人財育成 − ニュースの定点観測(3)

今私は九州大学で、地域の将来ヴィジョンをデザインできる志の高い人材=「人財」を育てたいと考えて活動している。現場では実践力を伴った迫力ある人財に不足はない。しかし自治体や企業の熱意がなければこの有為な人財はこの地にとどまらないだろう。

宮城谷昌光の戦国名臣列伝「秦の商鞅」に次のようなくだりがある。

「想えば魏は天才を失い続けている。呉起を出奔させ、孫臏を逃し、公孫鞅を抜擢することができなかった。富強をはたしたという驕りは、人材の発掘をにぶらせ、観察眼をくもらせ、危機意識を払底し、改善の意欲を減退させた。人でも組織でも、現状に満足してそれを守ろうとした瞬間から、衰退がはじまると想ったほうがよい」。

紀元前中国の戦国時代、強国「魏」は驕りのゆえに呉起などの優れた人材を活かすことができず、たちまち秦に覇権を奪われてしまった。国の栄枯盛衰もそうだが、地域や企業の発展もその組織が人材の発掘と育成にどれだけ本気で取り組んでいるかにかかっている。

横浜で開かれた第5回アフリカ開発会議で安倍総理は、アフリカ諸国への支援の柱として人材育成を取り上げた。エジプトのカンディール首相はNHKのインタビューで人材育成の重要性を強調していたが、この点エジプトはムバラク政権時代から極めて熱心である。

日本はこれまでJICAを通じて「エジプト日本科学技術大学」プロジェクトを実現し、技術系の高度人材育成に大きく貢献した。なかでも九州大学は総括幹事校のひとつとして電子通信工学専攻を立ち上げるなど、プロジェクトの推進に大きな役割を果たしている。当時のJICA担当者は九州大学がもっともノリが良かったと語る。

地域や企業の人材育成は組織のトップの熱意が直接反映する世界である。逆に何もなければ、現場ではまっさきに予算を削られる世界でもある。孟嘗君は数千人もの食客をかかえていざというときに国の危難を救ったが、口先だけでなく真に有為な人材を確保し育てるには、トップはそれなりの負担を覚悟しなければならない。

今私は九州大学で、地域の将来ヴィジョンをデザインできる志の高い人材=「人財」を育てたいと考えて活動している。現場では実践力を伴った迫力ある人財に不足はない。しかし自治体や企業の熱意がなければこの有為な人財はこの地にとどまらないだろう。

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