アベノミクスが、経済成長と財政再建という二つの目的を同時に達成することを目指していることは国民も知っている。
アベノミクスの三つの矢のうち、第二の矢は財政政策であり、それはとりわけ必要に応じて積極的、機動的に財政支出を行うことをうたっている。言い換えれば経済成長を促進するための財政政策である。一方、財政政策には、世界でも類例のない政府債務を抱える日本の財政を健全な形に再建する役割も期待される。安倍政権はこの二つを同時に達成すると標榜している。
経済成長を支える役割についてみると、デフレマインドに沈んだ経済をインフレマインドに活性化するという構造改革の過程では、成長を安定的に支えるために機動的に財政支出をする必要がある局面もあり、アベノミクスの第二の矢はこの面では確かに一定の役割を果たしてきた。
安倍政権は発足早々、2013年初めに20兆円の緊急経済対策を打ち、つづく大型年次予算、そして2013年秋には、翌年4月の消費税導入後の落ち込みを支える対策として5兆円、また2015年度には96兆円、2016年には96.7兆円という史上最大の予算、さらに2015年末に打ち出した「一億総活躍」戦略を支えるために、3.3兆円の補正予算を組んだ。こうした積極的な財政支出が、経済の落ち込みを防ぐ意味で一定の役割を果たしてきたことはそれなりに評価できる。
しかしその反面、財政政策のいまひとつの目的である財政再建の達成が困難になってきたことは否定できない。日本政府は2010年に財政再建計画を打ち出し、2020年までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)で財政均衡を達成することを国際公約した。
すなわち、2010年に基礎的財政収支でGDP比6.7%(SNAベースでは32兆円)であった赤字を、2015年度に3.3%(同16兆円)に半減し、2020年度には均衡または黒字を達成するという公約である。これは民主党の菅直人政権の時に発表された計画だが、自民党の安倍政権でもこの国際公約は踏襲している。
その計画で想定された軌道は、2014年度までは税収増と消費税率引き上げでギリギリ達成されたが、2015年秋に予定された第二次消費税率引き上げが延期されたために、2015年度には軌道をはずれることが懸念された。しかし、2015年度には大幅税収増のおかげでなんとか軌道を維持できた。2016年度も大幅税収増を見込んでいるが、そうした好条件はここまでで、それ以降は、残念ながら軌道をはずれ、2020年度に基礎的財政収支均衡を達成することは政府の試算でも困難になることが公表されている。
内閣府が2014年7月に発表した試算では、かつての予定どおり消費税を2015年10月に10%にしても、理想的な経済再生ケース(2013年〜22年度まで年率経済成長が実質2.0%、名目3.3%)でも、2020年に基礎的財政収支は-1.8%(-11兆円)、より現実に近いベースラインケース(実質1.3%、名目2.1%成長)では、2020年度には-1.9%(-16兆円)になる。
直近の2016年1月の試算では、経済再生ケースでも2020年度の収支は-1.1%(-6.5兆円)、ベースラインケースでは-2.3%(12.4兆円)になると予測されている。この数字は1年半前に比べ、税収増などを目一杯見込んで幾分改善されているが、2020年に財政再建目標を達成できないことは明白だ。
こうした見通しを見ると、アベノミクスの第二の矢は、財政再建という目標に関する限り、残念ながら失敗というほかはない。財政再建の公約が実現できないとなにが起きるのか。財政再建が実現できないということは国が借金を返済できないことを意味するから、市場の評価次第では日本の国債の価値が低落するおそれがある。利回りは債券価値の逆数だから、国債価値が下落すると金利が高騰する可能性がある。
日本の財政赤字はすでにGDPの2倍以上で、世界でも突出している。これまでは異常な低金利で財政赤字の増加も抑制されていたが、高金利になれば、政府債務は急激に膨張し、日本は財政破綻に陥るおそれもある。その危険を抑えるには、経済成長を飛躍的に高めるか、社会保障や公共投資をはじめ財政支出の構造を抜本的にスリム化する必要があるが、そうした構造改革にはほとんど手がつけられていない。時限爆弾の爆発が近づいているのに、政府に本格的な対応が見られなければ、国民はどうすれば良いのだろうか?