援助物資の搬入妨害、無差別攻撃、恣意的拘束に拷問というすさまじい状況に直面している。ジュネーヴ2の成否は、そうしたシリア国民に対し、会議が何を約束できるのかにかかっている。いかなる移行計画も、有意味で持続的なものにするのであれば、法の下の正義の追求と人権尊重を核に据えるべきである。

ナディム・フーリー、中東局長代理

和平交渉では援助アクセス保証、被拘禁者釈放、無差別攻撃停止 必要

(ジュネーヴ)シリア政府と反政府勢力の代表団との交渉では、人権にかかわる5つの優先課題が協議の中心となるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。これからシリアの紛争当事者間での直接交渉が初めて行われる。5つの優先課題とは法の下の正義、人道支援アクセス、人権を尊重した被拘禁者の処遇、治安部門改革、不法な武器使用の停止である。

シリアについての国際和平会議(ジュネーブ2)の当事者双方以外の参加者は、影響力を行使して、シリア政府代表団に対し、封鎖解除と民間人への無差別攻撃停止、ならびに民間人被害の即時軽減につながる方策を講じるよう促すべきだ。

「シリア国民は、援助物資の搬入妨害、無差別攻撃、恣意的拘束に拷問というすさまじい状況に直面している。ジュネーヴ2の成否は、そうしたシリア国民に対し、会議が何を約束できるのかにかかっている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのナディム・フーリー中東局長代理は述べた。「いかなる移行計画も、有意味で持続的なものにするのであれば、法の下の正義の追求と人権尊重を核に据えるべきである。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ジュネーヴ2に出席する代表団とその他参加者に対して、交渉プロセスの包括性の確保も求めた。具体的には、シリア女性の代表者が選出され、シリアに関する和平交渉に完全参加できること、また紛争が女性に及ぼす被害を議論するよう求めた。女性が政治に実質的なかたちで参加し、女性の権利が内容をともなって配慮されることは、シリアでの暴力行為の停止と持続的な平和の促進を進める上で、きわめて重要な要素であると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

■ 法の下の正義

法の下の正義を支持するため、代表団が、関係諸国からの支援を受けて直ちに実行できる措置はいくつも存在する。たとえば、シリア政府側が、国連調査委員会に対してシリア国内のアクセスを全面保証すること、また国際監視団が拘禁施設を訪問し、人権状況に関し信頼できる公平な調査を行うことで合意することなどだ。

交渉参加者は、重大な違反行為の容疑者に免責を認める提案については拒絶すべきである。参加者はまた、シリア国内法に存在する治安部隊の免責条項を精査して改正するとともに、同国の司法制度改革を進めて、国際刑事裁判所など国内司法制度以外の法的メカニズムなどと平行して、重大犯罪の審理をできる制度にすることについてもコミットすべきだ。

真実発見に向けた取り組みメカニズム、補償、人権侵害実行者の公職追放の検討なども、このプロセスの一環として必要となると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。とくに、刑事司法に関するコミットメントのほかに、拉致・失踪被害者の消息を明らかにし、拷問や処刑など重大な人権侵害を調査する権限を与えられた全国委員会の設置に向けた、交渉当事者のコミットメントが交渉合意に盛り込まれることが不可欠だ。

「シリア内戦のそもそもの発端は、恐怖の対象である治安機関とそこで行われていた拷問への抗議運動として始まった」と、フーリー局長代理は述べた。「シリアは拷問を停止し、責任者を訴追すべきだ。」

■ 治安部門改革と被拘禁者の釈放

シリアでの蜂起開始以来、治安部隊による恣意的拘束、不法な拘束、強制失踪、虐待、拷問が数万人に対して行われている。治安機関は、全国各地の拘禁施設群からなる広範なネットワークを用いている。被逮捕者には、抗議行動の組織化や撮影、報道を行った非暴力の運動参加者や活動家、ジャーナリスト、人道援助関係者、弁護士、医師なども含まれている。

いかなる移行計画であれ、現在と将来の治安当局者の適性審査を行うメカニズムの設置を組み込むべきだ。国際法上の犯罪や重大な人権侵害行為への関与を示す証拠が存在する者については、停職とするか、完全な調査が行われるまでは治安部門の新たな職に就任させることを見合わせるべきである。国際法上の犯罪を犯した場合は訴追されるべきだ。

国連調査委員会の非公開文書の中には、重大犯罪に関与した可能性を示す予備的証拠を、同委員会が持つ者たちの氏名が特定されている。国連が挙げたこれらの人びとは停職者リストに掲載すべきだ。シリアには治安機関が複数存在するが、これらの機関は暫定移行政権に報告し責任を負うべきだ。交渉参加者は、過去の人権侵害を決して繰り返さないための制度改革で合意すべきだ。

非暴力の抗議行動参加者、政治活動家、人道援助活動家がいまだに多数、音信不通の状態で拘禁されている。権利を行使しただけなのに裁判に掛けられた人もおり、そのうち一部は軍事裁判やテロ対策裁判の対象となっている。反体制武装組織側も、シリア北部の反政府派支配地域を中心に、自分たちに批判的なジャーナリストや人道援助要員、活動家などの身柄を恣意的に拘禁している。

合意事項には、政治的理由で拘束された人物をはじめ、拘束中のジャーナリスト、援助要員、人権活動家の釈放と、そうした人びとが拘束されている施設への独立したモニタリングの保証に向けた努力が盛り込まれるべきだ。その確実な実施を担保するため、合意事項のなかに、被拘禁者の事例調査や、拘禁時の処遇や、釈放のモニタリングの権限を持つ独立委員会の設置を盛り込むことだ。この委員会に対しては、その使命を適切に履行するため、すべての拘禁施設へのアクセスを保証するものとする。交渉参加者は、暴力を用いない正当な抗議行動を犯罪として取り締まる法律については、すべて撤廃ないし改正すると約束すべきだ。例えば、政府への非暴力的活動や抗議行動を犯罪とする2012年7月の反テロ法などである。

■ 人道支援のアクセス

2013年10月2日、国連安全保障理事会は拘束力のない議長声明として、すべての当事者、「とくにシリア政府当局」に対して、困窮する人びとへの安全かつ完全なアクセスを「前線を越え、必要であれば近隣国の国境を越えるなど、もっとも効率的な方法で」ただちに促進するよう求めた。それからの3か月間、シリア政府にはわずかながら動きがあった。たとえば、大量に残っていた人道援助要員のビザ申請の処理が行われている。しかしこうした措置は、重要な変化をもたらすものではない。政府軍に包囲された都市へのアクセスも、シリア北部で困窮する人びとに対するトルコ側からの援助も許可されていない。危機的な状況を改善する上では、ほとんど効果があがっていないのである。反体制武装組織側も、アレッポ市のすぐ北にあるシーア派の2つの町にいる約4万人を包囲し、民間人の出入りを認めず、援助を制限している。

関係国政府は、シリア政府と反政府組織側双方の代表団に対して、包囲地域からの退去を望む民間人全員に移動を許可し、地域内への援助実施をただちに許可すると約束するよう働きかけるべきだ。双方の代表団はまた、困窮するすべての人に対する安全かつ完全な人道支援のアクセスについて、前線を越え、かつイラク、ヨルダン、レバノン、トルコ各国の国境を越えるという、効率の優れたルートで実施することで合意し、それを促進すべきである。国連安全保障理事会は、こうした措置の実施を求める決議をただちに採択すべきだ。

「シリア国内の包囲された町では、飢えに苦しむ人びとが悲惨な状態で暮らしている。この現実をしっかり踏まえた上で、遠く離れた豊かなジュネーヴの地で行動がなされることを望む」と、フーリー局長代理は述べた。「人道援助の実施に関する障害を打破すれば、ほんとうに多くの人命を助けられるのだ。」

■ 不法な武器使用

シリア軍は、弾道ミサイル、ロケット弾、砲弾、クラスター爆弾、焼夷兵器、燃料気化爆弾、ドラム缶爆弾(たる爆弾)、度重なる空爆、化学兵器を用いて、反政府勢力支配下の市街地に無差別攻撃を行ってきた。パン屋、医療施設、学校が標的となることもあった。一部の反体制武装組織も、自動車爆弾や迫撃砲で無差別攻撃を行っている。

合意事項には、政府軍が、クラスター弾など無差別攻撃的性質を持つ兵器の使用を即時停止し、また「ドラム缶爆弾」や弾道ミサイルによる居住地域の無差別攻撃を停止するとの約束も盛り込まれるべきだ。反体制武装勢力側も、政府支配地域内の民間人居住区へのロケット弾や迫撃砲による無差別攻撃の停止で合意すべきだ。

政府軍が、武器の不法な使用など、広範で組織的な人権侵害を行っていることを踏まえ、国際社会のすべての交渉参加者は、シリアへの武器移転、兵站支援、資金援助を停止すると約束すべきだ。交渉参加者はまた、広範な、または組織的な人権侵害に責任があることが判明している反体制武装組織についても、同様の支援を停止すべきである。その他の国々も、武器の移転とこうした組織への支援を停止にむけた効果的な措置を実施すべきである。

(2014年1月20日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)

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