12月8日に宜野湾市の佐喜眞市長と沖縄選出の島尻参議院議員(沖縄担当大臣)が菅官房長官と会談し、普天間基地などの返還後のディズニーリゾート誘致に政府の全面協力を要請した。
ディズニーは民間施設であり、その運営に政府は関与しない。
にもかかわらず、政府への要請という形をとったのは、選挙を控える佐喜眞氏、島尻氏が政権中枢の菅氏との太いパイプを強調したかったためである。
このニュースは、テレビやネットを駆け巡ったが、芸能人からのコメントは手厳しかった。
ダウンタウンの松本人志は、「偽物のニンジンをぶら下げただけ」、(アメリカの基地の後に)「『結局、アメリカかい!』という話になりますよ」と嘲り、爆笑問題の太田光は「弱みにつけこんできた」、「足下を見やがって」と噛みついた。(ハフィントンポスト、沖縄タイムス・プラス)(12/9)
実は、沖縄へのディズニー誘致案には大きな誤解がある。
いま語られている構想はテーマパークではなく、ホテルの誘致に過ぎない。
しかし、「ディズニー」という名前が出ただけで、あっという間に「ディズニーランドのテーマパーク」というイメージが連想される。
その雰囲気を煽るかのように、菅長官は「夢のある話だ」と語った。
しかも、誘致先は普天間基地ではなく、近隣の基地・キャンプ瑞慶覧の一画である。
だが、あたかも、普天間基地の跡地にディズニーが進出するような幻想が生まれた。
12月9日付JCASTニュースの「沖縄普天間跡地にディズニーランド」という見出しは、その一例である。
このような誤解は、振付師・菅氏の狙い通りであろう。
沖縄の関係者の多くは、このディズニー騒動には冷ややかだ。
当のディズニーリゾートの運営会社であるオリエンタルランドの反応も素っ気ない。
佐喜眞市長や政府関係者は、オリエンタルランドが「前向き」だとしているが、同社の12月9日付ニュースリリースは「現時点で対応方針など決定している事実は一切ありません」と述べるにとどめた。
だが、若者にはディズニーは絶大な人気があり、菅氏や佐喜眞氏にとって、話題が沸騰するだけで十分である。
1月24日の宜野湾市長選挙は「普天間・辺野古問題」のゆくえを左右する一大決選である。
そのため、翁長知事と安倍政権の両陣営は、ともに必死だ。
翁長陣営は、強力な革新基盤に加えて一部保守系を取り込む。
圧勝しても不思議ではない。
ただ、同陣営の志村候補は地味な人柄で、演説も迫力がない。
「オール沖縄」で辺野古阻止を唱える以外、目玉となる政策もあまり見当たらない。
安倍政権は、やや不利とされた佐喜眞候補を支援するため、次々とカードを切ってきた。
ディズニー誘致構想の他、普天間基地の東側の一部などの返還を前倒しした。
また、今春に返還された西普天間住宅地(キャンプ瑞慶覧の一部)を、国際医療拠点にするための予算を10億円計上している。
さらに、公明党沖縄県本部が佐喜眞候補の推薦を決定している(12/14)。
背景には、自民党が軽減税率問題で公明党案を丸呑みし、自公の選挙協力体制が固まったことがある。
沖縄県の創価学会婦人部が辺野古移設に反対してはいるが、公明党の推薦は佐喜眞氏にとって追い風であろう。
先行していた志村候補を佐喜眞候補が追い上げ、今や選挙情勢は五分五分と観測する人が多い。
しかし、安倍政権が打ち出す選挙対策が露骨であるため、市民の反発を招いているのも事実である。
加えて、辺野古反対の「翁長知事のスタンス」が振興予算の確保に影響しそうだとする島尻沖縄担当大臣の発言(12月15日記者会見)は、翁長知事への脅しと受けとめられ、激しく非難された。
基地問題と沖縄振興予算はリンクさせないというのが、政府の表向きの立場だからだ。
島尻氏はつい本音を漏らし、地雷を踏んだのだ。
宜野湾市民の中には、辺野古移設への反発と、普天間基地の危険性との板挟みに会い、誰に投票すべきか揺れ動いている人も多い。
地縁・血縁に利権がからみ、ドロドロと思惑のうごめく選挙戦になることだけは間違いない。