■インターネット広告の限界が来ている
2011年にネット広告費は新聞広告費を上回りました。(6189億vs5990億・電通「日本の広告費」より)
そしてネット広告はその後も拡大を続け、13年には7203億になりました。(同新聞広告費6170億)
ネット広告は順調に成長を続けているように数字上は見えますが、大きな変化に直面しています。
その理由
1:ネットユーザー数、利用時間の限界値に来ている
2:スマホ経由利用の急増は広告収益の減少を招く
3:PVやCTR中心の広告効率主義による単価下落
特にいわゆるネット広告をオークション形式で自動取引する「運用型広告」の増加は13年度では4122億に達し、ネット広告費の60%を占めています。
これはサーチ広告やターゲティング広告等主に販促系マーケティングに活用されるネット広告の手法で、いわば成果報酬型の広告モデルです。究極的には「モノが売れて」初めて広告収益が発生するモデルは、消費者への広告表現やメディアブランドの心理効果をあまり価値化せず、広告主にはコスト効率的なモデルです。広告最終効果だけにコスト負担すればよい訳です。
しかし、それは右肩上がりのネット利用の拡大時期では通用しますが、ネットが日常の今、ネット広告が無視されはじめてもいます。アドテクノロジーの活用でターゲティングで追いかける広告も「ストーカー広告」とみなす心理が生まれています。
いわばネット広告はアドテクロジーをやみくもに使い回し、ユーザー無視の「焼畑農業」をしてしまっているのかもしれません。ブランドやユーザーを育てていない。
又、ネット広告の自動取引は24時間365日稼働して広告の差し替えをしますので、広告審査が追いつかず「不良広告」や「不良サイト」がユーザーの目に触れてしまう「広告の信頼性」「メディアの信頼性」の毀損を招く事件も発生しています。
現在、ネット広告はブランディング広告をあまり取り込めず、販売促進中心のプロモーション手法に広告主からポジションされる状況があります。その結果、13年も主にブランディングに利用される予約型広告の対前年伸張率は109%、運用型広告は122%となり、ネット広告の伸張は運用型が支えています。
運用型広告はオークション形式の自動取引であり、その収益はグーグルやヤフー等「プラットホーム」に集中する傾向があり、又アドネットワークプレヤーから運用型で広告配信を受けるメディア広告は、かなり自社販売より低収益なモデルです。現状のスマホアドは多くが運用型ですから、スマホ利用の拡大にメディア広告収益の拡大がリンクしない厳しい現実があります。このままではネット広告は縮小市場になりえます。
広告成長構造危機は新聞広告だけではありません。
■インターネット広告の脱皮に向けて
このネット広告の現状の構造的限界の突破に向けて、様々な新しい取組が内外のネット広告界で急速に進んでいます。それはグローバルで現在進行形です。
1:映像を取り込んだ動画ネット広告でテレビ予算を取り込みにゆく(テレビ+スマホのWスクリーン含め)
2:個々人の趣味趣向にあわせたユーザー理解をえたリコメンド広告による「土足でないターゲティング」
そして
3:ユーザーの興味関心を喚起するコンテンツ型広告で読者とのエンゲージメントを深め広告価値を向上
(これが広義の「ネイティブアド」です)
この背景には、先述の現行ネット広告手法に限界の顕在化と共に広告主にいわゆる「オウンドメディア=自社サイト」の「立ち枯れ」的な運用限界もあります。メディアコンテンツは常に新しい情報でリセットされフレッシュな状態ですが、一般企業が生活者の関心を常に喚起する「メディア運営」には限界があります。メディアは片手間ではできない。その為に生活者が常に利用する「メディア=ペイドメディア」や「ソーシャルメディア」に出店して人を自社サイトへ呼び込み、その中で顧客とのエンゲージメントを完結させるマーケティングがいります。今まではそれはサーチ広告やバナー広告がオウンドメディアへの集客の役割をはたしていましたが、サーチはすでに興味関心を持つ人へのプル型手法ですし、プッシュ型のバナー広告もスマホの普及で人々の目には一瞬しか止まらず、その役割が果たせない環境変化が起こっています。
生活者の情報利用の変化は高速になっています。あのLINEはわずか3年で5000万人の登録ユーザーを獲得し、ヤフーが十数年かけて築いたユーザー数を超えてしまう爆速時代です。広告が後追いです。
ネットユーザーはせっかちになってしまいましたが、
1:いかに便利なルートで欲しい情報を得るか
2:楽しいコンテンツや交流には時間を惜しまない
3:膨大な情報からいかに信頼できる情報を選ぶか
情報大洪水時代の中でそんな課題を抱く背景で、ネイティブアドに興味関心が高まっています。
「ネイティブアド」って何?
その定義には諸説ありますが、ざっくりいうとネット上での「記事体広告」です。もちろん映像も含みます。
「記事スタイル」だけでなく、メディアのコンテンツ表現の「フォーマット」に合わせる広告手法です。
ニュースコンテンツはネット上でもキラーコンテンツです。ヤフーの成長はヤフーニュースなしには語れません。ネット上では膨大なニュースが24時間流れてきます。ユーザーはそれを自分で収集する限界を超えています。その為にヤフーニュースや新聞サイトへいきます。最近はスマートニュースやグノシー等ニュース整理サイトも多くの利用を集めています。又、ツイッターやフェイスブック上では様々な識者が互いに自分の専門領域のニュースを紹介し、記者ツイッターや津田大介氏の様なフリージャーナリストの直接情報発信も伝播マグネチュードを拡大しています。若いネットユーザーも紙離れは顕著ですが、ニュース離れはありません。(興味関心の対象は様々ですが)
情報の整理役をユーザーが求めている環境で、そのポジションの激しい争奪戦がネット上で展開されている。その陣取り合戦の中に「マスメディア」もいます。情報の取材力、編集力、信頼力は比類ないですが。
又、コンテンツ型広告の視聴には、掲載するメディアへの滞留時間がある程度必要です。サーチエンジンのように秒速滞在では困難です。そこでコンテンツ力あるメディアに「コンテンツ型広告」は最適化します。(サーチ広告も検策モデルに合わせたコンテンツ広告の面もありますが)
ネット上での「記事体広告」型ネイティブアドは
1:信頼されるメディアブランドのスタイルに依存
2:ユーザーにとって有益な情報でないと無意味
3:ブランド価値をターゲットに確実に届ける
その為には「題字=メディアブランド」の持つブランド価値や機能を「借りる」ことが必要だが、記事とは明確に区分けし内容もより厳しく審査しないと広告主も掲載メディアもブランド毀損をおこします。
(JIAAと提携する米国インターネット広告団体のIABはネイティブアドのガイダンスを制定し広告主、広告会社、メディアに呼びかけている)
合わせて、今までのネット広告のPVやCTRによる広告価値測定でなく、消費者の心理にいかに響いたか等高度の効果測定によりメディアの有するブランド価値の広告価値化の仕組みが不可欠です。メディアの広告枠は「スペース+@」を持つものです。どの広告枠も均一な価値基準で扱うネット広告のアンシャンレジームは、かえってネット広告の限界を招きつつあります。又、メディアの社会的価値創造への努力に対する評価と比例するものでなければメディアが継続できず、それは社会の不安定に直結します。広告は当然広告主のビジネス成長への営為ですが、メディアのブランドの傘を借りる以上はメディアを真摯に評価して支える役割を一方で帯びています。ネイティブアドはそれをあらためて認識する契機になる可能性があります。広告は「メディア」「広告主」「生活者」の信頼のトライアングルが機能してその価値が最大化します。ネイティブアドは、信頼の仲介を通じて「題字」のブランドパワーを社会に再認識いただく絶好の機会と思います。但し「題字」が期待される機能が変化している現実も、この機会に直視する必要があるのではないでしょうか。「新題字」を目指す時代です。
JIAAでは2014年度より「ネイティブアド研究会」をスタートさせ、積極的に新しい時代の広告開拓、普及を進めてまいります。そこで、内外のネイティブアドの事例や米国IABのガイドブックなどの紹介も、先方の協力も得て推進して参ります。是非、積極的に(社)インターネット広告推進協議会活動に参加賜れば幸いです。詳しくはJIAAのホームページをご参照ください。
本稿は(社)日本新聞協会の発行する「NSK経営リポート2014年春号」に寄稿した原稿を一部加筆修正したものです。