東出昌大と唐田えりかが出演した恋愛映画『寝ても覚めても』が9月1日より公開となる。
柴崎友香の同名小説を原作とした本作は、そっくりの顔を持つ二人の男性、麦(ばく)と亮平(ともに東出昌大)、二人の間で揺れ動く朝子(唐田えりか)の8年間を描いている。「ハッピーアワー」の濱口竜介監督の初の商業映画作品となる。
同じ顔を持つ男に出会うという奇想天外さと、普段の日常生活のリアルな描写が同居する大人の恋愛映画だ。愛の綺麗事でなく、不確かな部分をこそ丁寧に掘り下げようとしている映画であり、観終わった人それぞれに違った感想を抱くだろう。
出演した東出昌大と唐田えりかはどんな思いで本作の撮影に臨んだのか、話を伺った。なお、監督の濱口竜介氏のインタビューもあるので、そちらも合わせて読んでみてほしい。
唐田「朝子は自分によく似ている」
——現場に入る前に、ワークショップ形式で感情込めずに本読みを繰り返すという、濱口監督独特のやり方を経験されて、東出さんは二役をどのように演じ分けようと思いましたか。
東出:ワークショップ中も現場でも、本読みは繰り返し行われたんですが、感情を込めずに台詞を読むんです。感情を込めるのは本番の一回だけで、その際に気をつけるのは、演じ分けを意識しないということでした。
自分で用意してきたプランはなるべく捨てて、東出昌大という楽器からそれぞれの台詞が出れば、必ずそれぞれの人物として映るからと監督に言われました。他の現場では経験したことのないやり方で独特でしたね。
唐田:現場で監督から、他の人の芝居をちゃんと見て、聞いてくださいとよく言われたのが印象的でしたね。その通りに相手のお芝居をしっかり見ることを心がけてやっていました。(完成した映画を観て)自分が見ていたものがそのままスクリーンに映っているな、本当の感情が映っているなと思いました。
——本作ではお二人とも関西弁を話すキャラクターでしたが、やはり繰り返し練習されたのですか。
唐田:そうですね。方言指導の方にいただいた音源をひたすら聞いていました。
——本番では、そのかいあってスムーズに関西弁が出てくるようになったと。
東出:スムーズになったんですけど、告白のシーンで僕の台詞が現場で一言削られた時は、もう何百回も練習している台詞だったので、(削られた台詞が)つい出てきちゃいましたね。(笑)
——唐田さんが演じられた朝子というキャラクターですが、彼女の取る行動に驚く人もいるかもしれません。唐田さんは朝子を演じてみてどういう女性だと感じましたか。
唐田:脚本を読んだ時から、朝子は自分に似ているなと思っていたので、私は朝子の取る行動に疑問を感じなかったんです。友達といる時の佇まいとか、直感的に行動するところとか、自分の気持ちに嘘がないところとか、自分とよく似ていると思います。
東出:今の話で、監督が「僕らの演出の大部分はキャスティングの段階でほとんど終わっている」と仰っていたことを今思い出しました。
——監督はそのことを見抜いていたということですね。東出さんは今回の二役のどちらに似ているとご自身で思いますか。
東出:愛想とか遠慮がない部分は麦に近いですね。なので、亮平は偉いなと思いつつ、自分も気をつけないとなと思ってます。(笑) 現場でも麦っぽいよねってよく言われました。
東出「撮影で初めて3.11を体験した」
——本作には東日本大震災絡みのエピソードもあります。亮平と朝子が東北にボランティアに行くシーンなどは実際に宮城県の名取市でロケされたそうですが、なにか思うところはありましたか。
唐田:私は、向こうで元気をいただきました。きっとそれは朝子も亮平も同じだと思うんです。みなさんすごく楽しそうで、一丸となって頑張っているのを直に感じられたのは忘れられない体験になりました。
東出:僕は仕事でもプライベートでも被災地に行かせていただいたことがあるんですが、今回は東北でドキュメンタリー映画を作り、現地で心血注いでおられる濱口監督に、連れて行ってもらって、お芝居ができたことは役者として本当に嬉しかったです。
作中の台詞で「こんなもんでもないと、そのうち誰も来なくなる」というのがありますけど、時間とともに人は忘れていってしまう部分があるので、朝子と亮平がああして東北とつながりを持ち続けていることは、僕はすごく好きです。
——映画には3.11当日のシーンも出てきます。お二人はあの日、何をされていたか覚えていらっしゃいますか。
唐田:当時私は中学一年だったのですが、その日は姉の卒業式の日でした。自転車で下校中だったんですが、すごい揺れでビックリしました。最初は風で自分の身体が揺れてるのかと思ったくらい。とりあえず広いところに行こうと思って、コンビニの広い駐車場の真ん中に何時間も座ってました。携帯もつながらないし、どうしようと思いましたね。
東出:僕は旅行中でペルーにいました。宿泊所の部屋にいたら、廊下からラジオの音で「Tsunami」と聞こえて、「へえ、海外でも津波って言うんだな」なんて思ってたらその後「Japón」と聞こえてきて、「え、日本!?」と驚きました。
ですので、僕は今回の撮影で3.11を初めて体験したんです。撮影現場で、本当にこんな感じだったんですかって聞きました。
——実際に体験してみていかがでしたか。
東出:演じてみて自分でもビックリしたのは、震災の日に街中で朝子を見つけた時、怒りみたいな感情が湧いてきたことです。誰か特定の人に対しての怒りじゃなく、天災のようなどうしようもない理不尽に対する怒りが芝居の中から生まれてきたんですよね。
いろんな解釈で楽しんでほしい
——カンヌ国際映画祭に参加されて、現地の観客と一緒に映画をご覧になったんですよね。観客の反応はいかがでしたか。
唐田:シリアスなシーンだと思っていたところで笑いが起きたりするので、そういうシーンの印象が私の中でも多様になって面白かったです。
東出:海外の記者の方は、フラットに自分の感想を述べてから質問してくださる方が多いので、いろいろな見方を聞けたのは嬉しかったですね。
作中に出てくる料理のカレーとラタトゥイユは、麦と亮平のメタファーなのかとか。ほかにも、この映画は和製ホラー映画なのかとか。監督はそれに対して、「愛とはある意味で狂気なので、そういう解釈もおかしくない」と仰っていて、面白いなと思いましたね。
——映画も愛も解釈はそれぞれですね。この映画は多面的な見方ができるところが面白いと思います。
東出:人を好きになることは、他者から見たら良いも悪いもないですよね。だからこの映画にも十人十色の意見を持っていただきたいです。
唐田:この映画を観てくださった方それぞれに、朝子の行動に対して思うことは違うと思います。もしかしたら背中を押される人や、素直になれる人もいるかもしれないと思うんです。この映画を観たみなさんにも自分の気持ちを殺さずいてほしいなと思います。