毎日新聞以外では報じられていないので、どの程度の確度かわかんないですけど、NHKの経営委員会が執行部に対して、テレビを持たない世帯からも受信料を徴収すべく義務化への見直しを要請した、という記事が出ています。
NHKの最高意思決定機関である経営委員会が、NHK執行部に対し、インターネットサービス充実のため、受信料制度の見直しを求めたところ、テレビがなくても全世帯から受信料を徴収する義務化を明記した回答文書を提出していたことが2日、分かった。
受信料の支払い率が73%と「負担が公平でない」という問題と、上の引用にある通り、インターネット配信サービスの拡充のためと、主な理由は2つあるようですね。特に都市部では支払率が低いとのこと。テレビを持ってない世帯も都市部では多くありそうです。特に昨今の学生ではけっこういるかもしれない。
受信料の存在理由は、「いつでも、どこでも、誰にでも、確かな情報や豊かな文化を分け隔てなく伝える」という目的を達成するためとのことで、それなら負担は公平である方がいいだろうと思います。なので放送の恩恵にあずかる方なら支払うべきでありましょう。
今回の問題はその支払対象をテレビを持たない世帯にも拡大するという部分で、そうすべき根拠はインターネット配信にあるということです。テレビを持っていなくてもNHKのコンテンツをネットを通して、もっと利用できるようにしていくため、ということです。
現在のNHKオンデマンドは無料のものも一部ありますが、主だったコンテンツは有料。そしてテレビ放送分の全番組を提供しているわけではありません。そもそも公共放送というなら、放送だけでなく通信のネットからでも利用できた方がさらに公共的です。NHKは公共放送として、「いつでも、どこでも、誰にでも、確かな情報や豊かな文化を分け隔てなく伝える」のが目的ならばオンデマンドも本来は無料であるべきという考え方もできるはず。
今回インターネットサービスの充実というのは、要するに無料で提供するネットコンテンツの充実ということなんでしょうね。というかテレビを持たない世帯からも徴収して、さらにネットで視聴する際に有料ではさすがに筋が通らない。完全に二重課金ですから。モデルはやっぱりBBCアイプレイヤーなのかな。
イギリスの公共放送BBCが提供するBBCアイプレイヤーは、BBCの番組をPCやスマホ、タブレットから好きな番組をいつでも見れるサービスですが、これはイギリス国民なら無料です。
NHKオンデマンドと比較したときのBBCアイプレイヤーの最大の利点は、ズバリ、無料であることだろう。PC上から、アイプレイヤーの独自デスク・マネージャーを立ち上げて選ぶか、テレビの前に座って、リモコンを操れば好きな番組が難なく視聴できてしまう。アイプレイヤーは、とにかく楽なサービスなのだ。どれほど見ても全く懐が痛まない。貧乏人から金持ちまで英国に住んでさえいれば誰でもが視聴できる。
爆発的ヒットにならない「NHKオンデマンド」とダントツ人気の英BBCアイプレイヤー : 小林恭子の英国メディア・ウオッチ
ちなみにBBCアイプレイヤーは、現在ではグローバル版もあって、欧州の数ヶ国で利用可能ですが、有料です。(約5000円くらい)
BBCも受信料を徴収していますが、向こうの場合はテレビの購入時に受信契約を結ばされるので、徴収率が日本よりも高いです。たしか90%は超えているはず。まあテレビ購入時に契約させられるし、罰金もありますし。
年々値上がりしていて、不満の声も聞かれるようですが。
日本では現在「放送法第20条第2項第2号」を根拠に、オンデマンドの配信のために受信料を用いないことになっているので、もし受信料の義務化をしてネットサービスの拡充となると、放送法の改正も必要かもしれません。
しかし、法改正の目処がたち、国民も「このくらいの金額でオンデマンドで便利に見れるのなら」と広く合意が得られたとしても実現できるのかどうかはまだわかりません。NHKがオンデマンド化を先行して実現した場合、民放はいったいどうするのかという問題があります。国民から広く受信料を徴収などできない民放は全番組のオンデマンドを実現できるのかどうか。
民放連はかねてから、NHKのネット配信への積極的な姿勢に対して慎重な態度です。2011年の「NHK受信料制度等専門調査会」でもネット受信者からも受信料を徴収するという案が報告書で提出されたことがありますが、民放連はこれに反対しています。
インターネットへの同時配信については,一概に否定するものではないが,同時配信の経費に受信料財源を充てることには反対である,としている。その理由として民放連は,相当なコストがかかること,強大な言論機関であるNHKの放送を受信料財源で配信しようとする構想は言論・ジャーナリズムの多様性の観点からも慎重な検討を要すること,をあげている。
NHKネット配信への受信料充当に反対 民放連が調査会報告書に見解 | 調査・研究結果 - 放送研究と調査(月報)メディアフォーカス | NHK放送文化研究所
ちょっと何が言いたいのかわかりづらいですが、2012年には井上会長からこのような発言もあったという報道が。
NHKに対しては「受信料で運営しており、公共性を強く意識し、民業圧迫に見えることはしないでほしい」と要望した。
井上氏は、NHKが検討しているテレビ番組のネット同時配信について「受信料で負担すべきなのかという問題がある」と指摘。NHKの東京での放送がネットに流れれば「民放ローカル局が東京の情報に圧迫される」とし、「控えていただきたい」と強調した。
今回の受信料の義務化について、民放連からは今日の時点(2013年12月3日)では特に声明はありませんが、今までの姿勢からすると反対でしょうね。民放は今現在は、リアルタイム視聴による広告収入を捨てられないですから。民放もネット時代に対応したビジネスモデルの構築を模索している最中ではありますが、まだスムーズに移行できる段階でもないので、ここでNHKさんに先走られると厳しいでしょう。
その意味では、受信料の義務化に対しては、国民よりも民放連の方が強く反対するかもしれません。2006年に菅官房長官(当時は総務大臣)が義務化で2割の値下げが可能という見解を出していたりしてるので、真面目に受信料を支払っている国民にはメリットが全くないということはなさそうですけど、民放さんはどうなんでしょうね。
まあ、義務化するくらいなら、もう税金にした方がわかりやすい気もしますが。でも完全な国営放送になってしまって、報道機関としての権力チェック機能がどうなるのか、という問題もありますし。
個人的には2割安くなって、全番組オンデマンドでいつでも見れるほどに利便性が高くなるなら、義務化してくれてもいいです。民放がどうなるのか心配ですが。
(この記事は、12月3日のFilm Goes With Net「NHK受信料が義務化したら民放はどうするんでしょう」から転載しました)