10月30日、人口約5万人の地方都市であるコトカ市の中心から、車で20分程行った、ランギンコスキ(Langinkoski)中学校に行きました。
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ランギンコスキ中学校は450人。アメリカ等と同様に、教科に合わせて生徒が移動する方式です。
日本とほとんど変わらない学科を学べますが、数学と英語については、できる子のクラス、普通のクラス、標準に達していないクラスに分かれていますが、そのクラス選択を生徒自身が行うそうです。これは少し驚きました。
「生徒が実力に合わないクラス選択をした場合はどうするのか」と聞くと、「教師がアドバイスをして、変更を検討することを勧める」と仰っていました。
僕たちが最初にみせてもらったのは中学二年生の数学の標準クラス。生徒数は17人。メイン教師に、サポートの教師がついています。最大でもクラスは20人です。
30から40人のクラス編成に先生が一人というのが標準的な日本の教育システムに比べると、圧倒的に少人数の体制です。
授業はメイン教師が書画カメラを使って、教科書と手元のノートを映しだし、書きながら進めます。
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黒板は全く使っていません。理由は分かりませんが、消す時間が節約できるし、文字の大きさも大きくて分かりやすいと思いました。
基本的には応答的に進められ、生徒は特に恥ずかしがることもなく手をあげ、あてられると答えます。
累乗計算などでは電卓の使用も認められます。
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演習の時間では、まず問題を解かせ、メイン講師のパソコンに答えを表示させておき、解けた生徒から答え合わせを勝手にしていました。
特に競い合っているというより、個別のスピードに合わせて演習と答え合わせを自律的に行っている、という印象です。
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また次に学習障害(or問題行動)のあるグレーゾーンの子ども達のための、特別教育クラスを見学しました。特別教育クラスは、週五日で全教科を行います。僕たちが最初に見学した時の教科は、フィンランド語でした。
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ちなみに日本では、知的障害のある子どもの場合は、特別支援学級や特別支援学校が受け入れ先としてはありますが、グレーゾーンの子達の特別なクラス等はなく、通常学級に参加している場合が多いです。そしてそこで勉強についていくことができず、不登校やいじめに繋がっている場合も多々あるようです。
九人の生徒をメイン講師のシモ先生と、アシスタント教師で運営します。学年は六年生と七年生(中学一年生)の混合クラスです。
グレーゾーンの子ども達に関しては、小学校から中学校に卒業時に連絡があり、特別教育を受けられるように取り図られるようです。
授業の最初に家庭と学校との間の連絡帳の交換があります。学習進捗や家庭の様子をやり取しているみたいです。
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授業の内容は、架空のお話を作文するというもの。OHPとホワイトボードを使いながら進めます。
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パソコンは少し古いデル製のものが一つしかなく、「依頼しているのだが、まだ来ない。待ってるんだ」とシモ先生は仰ります。
一方、「教科書は七種類持ってて、生徒にとって一番良いものを選ぶんだ。教科書は何冊買っても良いのさ」と仰っていました。
学校ごとに一種類に限られている日本とは大きく違います。
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「日本ではグレーゾーンの子はなるべく普通学級に入れないと、モチベーションが下がる、という指摘がありますが、どう思いますか?」と聞くと、「うちの教室の生徒たちは、学校が大好きだよ。僕も彼らが大好きで、本当に一生懸命やってくれるんだ」と言い、学習困難を抱える子ども達の特別なクラスを編成することには、明確に肯定的でした。
九人の子ども達も積極的に手をあげ、教室は笑いが絶えません。隔離されている、という印象は全く受けませんでした。
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(↑サブ教師の女性がいて、フォローアップを行います)
次に、先生や生徒達と給食を一緒に食べました。ビュッフェ形式で、教師も同じ食堂で一緒に給食を食べていました。シモ先生は、先ほどの特別教育の子ども達と一緒に食べています。給食は生徒には無料で提供され、教師は1ユーロのみを支払うそうです。
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印象に残ったのが、生徒が当番で給食職員と共に、片付けを行っていたことでした。その他、掃除や備品修理なども当番制で参加し、それも教育の一環だ、とガイド役のタイナ先生は仰っていました。この辺りは、日本にも通じる感覚ですが、僕の行っていたアメリカの公立高校ではこういう仕組みはなかったように思います。
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さて、満腹になった後は、特別教育教室に戻りました。先ほどはフィンランド語でしたが、次は歴史の授業。中1と小6が混じっているので、2つのグループに分けます。3人の中1のグループをアシスタント講師が、6人の小6達をシモ先生が受け持ちます。
世界地図を見ながらコロンブスとヴァスコ・ダ・ガマのアメリカ「発見」とインド航路発見の話をしますが、先生が一方的に話すというより、「イタリアってどこ?」とか「アルゼンチンってどこ?」等先生が問いかけ、それに対し「ここだよ」というように子ども達が地図を指して応える、というようなやり取りがあります。
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また、年号を覚えろ、という感じではなく、「なんでアメリカに行きたかったのかな?」等問いかけて、冗談も交えながら進めます。
「アメリカ大陸にいた、ネイティブ・アメリカンを描いてみよう!」という先生の提案にこたえ、生徒達はそれぞれのネイティブ・アメリカンを描きながら、きゃっきゃっと楽しそうに笑います。
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学習障害を抱える生徒達は、教科書を持ってこないこともしばしば。何の授業があるか、覚えられないそうです。でも忘れた場合は隣の子に貸してもらえば良いので、ペアになって教科書を読みます。
その後、移民達のクラスを見ました。フィンランドはスウェーデン程ではないですが、難民の人道的受け入れをしているのと、通常の移民受け入れも行っています。その子ども達がスムーズにスウェーデン社会に溶け込めるよう、特別なクラスを設置しています。
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最初は全ての教科を移民クラスで取っていた子ども達も、習熟に従って通常クラスを選択していき、最終的には全ての教科を通常クラスにしていく、という流れです。
「子どもたちは、どこの国からの来ていますか?」と問うと、「ロシア、イラク、キューバ、各地の内戦国等、色々ね」という答え。
ガイド役のタイナ先生は言います。「保守的な人々は、移民達が生活保護目当てにやってきている、と言うが、そんなことはないわ。このたちはフィンランド人よりも一生懸命に学ぼうとするの」
ただ、生徒達の学力はバラバラで、最大20人の教室も「大きすぎる」と担任の先生はため息をつきます。
「生徒の中には、生まれてから難民キャンプにいて、学校に行ったことすら無い子もいるわ。そうした子達それぞれに教えていくためには、もっと少人数であるべき。あと、こうした移民クラスの量はフィンランド全体でもっともっと増やしていくべきよ」と仰っていました。
さて、地元新聞からも取材を受けました。インタビューワーとタイナ先生との話の中で言われた言葉が印象的でした。
「意外だわ。あなた方が保育や教育に予算をかけないなんて。40人クラスって、どうマネジメントしているのか想像できない。あんなにも優秀な技術を持っている国なのに、次世代に投資しないなんて・・・」
「ええ、残念なことに、過去しか見えてないんです。でも、我々の世代で変えていきますよ。そのためにここに来たのですから」
と、僕たちは答えました。
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(※この記事は2013年11月5日の「駒崎弘樹公式ブログ」より転載しました)