阪急阪神ホテルズが、傘下のホテルなどのレストラン23店舗で、メニューと異なる食品表示を行っていたことを会社側から発表があり物議を醸しています。わかりやすく、呆れた話であり、ずいぶんテレビでも取り上げられています。
なかには、普通のネギを「九条ネギ」と表示したなど、すこしでも九条ねぎを知っている人からすれば、すぐにわかる表示をやっていたとは利用者を馬鹿にしたにもほどがあります。傘下のホテルやレストランに広範囲に広がっていたこと、また「手捏ねハンバーグ」と表示しながら既製品を使っていたり、ステーキは牛肉に牛脂を注入した加工品を使っていたことなどを考えると、会社と現場が一体となって行われていたグループぐるみの手口だったとか考えられあません。
阪急阪神ホテルズのブランドに大きな傷がついたことになりますが、なぜ阪急阪神ホテルズがこのタイミングで発表したかの経緯が気になります。会社側として、それが厳しい批判となり、大きな社会問題になることは想定していたはずです。にもかかわらず、自主的に発表したのはそれなりの覚悟をもって臨んだのでしょう。
もしこの不祥事の発覚が会社側の発表通りに、「今年6月に他社のホテルで同様の誤表示があったことを受け、社内調査を行った」(読売新聞関西版)結果、自主的に発表したすれば、まだ会社には自浄能力があったことになります。
もちろん内部告発制度などによって違法な行為を監視する仕組みをもたなかったこと、社内調査をしなければ事前に発覚せず、不正がグループ内に広がっていたことなどは、経営側の意識や体質に甘さがあったとしかいいようはないのですが、密かに食材の不正表記をやめさせるという選択肢もあったはずです。
考えられるのは、経営側がどれだけ損失があっても、素直に謝罪しなければグループの将来によくないと判断したか、また経営側が公表しなければ改善しそうにない社内体質が根深くあったか、下衆の勘ぐりと言われそうですが、もっとも普通に考えられるのは、公表せざるを得ない背景があったということです。
たとえば問題を嗅ぎつけなんらかの恐喝があったとか、取引業者なり、内部で会社側に不満をもった人からのリークを押さえられなくなったかです。この不祥事を義憤にかられて報道するのも結構ですが、そのあたりの報道のつっこみの弱さを感じてしまいます。
阪急阪神ホテルズのは、もともと関西の地元では、それぞれのホテルに入っている専門店は別にして、直営のレストランがさほど評価が高かったという印象を受けません。利用者側の舌が肥えてきたなかでは、むしろ厳しい評価もあったかに思います。試しに、レストランを評価を集めているサイトなどをご覧になれば、さほど高い評価を受けていないことがわかります。評価されているとすればスイーツでしょうか。
そのスイーツも、人気があるといえば、宝塚ホテルのバウムクーヘンです。高速のサービスエリアでも売られていていますが、人気があるのは、土産物としてブランドがついているからではないでしょうか。実際に試すと他のブランドのバウムクーヘンと比べるとさほど美味しいと思えず、それ以降に購入したこともありません。
食材にこだわり、人気がでているレストランや飲食店が増えてきているなかで、残念な出来事ですが、このままでは、起業家としてもっと高い評価を受けていいと思う阪急の創業者小林一三の顔に泥を塗ったことになります。小林一三は、夢を創造しつづけた起業家というだけでなく、文化人でもありました。
阪急阪神ホテルズにかぎらず、阪急阪神グループも、もういちど創業の精神に戻っていただきたいものです。映画「阪急電車 片道15分の奇跡」は鉄道、またホテルをめぐって物語が展開されますが、鉄道やホテル、またレストランは生活者の夢やドラマを生み出す産業のはずです。夢やドラマを壊すことだけはやってはいけません。
ついでに言えば、またダメ虎に戻ってしまった阪神タイガースをなんとかしてもらえないものかと願う地元ファンの期待にも応えてもらいたいものです。
(この記事は2013年10月23日の「大西 宏のマーケティング・エッセンス」からの転載です)