阪急阪神ホテルズの出崎社長が記者会見で、謝罪する誠意や、真摯な反省の気持ちを伝えることに完全に失敗し、「誤表示」にこだわる説明ばかりが報道でクローズアップされてしまいました。少なくとも報道された映像を見る限り、出崎社長からは、顧客に対して謝罪する気持ち、真摯な反省の思いみたいなものが感じられず、慎重に言葉を選んで説明する事務的な態度を感じてしまいます。
報道は美味しい部分を、報道に都合のいいシーンを切り取って編集して流すものということを割り引いても、あの記者会見はまずかったのではないでしょうか。
なぜ最初から社長がでて記者会見をしなかったのかも不思議ですが、社長記者会見がさらに不信感を広げる悪いループにはまってしまったようです。
今回の問題児は「誤表示」です。食材の魅力をメニューで訴求し、しかし実際には安い食材をつかうということが長年、数多くのメニュー、また阪急阪神ホテルズの23のレストランにまで広がっていた全体の構図を見れば、レストラン部門全体、あるいは会社そのものが確信犯だったと誰もが思います。それは「偽装」そのものではないかと思うのが普通の感覚でしょう。
それを否定されると、それで生じる違和感や驚きでさらに関心が深まり、報道を加熱させ、また今日なら「誤表示」が「バズワード」となってネットで拡散していくことは想定していなかったのでしょうか。
ツイッターで「誤表示 ホテル」を検索すると、ほんとうにたくさんのツイートがでてきます。関係各位はぜひご覧になって世間の風向きを読めばと思いますね。
ちなみに、グーグルの検索急上昇キーワードでも、「阪急阪神ホテルズ」が第6位にランクイン(2013年10月25日現在)していることでもこの問題への関心の深さが伺えます。誤表示はブランド中のブランドホテル「リッツカールトン」にまで飛び火している状態です。
もし「偽装」を否定するなら、もっと説得力のある、心に響く大逆転劇が必要だったはずです。
今回の社長記者会見は、2007年につぎつぎに発覚した船場吉兆の食品偽装などの不祥事の際に行われた記者会見を思い起こしてしまいます。記者から質問されるたびに、社長の横から女将が囁いてアドバイスする画像が、「船場吉兆」の不祥事をことさら面白おかしく注目を集めた構図に似ています。間違いなく答えようとしたことがさらに火に油を注ぐ結果を生んだのです。
もうひとつ、自分たちで考えたのか、あるいは外部から危機管理のアドバイスを受けたのかはわかりませんが、非常にまずいのは、現場の従業員の理解の不足や、意思疎通の悪さが原因だったとしていることです。これはいかがなものでしょうか。
それを見抜けない経営者は、あるいは現場責任者はホテルマンとしての資質を疑わせます。いやそうではなく、ホテルほど毎日のようにさまざまな問題が現場で起こっているところはありません。その現場のトップや会社のトップが現場で起こっているさまざまな「事件」を知らないということは想像しかねます。真実の瞬間は現場にあるということぐらいは身に染みているはずです。
出崎社長は、昨年社長に就任され二年目に災難に見舞われたことになりますが、経歴を見れば、07年に取締役、11年に常務、阪急阪神ホテルズ取締役専務執行役員となっておられるので、知らぬ存ぜぬ、現場のミスだでは済まされるわけがありません。
しかし、前回の記者会見、とくに今回の社長記者会見では、どうも当事者というよりは、他人ごとと感じさせるものがありました。それが更に世間の怒りとなってきているようにも思われるのですが、もしかすると、現場に「偽装」なり「誤表示」の圧力や指示をしていた首謀者が別にいて、出崎社長にもどうしようもなかったことだったのかもしれません。
出崎社長は当面の間、20%の報酬減額という処分ですが、起こった出来事からすれば軽すぎ、役員10人も社内処分で、親会社の阪急阪神ホールディングスの角社長が役員報酬の50%を自主的に返上するということも違和感がありますが、この事案はあまりにも不思議なことが多く、マスコミや世間の人たちが腑に落ちないままの状態に置いておくことは最悪としかいいようがありません。
(この記事は2013年10月25日の「大西 宏のマーケティング・エッセンス」からの転載です)