人権保護と民間人保護に関するビルマ国軍の劣悪な現状は、PKO活動が世界各地で尊重することが期待される水準と合致しない。国連がビルマ国軍をPKOに参加させることは、いかなる形であれ、国連の評判を大きく損なう危険性を伴うものであり、国連内部で人権問題への関心を高めようという近年の取り組みとも矛盾するものだ。
ケネス・ロス代表
(ニューヨーク)国連はビルマ国軍に対し、平和維持活動(PKO)に兵士を派遣するよう検討を要請している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日、潘基文国連事務総長宛の書簡を送付し、ビルマ国軍をPKOに参加させれば、人権侵害やPKO活動の水準を損なうなどの問題が発生しかねないと警告した。ミャンマーに関する国連事務総長特別顧問ヴィジャイ・ナンビア氏は、最近のビルマ訪問で、ビルマ国軍最高司令官ミンアウンフライン上級将軍に参加要請を行っている。
ビルマ国軍は世界でもっとも人権侵害を引き起こしてきた軍隊の一つだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。長期にわたり殺害、拷問、性暴力、子ども兵士の使用、強制労働などの人権侵害を広範に行ってきた。ビルマ政府は軍人の戦争犯罪を追及してこなかった。
「人権保護と民間人保護に関するビルマ国軍の劣悪な現状は、PKO活動が世界各地で尊重することが期待される水準と合致しない」とヒューマン・ライツ・ウォッチのケネス・ロス代表は述べた。「国連がビルマ国軍をPKOに参加させることは、いかなる形であれ、国連の評判を大きく損なう危険性を伴うものであり、国連内部で人権問題への関心を高めようという近年の取り組みとも矛盾するものだ。」
ビルマ国軍が1962年に権力を掌握して以来、軍による広範で組織的な人権侵害は野放しとなってきた。同国では改革の兆しが見られる部分もあり、数十年来の直接的な国軍支配を経て、国は開放的な方向に大きく踏み出している。しかし、軍の改革はまだ手つかずだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。当時の軍政が起草した2008年憲法では、軍は過去の犯罪の責任を問われない。これでは軍に浸透する人権侵害的な文化は変わりようがない。現在まで、国軍は武力紛争が続く地域で重大な人権侵害を引き続き起こしている。カチン州では最近の戦闘で、カチン民族の民間人が人権侵害の被害を受けていることは、ヒューマン・ライツ・ウォッチが伝えてきたところだ。
ビルマ国軍が何ら責任を問われることなく、広範な人権侵害を長年行ってきたことを踏まえれば、国連の監視プログラムは、部隊派遣国に大きく依存することもあり、人権侵害実行者が国連の名で活動することを許してしまうだろうと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
ビルマ国軍が引き続き子ども兵士を使用していることは、とくに大きな懸念材料だと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。2012年6月、国連事務総長がビルマを「継続的な加害者」に繰り返しリストアップしたことを受け、ビルマ政府は国連との行動計画に調印。子ども兵士の採用を停止し、2013年中に子ども兵士全員を除隊させることを約束した。それ以来、国軍から除隊された子どもはきわめて少なく、国連は依然として子ども兵士の採用例を記録している。
「ビルマ軍部隊に子ども兵士がいるにもかかわらずPKO参加を求めることは、国連の評判と、この恥ずべき行いを止めさせようとする世界的な取り組みを、ともに損なうものになる」と、前出のロス代表は述べた。
(2014年3月13日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)