田中将大投手の話題が絶えません。ヤンキースと7年で総額1億5500万ドル(約161億円)の大型契約を結んだことに世間は驚きました。初年の年俸が2,200万ドル(22億4,400万円)。凄いですね。まさにアメリカン・ドリームです。しかし驚くことはありません。それよりも目を向けるべきは、日本のプロ野球の収入の少なさや選手年俸の安さのほうなのです。
まず、日本のプロ野球のビジネスがどうかの前に、ざっと世界の頂点に立っているスポーツ選手の年収について見てみます。
それについては、フォーブスは毎年スポーツ選手の年収を推定し長者番付ベスト100を公表しています。
フォーブスの2013年のスポーツ選手長者番付で、メジャーリーグの選手でコマーシャル契約などを含めた年収でもっとも多いのは、田中投手が行くヤンキースのアレックス・ロドリゲス選手です。その年収が3,030万ドル(およそ31億円)となっています。いやはや大変な収入だということですが、しかし、それでもスポーツ選手長者番付ではなんと18位にすぎません。
フォーブスの長者番付の30位以内に入っている選手のスポーツ種目別に見ると、プロ野球ではロドリゲス選手ひとりです。バスケットボール8名、アメリカンフットボール6名、テニス4名、サッカー3名、ゴルフ3名、ボクシング2名、モータースポーツ2名、クリケット1名、野球1名と野球より他のスポーツのほうが成功すれば高い年収を稼げます。
ちなみにスポーツ選手長者番付で日本人で唯一ベスト100位に入っているのがあのイチロー選手ですが、イチローをもってしても77位です。
つぎに米国のメジャーリーグと日本のプロ野球球団が支払っている年俸合計を比べてみましょう。メジャーリーグは31球団があり、各球団の年俸合計の平均が、およそ110億1600万円です、日本のプロ野球12球団はの年俸合計の平均はおよそ22億6000万円で、なんと5分の1程度しかありません。
田中投手の年俸が5倍強になるというのも、それからすれば驚くことではありません。それよりも、田中投手ひとりの契約年俸を、球団で上回るのは巨人、中日、ソフトバンク、阪神の4球団だけで、それ以外の球団はチーム全体で田中投手ひとりの年俸を下回っているのです。
ちなみに、日本で年俸合計がもっとも高い読売巨人軍は昨年は38億1,600万円でしたが、ヤンキースは241億7,600万円と桁違いです。メジャーリーグでもっとも年俸合計が低いアウトロズで29億8556億円をようやく上回るに過ぎないのです。
つまり、この年俸格差では、日本のプロ野球球団はメジャーリーグ選手養成機関でしかなくなって当然でしょうし、また田中投手から始まった新しいポスティングシステムは、日本の球団がメジャーリーグの狩場になっていくことを予感させます。
その原因は、プロスポーツチームの収入格差です。やはりフォーブスがスポーツチームのランキングを公表しています。トップはスペインのレアル・マドリードで6億5000万ドル(663億円)、2位にやはりスペインのFCバルセロナの6億1300万ドル(625億円)、3位がアメリカンフットボールのダラス・カウボーイズで5億3900万ドル(550億円)、さらに英国のプレミアムリーグのマンチェスター・ユナイテッドFC5億200万ドル(51億円)が続き、ヤンキースは第5位で4億7100万ドル(480億円)となっています。
日本のプロ野球では、一昨年でソフトバンクが247億円、読売ジャイアンツが218億円、阪神タイガースが200億円で、最下位の横浜ベイスターズが55億円だったそうですが、やはり海外のプロスポーツチームと比べると収入がかなり見劣りします。
いくらGDPや人口を加味しても、日本のプロ野球球団は売上高も低く、選手に支払える年俸も低すぎます。つまりビジネスに失敗しているのです。とくに米国のメジャーリーグと日本のプロ野球の格差がこれだけ広がったのはここ10年だそうです。
それぞれの球団がバラバラに経営を行い、プロ野球そのもののファン拡大や市場の育成を行う仕組みになっていないツケが回ってきているのでしょう。球団がそれぞれのオーナー会社の広告手段にすぎず、野球そのもののビジネスを育てるという視点が欠けていたことが日米のプロ野球球団のビジネス格差、また海外のトップのプロスポーツチームとの格差につながったとしか考えられません。
日本のサービス産業は伸びているとはいえ、先進国と比べればまだまだ経済のサービス化では見劣りがすること、また老人が支配し、改革を阻み、産業が停滞してしまっているという点でも日本のプロ野球は、日本経済の病巣の縮図に見えてきます。
(この記事は2014年1月27日の「大西 宏のマーケティング・エッセンス」からの転載です)