外野席をやきもきさせましたが、先週末、鴻海が正式に契約調印しシャープ買収が成立しました。先のことはわからないのがビジネスの世界ですが、成功する可能性を秘めた資本提携だけによかったのではないでしょうか。これでシャープはいい製品さえつくれば売れるという楽観的な「モノづくり神話」の病から抜け出せるのではないかと思えます。
外国資本に日本企業が乗っ取られて無念だといった認識の方もいらっしゃるかもしれませんが、もうそういう時代ではありません。すでに日本の株式市場の取引の60%超を外国人投資家が占め、しかも売買だけでなく、上場企業の外国人株式保有比率は31.7%(2014年度)に達している時代です。
そして鴻海も、シャープもグローバルな市場でポジションを得なければ生きていけない企業なので、本社がどこにあるのかは別ですが、資本や指揮官がどの国籍なのかは関係ありません。そして、鴻海は、売却したシャープ本社をニトリから買い戻す意向を示しており、買い戻せなければ隣にビルを建てるとまで言っているのだから、シャープにとって、また税収が見込める大阪にとっては格別の配慮です。
大阪のUSJは今では大阪に欠かせない存在ですが、資本も指揮官も第三セクターからゴールドマンサックスに移り、また昨年にはユニバーサル・スタジオを傘下に持つコムキャストがUSJの発行済み株式数の51%を1830億円で買収しています。投資も進み、USJはまさに絶好調が続いています。
鴻海は、上流と下流しか利益がでないスマイルカーブの世界で、もっとも利益のでない中流の製造に特化して成長した企業です。
その鴻海が、製造よりはうまくいけば利益の出る、さらに上流の部品、つまり有機ELや、IGZOの液晶パネル分野に進出したいと考えるのも自然です。競争相手として狙いをサムスンを追い抜くことに定めているとすればなおさらでしょう。しかし鴻海に不足しているのは開発力、またそれを支える技術です。それはシャープの現場が持っています。郭台銘会長もそう考えていると記者会見で語っています。
強みについて語りたい。シャープのDNAの中には研究開発重視あるいは技術重視がある。弊社は研究開発をサポートするほか、迅速に製品化したり、コスト効率を高めたりするところに強みをもっている。両社は補完的な関係にあると考えている。
これは買収でなく、出資投資案件だ。鴻海もシャープもそれぞれ存続するが、シャープの大株主が鴻海になる。両社提携で、お互いの強みを活用して業務を進めていきたいと思っている。
シャープは、残念なことに競争の「戦略」が恐ろしいほど抜け落ちていた会社です。鴻海は、シャープのように設備投資を行い、製造すれば売れると考え、ある意味では無謀な博打を続け、敗北した会社です。一方の鴻海は戦略が描ける企業で、しかも投資する力もある会社です。シャープの現場が期待しているように、おそらくその相乗効果がでてくるのではないでしょうか。
一部のネットのなかで、鴻海は中国寄りでシャープが買収されれば、日本の技術が中国に流出するという懸念を持っている人を見受けますが、どこの企業オーナーが自らの企業グループの不利益となることをするのでしょうか。それに技術の流出は、人材の流出、日本との部品や素材、製造設備の売買からも起こるので、いくら工場をブラックボックス化しても起こってくる問題です。
シャープの再建を期待したいものです。なぜなら、その時には、日本の家電がなぜグローバル市場で敗北したのか、未だに官僚やマスコミが旗を振っている「モノづくり」への度を過ぎた執着、過去の勝ちパターンにしがみつくことが、いかに日本にとって危険な発想なのかが見えてきそうだからです。
(2016年4月4日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)