オウム真理教の元幹部6人に対する死刑が7月26日、執行されました。そのうちの1人、広瀬健一死刑囚と私は一時期、同じ職場で働いていました。
東京・新宿にあった塾で、私も彼も講師として働いていました。どちらも数学と理科を担当していましたが、私はどちらかと言えば数学、彼はどちらかと言えば理科を担当していました。
とにかく真面目で純情な人でしたねえ。中3の女子に、「ねえ先生、キスしたことある?」なんてからかわれて、顔を真っ赤にしているような人でした。
一緒に働いたのは2年間ぐらいだったかな。私は中国に行くことになったので、彼とはそれきり会うことがありませんでした。
■「広瀬君、たいへんなことをしてしまったね」
私は中国から最終的に帰国し、さらにしばらくしてから、その塾にあいさつにいきました。すると他の先生が、「広瀬君、たいへんなことをしてしまったね」なんて言うのです。その時まで、私は彼がオウム真理教の一連の事件の容疑で逮捕されたとは気づいていませんでした。
なんでも、一時期からものすごく暗い感じになって、国語の先生に哲学書とかドストエフスキーの著作を大量に借りていたそうです。そしてある日のこと、思うところあって辞めたいといって退職したそうです。
その塾で開設されていた教室は中学3年生まででした。彼はその塾の出身者。英語のM先生は彼をとりわけかわいがっていました。私に対して「『早稲田高等学院に合格しました。入学します』と報告に来た時の笑顔が忘れられないんだよなあ」と、しんみりと語りました。
その後、調べたのですが、彼の家は裕福ではなく、かなり苦学したようです。考えてみれば、大学で実験系の道に進み、塾講師を兼任するのは、相当に大変だったはずです。
どうして道を間違えてしまったのか。真面目に考えすぎて、ちょっとした間違いがどんどん広がってしまったのか。宗教を志向するなら多くの人を救わねばならないのに、どうして多くの人の命を奪うことになってしまったのか。私にはよく分かりません。ただただ、悲しく思います。
「雑記:オウム・広瀬死刑囚との思い出...一時は同僚として働いていた、つらいなあ」から転載・加筆しました。