もうマクドナルドの業績不振と言っても、なんの目新しさもなくなってしまいましたが、いやはや、ここまで酷いのかと驚く数字が発表されていました。日本マクドナルドの8月の月次セールスレポートのページを開いて見ると、なんと昨年と比べ、全店売上高-25.7%、既存店売上高-25.1%、客数-16.9%、客単価-9.8%の結果で、急降下状態です。マクドナルドのカサノバCEOが就任され一年が経ちましたが厳しい現実をつきつけられました。
仕入れ先だった上海福喜食品が期限切れの鶏肉を加工していたとされる問題の影響が大きかったことはいうまでもないことですが、はたしてそれだけが原因でしょうか。
上海福喜食品への「潜入取材」を上海テレビが放送したのは7月20日です。しかし月次セールスレポートの推移を見ると、すでに失速は6月から始まっています。
これこそ「弱り目にたたり目」で、もともとうまくいっていなかったマクドナルドに追い打ちがかかったということでしょう。
もうひとつの衝撃的とも思える販売結果の違いはマクドナルド内部でも起こっています。マクドナルドの全世界の8月の月次販売結果は、既存店売上高が-3.7%、米国-2.8%、欧州-0.7%と、上海福喜食品問題の影響はあったとしてもごくわずかでした。
さらに対照的だったのは、ケンタッキーフライドチキンでした。KFCの月次情報で直営店の実績を見ると、おおむね好調に推移しており、確かに8月にはいって、直営店舗の既存店売上高が-1.4%、客数が-1.3%となっているものの、ほとんど影響が見られません。それもそのはずです。KFCも上海福喜食品の加工鶏肉を使っていたのですが、それはあくまで海外で、日本は国産鶏肉にこだわっていたからです。
つまりこういうことでしょう。デフレ型のトレンドからの消費者心理の変化に対応できず、マクドナルドに顧客を惹きつける「価値」が怪しくなっていたところに、コンビニとの競合の激流に巻き込まれてしまったことがまずあり、そこに食の安全にナーバスな日本の消費者が上海福喜食品問題に敏感に反応したということでしょう。
カサノバ新CEOは就任されてからのマクドナルドを見ていると、新メニューをつぎつぎ投入し、またファミリー路線強化をはかるなど、経営の立て直しには頭がさがるほど積極的、また精力的だったと思います。
興味があったのは、いかに良くない戦略でも頑張れば業績を上げることができるのか、いや戦略が間違っていれば、いかに頑張っても結果はでないのかでした。
しかし、既存店売上高で前年をクリアしたのは今年の1月だけです。つまりいかに積極的、また精力的であっても、日本市場にはフィットしない、間違った路線をつっぱしってきた、だから成果も出せないままに来たという結論だと見てもよさそうです。
カサノバ新CEOは、かつては成功したマクドナルドの「強み」がもうすでにほころんできていたにもかかわらず、そのほころびを繕い、マクドナルドの「強み」を取り戻すことにエネルギーを注いできたのではなかったかと感じます。
しかし、マクドナルドに必要だったのは、マクドナルドのシステムや価値観の日本の消費者への押し付けではなく、日本の消費者に共感され、魅力を感じてもらう「新しい価値」の提供だったはずですが、そのような大きな戦略転換はまだ見られません。
それこそいっそ、100%国産の素材に切り替えるぐらいの覚悟が必要なのでしょうが、それをマクドナルド本社が理解し、決断するかどうかは怪しいところです。
これまでの「強み」つまり「競争優位」があっという間に崩れる、そんな時代感覚をもつこと、また「競争優位の終焉」を見極めることがいかに重要であり、しかし難しいかをマクドナルドの失速は物語っているのではないでしょうか。
(2014年9月10日「大西宏のマーケティングエッセンス」より転載)