ソーシャルメディアなどで新しい運動が生まれるも、政府は弾圧強化で対応
(ベイルート)-サウジアラビアでは、国民の政治参加、司法改革、女性やマイノリティへの差別の撤廃などを求める活動家たちが、政府に厳しく弾圧されている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。関係当局は活動家たちの動きに逮捕や訴追で応じ、人権活動家を沈黙させ、改革要求を潰そうとしている。
報告書「越えてはならない一線への挑戦:サウジアラビアの権利活動家たちの物語」(全48ページ)は、11名の著名なサウジの社会・政治活動家たちが政府の弾圧に抵抗する闘いを描いたもの。活動家たちは、オンラインのニュースサイトやブログ、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアほかの新たなメディア形態を駆使し、互いの関係を構築してきた。改革に向けた考えや戦略を議論し、改革のメッセージを発信する公共の討論空間を作り出している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東・北アフリカ局局長代理ジョー・ストークは、「サウジアラビアの活動家たちは新たなメディア形態を使って、政府による様々な人権侵害を批判している」と指摘。「サウジ政府当局は脅迫と投獄で政府批判を阻止できると考えているようだ。しかし、活動家たちは、意見を表明し続ける手段を見出してきている」
活動家数人がソーシャルメディアとオンライン上のフォーラムを使って、ネットワーク構築とデジタル・キャンペーンを開始。これまでに何万人ものサウジ国民がこうした動きに参加している。たとえば、政府による禁止命令を無視して車を運転するようサウジ女性を励ます運動「ウィメンtoドライブ」(Women2Drive)キャンペーンなどだ。
最近設立された人権NGOの多くは大半がインターネットを活動の基盤とし、しばしば個々の人権侵害に関する意見を発表し続けている。関係当局はこうしたオンライン掲載物へのアクセス阻止に忙しいが、インターネットを使うサウジ国民のうち少なくとも49%は、厳重な検閲下にある国営メディアを避けてインターネット上のフォーラムを利用している。
2011年に中東全域で起きた民衆蜂起に触発されたサウジ活動家たちは、オンライン・キャンペーンからさらに一歩踏み込んで、小規模な街頭デモや座り込みを組織するようになった。首都リヤドとブライダ(カスィーム州州都)では、起訴もされないで何年も拘禁され続けている人びとの家族が、内務省の事務所や拘禁施設などでデモ行進を行い、被拘禁者を釈放するか裁判にかけるかどちらかにするよう政府当局に要求した。
サウジ東部の都市カティーフ(Qatif)とアワミヤ(Awammiyah)ではデモ参加者たちが、宗教の自由と少数派のシーア派に対する制度的差別の撤廃を求めた。また活動家たちはサウジ全土で男女平等を求めるキャンペーンも開始。同国の男性後見人制度による男女差別慣行に抗するよう女性たちに促している。更に、政界や宗教界の有力者たちも、政治囚を釈放するなど司法改革を行うようアブドッラー国王に請願する署名を集めた。
こうした活動に対し政府は2011年初めから弾圧を強化。渡航禁止や懲戒免職、中傷キャンペーン、逮捕、訴追などで人権活動家らを沈黙させ怖がらせようとしている。内務省は活動家たちを逮捕し、時に起訴もしないで数カ月拘禁し続けている。
男性後見人制度による女性の権利制限に反対してきたサマル・バダウィ(Samar Badawi)のような権利活動家に、サウジ警察と司法当局は嫌がらせ行い、投獄してきた。少女も女性も、男性後見人の許可がない限り、旅行に行ったり正式に仕事につけず、あるいは一定の医療処置を受けることも禁じられている。
政府関係当局は新しい人権団体を許可せず、「無認可団体設立」を理由に設立者たちに長期刑を科した。アブドッラー・アルハミド(Abdullah al-Hamid)、ムハンマド・アルカタニ(Muhammad al-Qahtani)、スレイマン・アルラショーディ(Sulaiman al-Rashoodi)、ミクリフ・アルシャムマリ(Mikhlif al-Shammari)などの著名な活動家が、平和的な手段で改革を求めたに過ぎないにもかかわらず、裁判の末に罪判決を受け、長期刑を科されている。活動家たちの「犯罪」容疑は、「統治者に対する忠誠違反」「王国の評判失墜の画策」など恣意的で、表現/結社の自由を侵害するものだ。
サウジ西部マッカ州ジッダのワリード・アブ・アルカイル(Waleed Abu al-Khair)弁護士と、東部州の活動家ファドヒル・アルマナシフ(Fadhil al-Manasif)は、「司法に対する侮辱」「王国の評判失墜の画策」「反国家意見の扇動」などの容疑で訴追されて裁判中だ。
内務省は市民のデモや座り込みを長い間禁じてきた。が、2011年に活動家たちはカティーフとアワミヤで抗議デモを複数回敢行、さらには治安維持を理由に拘禁されている人々の家族も2011年、2012年、2013年にブライダとリヤドで小規模な座り込みを敢行した。
サウジアラビアには成文刑法が存在せず、量刑言い渡しはイスラム法(シャリア)の2大原典として取り決められた「コーラン」と「預言者ムハンマドの慣例」に対する裁判官の解釈に委ねられている。人権活動家などが政治犯罪で訴追されると、多くの場合はテロ関連の事案を裁くために設置された特別犯罪法廷で裁かれる。この特別犯罪法廷は、弁護士へのアクセスなどの公正な裁判のためのもっとも基本的な権利を保障せず、非公開裁判で判決を出すこともある。
起訴容疑が恣意的であることに加えて、内務省が事前告知や理由説明もなしに活動家に対して長い間海外渡航を禁ずることも日常茶飯事である。アルカイル(al-Khair)をはじめ活動家たちの中には、飛行機に搭乗しようとして初めて、自分が海外渡航禁止者リストに載せられていたと知った人も多い。
こうした弾圧にもかかわらず、サウジ活動家たちは当局に対する異議申立を続けている。自らの自由と暮らしを犠牲にしながらも、真の改革と人権尊重を強く求めているのだ。
サウジアラビア政府は非暴力の活動家に対する広範な弾圧を即時停止すべきだ。そして、表現・結社・信仰の自由を平和的に行使しただけであるにも拘わらず訴追されたり有罪を言い渡された人びとを全員釈放すべきだ。
加えて関係当局に対し、次に挙げるしっかりした司法改革を実施するよう求める:
●人権基準に沿って、表現と結社の自由の行使を犯罪としない成文刑法を制定すること
●独立した団体が政府の不当な干渉を受けずに設立・活動できる結社法を制定すること
●電子ネットワークの制限など表現の自由に過度に干渉するすべての法律と規定を撤廃すること
サウジアラビアの人権状況に対して様々な批判があるにもかかわらず、国連加盟国は今年11月、サウジアラビアを国連人権理事会の理事国に選出した。その任期は3年である。
前出のストーク局長代理は、「サウジアラビアが人権理事会理事国に選出されたことは、非暴力で人権活動を行っただけなのに政府に弾圧されているサウジアラビア国内の活動家たちに、誤ったメッセージを送ることになってしまった」と述べる。「各国政府は、特に活動家たちが政府の干渉なしに活動できるよう、人権状況の改善をサウジアラビアに求めるべきだ」
(この記事は、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のサイトで12月18日に公開された記事の転載です)