昨年1年間に我が国を訪れた外国人は、初めて1000万人を突破しました。
平成15年、政府は訪日観光客を増やそうと「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を開始し、平成22年までに1000万人達成を目指していましたが、リーマンショックや東日本大震災などの影響で客足は伸びず、達成が3年遅れてしまいました。
昨年、初めて1000万人を突破した背景には、政府のPR効果やビザ発給の要件緩和に加え、金融緩和によって円安が進行したことなどがあげられます。
我が国を訪れる外国人が増えるということは経済効果もさることながら、日本ファンを増やすことにもつながり、その波及効果は計り知れないものがあります。今後、政府は平成32年を念頭に、訪日観光客数2000万人を掲げていますが、目標達成に向けて官民一体となった取り組みが必要であることは言うまでもありません。
しかしながら、1000万人突破を果たしたとはいえ、世界的に見るとまだまだ努力の余地があるといえます。
1位のフランスは8000万人強、2位の米国は6000万人強、以下、中国、スペイン、イタリア、トルコ、ドイツ、英国、ロシア、マレーシアが世界のトップ10です。日本は世界で33位、アジアで8位と、豊富な観光資源を生かしきれているとはとうてい思えません。
かつて、我が国は製造業を基幹とした加工貿易立国として発展してきましたが、生産拠点の海外移転などが進み、産業構造が大きく変化しています。円安が進んでも輸出額が期待通りに伸びないのは、すでに貿易だけでは収入を増やすことはできないということを物語っています。以前は「一人勝ち」ともいえるほど膨大な貿易黒字を計上していましたが、今では毎月赤字が続き、しかも赤字額は大きくなるばかりです。そのような状況下、訪日観光客数を倍増させるという計画は国益にかなっているといえます。
また、訪日観光客が増えるということは、日本人の生活スタイルへの理解が進むということでもあります。歴史的な名所旧跡や風光明媚なスポットに足を運んでもらうだけではなく、和食、日本酒、温泉など日本独自の文化をPRすることも大切です。さらに交通インフラ、医療機関、都市の清潔さ、マナーや治安の良さなど、外国人の目に魅力的に映るものは無数にあるはずです。それらを磨いてさらなるレベルアップを図り、外国の方々に知ってもらうことは、政治的にも経済的にもきわめて重要だと思います。
ただ、そのためにはそれ相応の努力が必要であることは当然でしょう。
観光庁が平成23年に行った調査では、外国人が日本で感じる不便さについて「英語などコミュニケーションの不足」「無料公衆無線LANの環境」「交通の経路情報の入手」などがあげられました。その他にも改善すべき点はたくさんあります。
ひとつひとつの課題に対し、官民あげて真剣に取り組む。それができて初めて、目標達成の果実を手にすることができるのではないでしょうか。
(2014年01月28日の「中田宏のオピニオン」より転載)