次世代の液晶テレビとして、有機ELや超高精細テレビの4Kや8Kをめぐる日中韓の開発競争が繰り広げられています。しかしそのもう一方の流れとしてあるのが、アップルの噂のiTVです。こちらは、噂だけはずいぶん前から流れているもののいまだに発表がありません。
ところが日経Tech-On!が取り上げたのが中国発の「スーパーテレビ」。まるでアップルのiTVはきっとこうだろうと思わせるテレビです。売り出すのは、家電メーカーではなく、中国のインターネット動画サイトの「楽視網」です。おそらくスマートTV市場を創造し、また牽引し、主導権を握るのは、家電メーカーではないだろうと書いたことがありますが、その歴史を拓く第一歩を感じさせます。
記事によると、ハードは、Qualcomm社の世界最速チップを世界で初めて搭載、液晶パネルは最先端のシャープ製というのでおそらくIGZOでしょう。リモコンもジェスチャ対応、体感センサ付きです。当然、自宅のPCやスマートフォン、またタブレットPCなどとホームネットワークで同期させることができるようです。
組み立ては、世界最大の製造受託工場(EMS)で、iPhoneの最大の製造工場のフォックスコンです。価格は60インチの「X60型」が11万円強ですから決して高くはありません。スーパーテレビのサイトを見ると、まるでアップルTVを思わせるセットボックスタイプもあるようです。
発表後にシャープ中国は突然、スーパーテレビの開発に「シャープは参加していない」という声明を発表したそうですが、なにが起こったのでしょう。
それよりも注目したいのは、ハードで儲けるのではなく、「楽視網」のもつ膨大なテレビ番組や映画を活用し、またアプリ開発会社を巻き込んで「コンテンツ視聴料金+広告+アプリ」で収益を得ようとするビジネスモデルだというのです。スマートフォンなどと同じビジネス・モデルをテレビに持ち込んでいます。
この記事では、中国ではインターネットとテレビの接続が果たしてどれくらい広がるのかが懸念材料だとしていることと、「楽視網」が持っているコンテンツは中国のものなので、中国以外にはこのビジネス・モデルを持ち込めないことだとしていますが、果たしてどうなるのでしょうか。「楽視網」以外の企業からも、一気にスマートTVへのチャレンジが始まるかもしれません。
注目したいのが、家電ではなくネット企業の「楽視網」が開発したということと、「テレビの再定義」をしたと「楽視網」が標榜していることです。
面白くなってきました。ひたすら技術を追求すればおのずとそれが新しい世界を拓くと考える日本型の「イノベーション観」、そしてその典型である4Kや8Kと、テレビならテレビを定義しなおす、新しい使い方や楽しみ方を広げる、またビジネス・モデルを今ある新しい技術を組み合わて変える「リ・インベンション(再発明)」こそが新しい世界を拓くという考え方の対照的な事例がでてきたからです。
さあ、どちらが次世代TVの王道なのでしょうか。
もし皆さまが次にテレビを買い替えるとしたら、超高精細画質を追求した4Kや8Kを選ぶでしょうか、はたまた放送番組だけでなく、さまざまな動画やアプリを楽しめるテレビを選ぶでしょうか。
(※この記事は、2013年6月27日の「大西 宏のマーケティング・エッセンス」から転載しました)